いよいよ最終回!決して「負け戦」はさせない。黒木が考える併願戦略とは?【おおたとしまさの「二月の勝者」考察】

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「合格をくれる学校は必ずある」

しかし、今川理衣紗さんの母親にはそれが通じない。本人の偏差値は37にもかかわらず、偏差値67、61、55という難関校ばかりを受験させようとする。理由は「ひとに言えないような学校じゃ困るじゃないですか」だ。そして偏差値67の第一志望校の過去問を自宅でやらせたところ、合格平均点をマークしたと言い張る。

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中学入試問題には相性もあるとはいうものの、さすがにこれはない。佐倉麻衣(井上真央)も黒木もすぐにカンニングであることに気づく。佐倉の同僚の木村大志(今井隆文)は、自身も中学受験生だったころカンニングしたことがあり、それは純粋に親の喜ぶ顔が見たかったからだと告白する。

だからといって母親にカンニングの事実を伝えるのは御法度だと黒木は佐倉にアドバイスする。事実を冷静に受け止めるはずもなく、感情的になって退塾してしまう可能性が高いからだ。そうなるとますます今川さんを救う手立てがなくなる。

退路を断つことで子どもを追い込み、ブレイクスルーをもたらすことを考える親御さんもいるかもしれない。その可能性もなくはない。しかし佐倉は「受験するのは本人で、全部落ちてしまって傷つくのも本人です」と言い、木村は「ひとつでも、合格させてやりたいなぁ」とつぶやく。

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佐倉は意を決して今川さんに提案する。今川さんの実力で合格できそうな学校の過去問をやらせてみたのだ。カンニングしなくても合格点が取れた。嬉しくて涙をこぼす今川さんに佐倉が言う。「今川さんに合格くれる学校、必ずあるよ」。

首都圏模試センターによると、2021年の首都圏の中学受験者総数に対する中学入試の総募集定員数は約95.5%。女子だけに限れば106%で、椅子取りゲームに例えれば、つまり、椅子が余る計算だ。理論上は、必ず合格できる学校はあるはずなのだ。ただし男子の総合格率は85.8%なので、約7人に1人は椅子に座れない。併願校選びは慎重になる必要がある。

佐倉の機転で気を良くした今川さんは、佐倉が教えてくれた学校を併願校に追加した。しかもそこが「私のなかでは本命」と言って笑う。全滅を回避できそうなだけでなく、「ご縁」を感じられる学校に出会えた。

 

『中学受験生に伝えたい勉強よりも大切な100の言葉』(おおたとしまさ・著、高瀬志帆・画、小学館・刊)より

完全無欠に見える黒木が抱える怖れとは?

黒木が言う。「勉強をするのも、試験を受けるのも、親じゃありません。合格のために、まず必要なものは……本人の意志です。それはなにも受験に限ったことではないと思います。人生の岐路に立つとき、本人の意思なくして新たな一歩を歩み出すことはできません」。

それを受けて、「黒木先生はすごいと思います」という佐倉に、黒木が次のように告白する。

「……かつてルトワックで私は、優秀な生徒たちをひとつでも偏差値の高い学校に送り込むことが、子どもたちの幸せだと信じ、私の使命だと思っていました。しかし私がそうやって、無理をして難関中学に合格させたある卒業生が……その後その学校の授業についていけず、不登校となり、それをきっかけに、彼の家族はバラバラになってしまいました。私は、合格後の、その生徒の人生のことを、想像できていなかった……。子どもにとって良かれと思ったことが、その子の人生を潰してしまったのです。私は教壇に立つのが怖くなりました。……しかしそれでも知りたいのです。この仕事の本質とは、学びとは何なのか……スターフィッシュや桜花で、それを探しています」

『中学受験生に伝えたい勉強よりも大切な100の言葉』(おおたとしまさ・著、高瀬志帆・画、小学館・刊)より

 

黒木のこの苦い経験は、コミック第9集で詳細に、衝撃的に描かれている。壮絶な回想シーンのあとには次のような告白がある。

「(子どもたちに)見透かされているかもしれない私の弱点−それは、『想像力』と『共感力』の無さ。(中略)私にはその能力が足りない。(中略)力不足なら経験で補っていくしかない。前職ではいつしか一番上のクラスしか持てなくなった。それを知るためのひとつとして『桜花』に来ました」

これは原作では、パトカーが出動した島津順くんの家庭に介入したあとに続く展開だ。黒木を突き動かしていたものは、「俺ならどんな子も合格させてやれる」という有力感ではなく、むしろ「無力感」だったというわけだ。

ここで思い出してほしい。桜花ゼミナール社長・白柳が灰谷に言ったことを。「子どもには、かないませんよ」。黒木の無力感と照らし合わせることで、白柳の真意がうっすらわかるような気がする。次回最終話ですべてがわかるのだろうか。

桜花ゼミナールを元旦の朝日が照らす。黒木が微笑む。12月10日に発売されたばかりのコミック第14集に描かれていたシーンだ。第14集では桜花ゼミナール吉祥寺校の合格第1号も描かれている。漫画の中の登場人物ではあるけれど、あたかも実在の子どものように感じられて、「ああ、良かったねー」と心から嬉しくなってしまい、思わず涙がこぼれた。

 

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さて、12月18日放送予定の最終回の予告編は情報量が少ない。連載中の原作とは異なる、ドラマオリジナルのエンディングがどうなるのか……。早く見たいような、終わってほしくないような、複雑な思いだ。

 

ドラマの第5回を見逃したというひと、もう一度見たいひとは、ネットサービス「TVer」で、12月18 日21:59まで視聴可能だ。ドラマ公式ホームページでは「第9 回」のダイジェスト動画が見られる。「第9回」を予習したい人は、「次回予告」、そして最終話まで待てないひとは、いままでの名場面をまとめた動画をどうぞ。

<最終回>【柳楽優弥】「二月の勝者」がんばれ受験生まとめ!感動名場面 – YouTube

 

文/おおたとしまさ

二月の勝者 -絶対合格の教室』第10 話は12月18 日(土)夜10時より放送/日テレ系列

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