学級担任制と教科担任制
学校での「担任」は、大きく「学級担任制(クラスを受け持つ)」と、「教科担任制」の二つに分けられます。それぞれのポイントをおさらいしましょう。
小学校では学級担任制が基本だった
学級担任制は、1人の教師が一つの学級を受け持ち、ほぼすべての授業に関わる指導形態です。授業だけでなく、ホームルームや給食、教室の掃除など、登校から下校までの児童の学校生活全般を指導する役割もあります。
小学校は、基本的に学級担任制です。教師は受け持ちクラスの児童と長時間一緒に過ごすので、児童それぞれの個性を理解しやすく、親身な指導が期待できます。
2022年から高学年の一部教科が教科担任制に
教科担任制は、教科ごとに担当の教師が変わる指導形態を指します。中学校や高校は、基本的に教科担任制です。学級を担任する教師は存在しますが、その教師が受け持つ教科以外の授業は、他の教師が教えることになります。
2022年度からは、小学校でも高学年(5~6年生)で教科担任制が始まります。今までも、音楽や家庭科などを選任の教師が担当する小学校はありました。しかし今後は外国語・理科・算数・体育も対象に加わります。
教科担任制では、教師が得意な分野を中心に教えるので、よりきめ細かい授業が可能です。学級担任の負担が減り、生活指導に力を入れられるメリットもあります。
参考:義務教育9年間を見通した教科担任制の在り方について(報告):文部科学省
教科担任制の目的
教科担任制は、教師と児童の双方にプラスとなる指導形態と考えられています。小学校で、この制度を導入する四つの目的を見ていきましょう。
学力と指導力の向上
近年、小学校では「外国語」や「プログラミング」が必修となり、タブレット学習も始まっています。どれほど優れた教師でも、経験のない科目を教えるのは容易ではありません。IT知識に乏しく、タブレット学習に対応できない教師もたくさんいます。
特に高学年は、1日の授業時間が多いので、1人の教師が全ての教科を教える現在の指導形態に、無理が出始めているのが現状です。教師が事前準備を十分にできなければ、授業の質が下がってしまうでしょう。教師それぞれの得意分野が異なるため、同じ学年なのにクラスによって学習進度が変わるのも、学級担任制のデメリットです。
一方、教科担任制であれば、学年全員が同じ質の授業を受けられます。教師側も得意分野に専念できるため指導力が上がり、より質のよい授業が可能です。その結果、児童の学力も一層向上すると期待されています。
児童への指導を充実させる
教科担任制では、学級担任制に比べて教師側も児童側も関わる人数が増えます。例えば、教師の場合、学級担任制では自分のクラスにばかり目が行き、他クラスの児童とあまり関わりを持てません。しかし、教科担任制は授業を通して、学年全体の様子を見ることができます。教師がお互いに情報を共有し、連携して児童の成長を見守る体制は、児童の生活指導にもよい影響をもたらすでしょう。児童側も、さまざまな教師とコミュニケーションを取ることで、社会性が身に付きます。
教師の働き方改革
教師の働き方改革も、教科担任制を導入する目的の一つです。小学校の教師は授業だけでなく、事務手続きや登下校時の見守り、保護者対応など幅広い業務を担っています。毎日大変忙しいため、休憩時間の確保もままならず、残業や休日出勤が続くことも珍しくありません。これらのことから小学校の教師を志す人が減り続け、人員不足が懸念されています。
その点、教科担任制が始まれば、学級担任の負担が減り、労働環境が改善されます。
中1ギャップの緩和
「中1ギャップ」とは、中学校に進学したばかりの子どもが環境や学習内容の変化にうまく馴染めず、精神的に不安定な状態になってしまう現象です。中1ギャップの原因はさまざまですが、学級担任制から教科担任制に変わることも理由の一つと考えられています。
一般的に、中学校のクラスは小学校に比べて大人数です。違う小学校から来た生徒とは初対面なので、打ち解けるまでに時間がかかります。その上、1日に何人もの教師がやってくるので、生徒が緊張してしまうのも無理はありません。小学校にいる間に教科担任制に慣れておけば、中学校に進んでも違和感なく授業に臨めるでしょう。
先行導入したモデル校での評価は?
