成績最下位でも自己肯定感が高ければいいじゃないか!次回はパトカー出動の大波乱!?【「二月の勝者」連載第8回】

この秋の日本テレビ系ドラマ「二月の勝者−絶対合格の教室−」。HugKumではドラマ放送期間中の毎週金曜日に、教育ジャーナリストのおおたとしまささんによる前週のストーリーの振り返りと、ドラマに出てきた中学受験情報の解説、そして次回放送内容を考察する記事を連載しています。

毎日塾に来ているだけでもすごいこと

「どうしたらやる気を出してくれるでしょうか?」。中学受験生の親から最もよく聞かれる質問の一つだ。私は塾のカリスマ講師だったわけでも教育学の権威でもない。どうやったら子どもがやる気を出して、どんな勉強をしたら成績が上がるのかなんて知らない。

ただ一つ、これまでの取材経験からたしかなことは、どんな子にも共通するやる気の出し方や成績が上がる勉強法は存在しないということだ。どんなことがきっかけになるのか、まるで予測がつかない。大切なのはそのきっかけがやってきたときに、まわりの大人が見逃さないことだ。

 

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さて、11月27日放送のドラマ「二月の勝者−絶対合格の教室−」の第7話は、やる気が感じられないどころかまわりの受験生の勉強の邪魔をしてしまう石田王羅くんというキャラクターに焦点が当たっていた。石田くんにわが子を重ね合わせる中学受験生の親も多かったのではないだろうか。

 

『中学受験生に伝えたい勉強よりも大切な100の言葉』(おおたとしまさ・著、高瀬志帆・画、小学館・刊)より

 

週末の自習室に、泥だらけの石田くんがやってくる。公園の池でザリガニを捕まえようとして、落ちたらしい。まわりの子どもたちからは「きゃー」「きたねー」「くせー」という声が上がる一方で、屋上で、石田くんのスニーカーを手洗いで洗濯するベテラン講師の橘勇作(池田鉄洋)の対応が微笑ましい。

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橘 こんなにしてまで捕まえたかったのか、そのザリガニ。

石田 一瞬掴んだんだけどさ、逃げちゃってさ。

橘 そりゃ残念だったな。

(中略)

橘 あとさ、お前さ、そもそもどうしたいの、中学受験?

石田 ええ……よくわかんない。中学とか別に、どこでも……ほんとは遊びたい!

橘 ああ。その気持ちはわかるが……この先の人生、どのみち点数つけられて生きていくんだよ。ま、とにかくいまは勉強だけはしっかりしとけよ。何の道に進むにも、プラスにはなるから。

 

原作の漫画ではもう少し橘のセリフがある。「受験しないで地元の中学に行ったとしても、君達この先の人生ずっと、点数つけられて生きてくんだよ。小学生のうちは遊べっていう大人もたくさんいるし、俺だって同じようにそれを真に受けて遊んだ小学生だったよ。でも、春になったら急にそんな世界になっちまうんだ。そんなの聞いてないよなあ」。

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中学受験という制度が小学生に負担であることは間違いない。でも高校受験なら負担がないのかといったらそんなことはない。中学生だってもっと自由な時間が必要だ。問題の根本は日本の受験制度であり、それを支える学歴主義的な価値観だ。それを中学受験か高校受験かの問題にすり替えるのは欺瞞であると、橘は暗に指摘している。

 

石田くんを教室に戻したあと、やりとりを見ていた佐倉麻衣(井上真央)が橘に言う。「橘先生は優しいんですね」。橘は何食わぬ顔で返す。「え、そりゃ……。あいつ、あれでも毎日こうやって塾に来てるじゃない。俺たちはいつの間にかそれが当たり前だと思ってるけど、そもそも小学生が毎日塾に来て座っているってこと自体が、すごくね? うん、すごいんだよ。そこから認めてやんないと。本来の小学生なんて、みんなあんな感じだぜ」。

『中学受験生に伝えたい勉強よりも大切な100の言葉』(おおたとしまさ・著、高瀬志帆・画、小学館・刊)より

 

