「磁力線」とは
世の中には目に見えるものから実在しないものまで、さまざまな「線」が存在します。「磁力線」は、どのような線なのでしょうか。
N極からS極へと流れる見えない線
「磁力線」は、磁力の強さや方向を表すために引く仮想の線です。磁石の周囲には、常にN極からS極へと流れる磁力が働いています。
例えば、棒磁石の周囲にいくつかの方位磁針を置くと、方位磁針の針は磁力の働きによって、それぞれの場所で決まった方向を指します。方位磁針のN極が示す方向が、磁力が流れる向きです。
棒磁石のN極から、方位磁針が示すN極を通り、棒磁石のS極へと向かって引く線を「磁力線」といいます。
磁力線は必ずN極から出発してゆるやかな弧を描き、S極へ到達します。このため途中で途切れたり、他の磁力線と交わったりしません。
磁石の力をおさらい
子どもに磁力線を説明するなら、磁石の性質も理解しておきましょう。磁力や磁界の基礎知識を紹介します。
「磁力」
「磁力」とは、磁石が鉄のような金属を引き寄せたり、同じ極同士を近付けると反発したりする力です。磁石の周囲には常に磁力が働いていて、途切れることがありません。
金属の壁に磁石をくっつけると手で引っ張るまで外れない性質は、子どもでも知っているでしょう。
また、同じ極同士が反発する力を利用すれば、物体を宙に浮かせることも可能です。磁石付きの収納用品やおもちゃなど、私たちの周囲にあるさまざまなアイテムも、この磁力を利用して作られています。
「磁界」
「磁界」とは、磁力が働く空間のことです。磁石の周囲には磁力が働くので、磁界も必ず発生します。ただし、磁力が働く範囲は磁石によって異なるため、磁界の広さも磁石ごとに変わります。
なお、地球も磁力を持つ巨大な磁石であることを、学校で習った記憶がある人は多いでしょう。地球に暮らす生き物は皆、地球が発生させる大きな磁界の中にいるのです。
磁界の向き
「磁界の向き」とは、磁石の周りに方位磁針を置いたときにN極の針が指す方向です。方位磁針を置く地点によって、向きは微妙に変わります。
棒磁石のS極寄りの上側に置けば、方位磁針のN極は下向きになり、N極寄りの上側に置けば、方位磁針のN極は上を向きます。
各場所において方位磁針のN極が指す向きが「磁界」の向きであり、磁界の向きを結んだ線が「磁力線」です。
磁界の強さ
「磁界の強さ」は、磁石から近いほど強く、遠ざかるほど弱くなります。
例えば、鉄のくぎを磁石の近くに置くとすぐに引き寄せられますが、離すと引き寄せに時間がかかったり、少し動いただけで止まったりするでしょう。
さらに離すと磁界の外に出てしまい、磁力が届かずくぎはまったく動かなくなります。
【実験】お家で「磁力線」を見てみよう!
磁力線は、目に見えない磁力を表すために、人が引いた線です。棒磁石を眺めていても、磁力線が見えるわけではありません。
しかし砂鉄を使えば、本来は見えない磁力線を出現させることが可能です。自宅で手軽にできる実験方法を紹介するので、子どもと一緒に挑戦してみましょう。
「砂鉄」を使った実験
砂鉄は、磁界に入ると磁化されて、一つ一つが磁石になります。磁石になった砂鉄にはそれぞれN極とS極ができ、異なる極同士がつながって模様を描きます。この模様が、磁力線の正体です。
≪実験の手順≫
1.砂場で磁石を使って砂鉄を集める
2.棒磁石の上に紙を広げ、砂鉄を振りかける
振りかけた砂鉄が棒磁石のN極とS極の間に、弧を描くように整列していく様子がよく分かるでしょう。
なお砂鉄はとても細かいので、家の中で実験すると床にこぼれて、子どもやペットが吸い込んでしまうおそれがあります。できれば屋外で実験する方が、後片付けも楽です。
やむを得ず屋内で実験するときは、終わったら念入りに掃除をしましょう。
似た言葉「磁束線」
磁力線と似た言葉に「磁束線(じそくせん)」があります。子どもに質問されたときなどに間違ったことを教えることがないように、両者の違いを確認していきましょう。
「磁力線」と「磁束線」の違い
磁束線は「磁束密度」を表す仮想の線です。磁束密度とは、磁界の強さに「透磁率」を掛けたもの、透磁率とは物質の磁化のしやすさを表す数値です。
磁界の強さと磁化のしやすさが大きいほど、磁束密度が高いことになります。磁束密度が高い場所では、磁束線は密集し、低い場所ではまばらに引かれます。
磁力線は「磁力の強さや向き」を表し、磁束線は「磁束密度の高さ」を表すと覚えておきましょう。
磁力線について学ぼう
磁力線には、以下の特徴があります。
・常にN極からS極に向かっている
・磁力線の密度は磁界の強さを表す
・磁石がない場所には現れない
・磁力線同士が交わったり、分かれたりはしない
磁力線は、磁力の存在を可視化するために引く仮想の線です。磁力は目に見えないものの、磁石がある場所には必ず存在します。
磁力線について学べば、普段何気なく使っている磁石製品にも、もっと興味が湧くかもしれません。
構成・文/HugKum編集部