教科担任制のモデル校として、制度を先行導入した小学校がいくつかあります。モデル校で明らかになった成果と、今後の課題を見ていきましょう。
授業の質が洗練された
学級担任制の場合、教師がある単元の授業をする機会は、年度内で一度しかありません。授業の中で感じた手ごたえや反省点を、次回に生かすことはほとんどないでしょう。
しかし、教科担任制では1人の教師が同じ単元の授業を複数回行います。同じ学年でもクラスによって雰囲気が変わるため、児童の反応を見て教え方を工夫するなど、試行錯誤のチャンスがあるのです。モデル校では、専任教師が受け持つ教科で授業の質が洗練され、児童の学力向上に役立っていることが報告されています。
児童との関わりが増えた
一つのクラスに複数人の教師が出入りすることで、教師と児童の関わりが増えたとの評価もあります。学級担任制では、教師と児童の相性がよくない場合、児童に何か悩みがあっても相談しにくくなってしまいます。その点、教科担任制では毎日いろいろな教師と関われるため、児童が質問や相談をしやすい雰囲気作りが可能です。学級担任に言いにくいことを他の教師に相談したり、勉強で分からないことを気軽に聞きに行ったりでき、充実した学校生活が送れるでしょう。
また担任教師は、専任教師が受け持つ授業時間を自分の空き時間として使えます。児童と向き合うゆとりが生まれ、生活指導の質が高まると好評です。
時間割の調整など課題も
一方で、教科担任制の課題として、時間割の調整が難しいとの声が上がっています。例えば、5年生と6年生の算数を全て1人の教師が担当する場合、一方の学年行事に引率してしまうと、残った学年の授業ができません。他の教師が代行したり曜日を変更したりと、複雑な調整が必要です。時間割が頻繁に変われば、授業があることを失念するケースもあります。
調整の大変さは学校の規模や教師の数によっても変わるため一概には言えませんが、慣れるまではどの学校でも混乱が生じる可能性が指摘されています。
参考:「一部教科担任制」の導入の取り組みについて|新座市教育委員会
家庭でできることは?
学校の指導形態が変わると、保護者としては子どもへの影響が心配です。家庭でできる、学習面・生活面のサポート方法を紹介します。
学習意欲のサポート
学級担任制には「先生が自分のことを分かってくれている」という安心感があります。例えば、算数が苦手な子どもも、担任の先生に得意な漢字をほめられればやる気が出て、算数も頑張ろうと思えるでしょう。
しかし、特定の教科のみ受け持つ教師は、児童一人一人のことを詳しく知りません。学級担任のように、学習意欲のサポートまではできないため、家庭で見てあげる必要があります。「パパも算数が苦手だったけど、テストの見直しをすると成績が上がったよ」「あんなに難しい漢字が書けるんだから、自信を持っていいよ」などと、子どもが自ら勉強に向かえるよう、さりげなく声を掛けてあげましょう。
相談しやすい雰囲気作り
4年生までの学級担任制から教科担任制に変わることで、子どもが不安を感じる場合もあります。特に小学校高学年から中学生は多感な年頃です。普段から、子どもの様子を注意して見守ってあげましょう。
何かあったらすぐに相談できるような、家庭の雰囲気作りも大切です。親が楽しそうにしていれば、子どもは安心します。仕事や家事で忙しく、疲れているかもしれませんが、家ではできるだけ笑顔を心掛けましょう。子どもが話し出したらしっかりと最後まで聞き、いつでも味方であることを伝えてあげるとよいでしょう。
教科担任制の導入に向けて
小学校の必修科目が増えたことで、教師も児童も、以前に比べて負担が大きくなっています。外国語や体育はもちろんのこと、プログラミングの単元が含まれる理科や算数を専任教師が受け持つのは、教師にも児童にもメリットが大きいといえるでしょう。教科担任制の導入に向けて、家庭でもよく話し合い、子どもへのサポート体制を整えておきましょう。
文・構成/HugKum編集部