橘の言うとおりだ。勉強が得意な子が、もっと勉強を頑張ろうと思うのは、ある意味当然のことだ。でも、勉強がそれほど得意でもない子が、何らかの必要性を感じてなんとか努力を続けているのだとしたら、むしろ驚異的なことだ。まずはそのことを認めないと、話は始まらない。

 

自己肯定感の背景にわが子を信じる母親

その日の夜、石田くんの母親が、汚れたズボンとパンツを取りに来る。そこで佐倉と面談する。石田くんの父親は亡くなっており、母子家庭であり、学童代わりに桜花ゼミナールを利用していることがわかる。

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母親が言う。「橘先生には特に目をかけていただいて……。あんな子ですから、家でもおしゃべりで、橘先生は怒ると怖いけど、かわうそくんみたいで楽しい先生だって、そんなことを言ってました」。橘の気持ちは、しっかりと石田くんに届いているのだ。母親は続ける。「親バカで恥ずかしいんですけど、あの子の、そんなおバカなところが、私にはかわいくて……」。

 

亡くなってしまった夫との間に生まれた一人息子。鍼灸師の仕事をしながら、自分の腕で生活費を稼ぎ、その息子の塾代も支払っている。鍼灸院の経営で手一杯で、息子の勉強を見てやる余裕などない。中学受験生の親としては、石田くんの母親はやや甘めかもしれない。でも、この母親はしっかりとわが子を見ている。そのせいか、石田くんの自己肯定感は高い。だから成績が悪くても卑屈にならない。尊敬に値する母親だ。

 

一旦ドラマを離れて、現実に目を向けてみよう。夜、電車に乗っていると、重いテキストとノートが詰まったリュックを背負った中学受験生らしき小学生たちの集団を見かけることがある。ドラマとまったく同じように、きっと彼らの一人一人に、物語がある。そう思うと私には、どの子も愛おしく見えてしまう。

 

成績が好調な子ばかりであるはずがない。家に帰れば親から小言を言われるのかもしれない。できる子にもできる子なりの苦労や葛藤があるはずだ。それこそ石田くんのように、複雑な背景を抱えている子もいるだろう。それでも彼らは毎日塾に通い、決して楽ではない、しかもどこにつながっているのかもわからない道を、一歩一歩、歩んでいる。「がんばれ。君たちはヒーローだ」と、私はいつも心の中でエールを送る。

 

なぜ黒木は灰谷をパーティに招待したのか?

話を戻す。今回はドラマの展開として大きな転換点となる回だった。ネオン街の一角で黒木蔵人(柳楽優弥)が運営する無料塾「スターフィッシュ」の内幕が明かされたのだ。

 

スターフィッシュで月に1度開かれるお誕生日パーティに、佐倉だけでなく、中学受験最強塾ルトワックの講師・灰谷純(加藤シゲアキ)までもが招かれる。なんとあの黒木が、首に花輪をかけた状態で出迎える。戸惑う佐倉と灰谷。

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アットホームな雰囲気で盛り上がるパーティのかたわらで、スターフィッシュの卒業生であり現在はスタッフとしても働く、名門中高一貫校生の大森紗良(住田萌乃)が解説する。

 

「ここが、前に話した黒木先生の無料教室」

「中学受験とか高校受験だけじゃなくて、働きながら資格試験の勉強する大人のひとも来てるんだよ」

「いまでも黒木先生に教えてもらうこともあるけど、私もここで教えるの手伝ったりもしてるんです」

「私もそうだったんだけど、この塾に来てる子どもたち、みんな、ひとり親家庭だったり、お金がなかったり、いろんな理由があって塾に通えない子どもたちで。でも、そんなふうに見えないでしょ? みんな」

 

パーティの帰り道、灰谷が佐倉に、黒木がルトワックを辞めた理由を説明した。黒木が別の塾を自身で経営していることがルトワックの社長の耳に入り、契約を切られたとのこと。その塾がスターフィッシュだったというわけだ。ルトワックを辞めてまで黒木が守りたかったものが何だったのかを知りたくて、灰谷は黒木のあとを付けて回っていたという。

 

後日、灰谷は黒木を待ち伏せし、自分をあのパーティに招いた真意を質す。黒木が答える。「私は、あの場所で感じる居心地や幸せを、あなたにも感じていただきたく」「いまは、私のほうが、あの子たちから多くのものを与えられてる。そう感じています。それはどうしてなのか……、あなたに尋ねたかったんです。あたなは、私の理解者だと言っていました。もしそうなら、あなたほどのひとなら、それを私に教えてくれるのではないかと、そう思ってあのパーティにあなたを招待したんです」。

 

スターフィッシュのパーティーに黒木が灰谷を招いたり、その意図が、灰谷から答えを教えてもらうためだったりという設定は原作にはない。ドラマオリジナルだ。漫画の『二月の勝者』はまだ連載中で、結末は誰も知らない。漫画よりも先にドラマが終わることを考えれば、ここから先、ドラマでは独自のストーリーが展開されていくのだろう。

 

私の手が届く「星」を海に帰すのみ

原作でスターフィッシュのパーティー風景が描かれるのは、コミック第13集になってようやくだ。お誕生日パーティーではなくクリスマスパーティーという設定だが。

 

漫画では、黒木がスターフィッシュでクリスマスパーティーを恒例化した理由までもが細かく説明されているし、無料塾の名前がなぜ「スターフィッシュ(ヒトデ)」なのかの理由も明かされる。中学受験生には「君たちにはクリスマスも正月もない」と言い放つ一方で、スターフィッシュの子どもたちにはクリスマスパーティを催すという対比に、黒木なりの意図があることも示唆されている。

 

スターフィッシュのスタッフの一人が最初、そこの子どもたちを思わず「かわいそう」と評してしまったというエピソードも出てくる。かわいそうなんかじゃないというのが黒木の意見だ。一方で、中学受験生たちも勉強漬けで「かわいそう」と言われることがある。それもおそらく黒木に言わせれば余計なお世話だ。

 

『中学受験生に伝えたい勉強よりも大切な100の言葉』(おおたとしまさ・著、高瀬志帆・画、小学館・刊)より

塾に通えなくてもかわいそう、塾に通えてもかわいそう……。だとしたら、かわいそうなのは、子どもたちではなく、「かわいそう」ということばを発することであたかも自分がそうではないことを確認せずにはいられない大人たちではないかと私は思う。

 

中学受験生の一人一人に物語があるように、スターフィッシュに通う子どもたちにもそれぞれの物語がある。彼らもそのなかで必死に生きて、未来をつかもうとしている。勉強どころではない家庭環境にある子どもも多い。でも「世間」は、表に見えている部分だけを見て、判断する。

 

黒木は言う。「私の手が届く『星』を海に帰すのみ」。そこで読者は気づく。自分にも「星」が拾えるはず。黒木とは違う拾い方、帰し方であったとしても……。

 

『中学受験生に伝えたい勉強よりも大切な100の言葉』(おおたとしまさ・著、高瀬志帆・画、小学館・刊)より

 

 

12月4日放送の次回予告にはいきなりパトカーが登場する。教育虐待といっても過言ではない状況の島津家で、何か大変なことが起こったようだ。「あいつは受験ってものをなめてるんだよ」と言う島津くんの父親に対して、黒木が「ご立派だ」と返す。

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黒木はどうやって石田くんや島津くんやスターフィッシュの子どもたちに寄り添っていくのか。「自分ならどうするか」を考えながら、見てほしい。

 

ドラマの第7話を見逃したというひと、もう一度見たいひとは、ネットサービス「TVer」で、12月3日21:59まで視聴可能だ。ドラマ公式ホームページでは「第7回」のダイジェスト動画が見られる。「第8回」を予習したい人は、「次回予告」をどうぞ。

文/おおたとしまさ

二月の勝者 -絶対合格の教室』第6話は11月27日(土)夜10時より放送/日テレ系列

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