ついに「二月の勝者」最凶の父親登場。中学受験は「毒」にも「良薬」にもなる!?【おおたとしまさ連載第6回】

この秋の日本テレビ系ドラマ「二月の勝者−絶対合格の教室−」。HugKumではドラマ放送期間中の毎週金曜日に、教育ジャーナリストのおおたとしまささんによる前週のストーリーの振り返りと、ドラマに出てきた中学受験情報の解説、そして次回放送内容を考察する記事を連載しています。

塾友に暴言を吐く秀才の背景には何が?

ドラマ「二月の勝者−絶対合格の教室−」の第5話は壮絶だった。話題の中心は桜花ゼミナール吉祥寺校の不動のエース・島津順羽村仁成【ジャニーズJr.】)君だが、父親(金子貴俊)のサイコパスぶりに注目が集まった。

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夏休みが始まった。生徒たちを前にして、スーパー塾講師の黒木蔵人(柳楽優弥)が檄を飛ばす。「夏期講習は、中学受験の天王山です。学力を上げる最後のチャンス。復習をして基礎の穴を見つけ埋めていく作業は、秋以降では間に合いません。夏を逃したらもう二度と挽回できる機会がないと思って夏期講習に臨んでください。では小学生最後の夏休み、悔いのないように」。

ほぼ丸1日を塾で過ごす日々にはいろいろなことがある。授業中に鼻血を出す子、嘔吐する子、お漏らしする子……。そして、Ω(オメガ)クラス(トップクラス)の島津君と2番目のクラスの上杉海斗伊藤駿太君が自習室で取っ組み合いを始めた。きっかけは、島津君が上杉君に「偏差値60以下の学校なんて学校じゃねぇよ。そんなとこ目指してるなんて、まじゴミだし」と言ったことだった。

『中学受験生に伝えたい勉強よりも大切な100の言葉』(おおたとしまさ・著、高瀬志帆・画、小学館・刊)より

 

「なんてこと言うの。それはダメでしょ!」と島津君を叱ろうとする佐倉麻衣(井上真央)を黒木が制して、島津君を無罪放免とする。一方上杉君に対しては「いいですか……今後一切、島津さんともめごとを起こさないでください」と釘を刺す。先に手を出したら負けとはいえ、この裁きに、佐倉は当然納得がいかない。不服を申し立てる佐倉に対し黒木は「あなたは、まったく見誤っています」と返す。黒木の真意は?

 

あらゆるものを否定するモラハラ発言連発

島津家では、父親が暴君のように振る舞っていた。順君は、塾から出された宿題のほかに父親がつくる課題もこなさなければいけないようだ。帰宅した父親は、自分がつくった課題が手つかずになっていることに怒りをあらわにする。

塾の宿題を見て「まだこんな基礎をやらせてるのか」「塾の講師なんかに何がわかる」とわめき立てたあとに、順君の耳元で「パパの言うとおりに勉強してればいいんだ。パパが開成に入れてやるからな。塾のゴミどもと一緒にされちゃたまったもんじゃない」とささやく。父親の言動は、画面越しに見ていても、ぎょっとする。

『中学受験生に伝えたい勉強よりも大切な100の言葉』(おおたとしまさ・著、高瀬志帆・画、小学館・刊)より

 

また別の日。父親は、新しい問題集を買って帰宅した。塾の宿題なんてやらなくていいからこっちをやってみろと言う。しかし順君の解答を見て、父親の表情から余裕が消える。沸き立つ感情を押し殺すように「お風呂に入ってきなさい」と順君に命じると、母親に対してキレ、問題集を投げつけた。「これはな、偏差値54の学校の入試問題なんだよ。半分もできないってどういうことだ!」。

『中学受験生に伝えたい勉強よりも大切な100の言葉』(おおたとしまさ・著、高瀬志帆・画、小学館・刊)より

 

もっと発展的なカリキュラムに変更するように、塾に行ってクレームを付けろと、父親は母親に無理強いする。「それでも母親なのか」「そんなクズのような連中と一緒に勉強させられない」「偏差値54の学校なんて学校じゃない。ゴミだ」と信じられない言葉を連発する。廊下で聞いている順君が震える。

 

島津君が上杉君にちょっかいを出す理由

後日、島津君の母親(遠藤久美子)が塾にお弁当を届けに来たが、順君が塾に来ていないことが発覚する。塾に行くと言って家を出たのに、塾には来ていないことを知り、母親は大きく動揺する。「あの子に万が一のことがあったら私、……主人になんて言えば」。

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一部始終を見ていた上杉君が、駆け出す。塾に来る途中の神社でうずくまる島津君を見かけていたからだ。案の定、島津君はまだそこにいた。上杉君は島津君に、塾での状況を伝える。自習室では衝突ばかりする2人が、なんだか大人同士みたいな会話を始める。

 

島津:オマエ、ルトワックにいたんだろ。なんでいま、桜花なんだよ。

上杉:わかってんじゃん、そんなの。成績落っこってクビになっただけだよ。

島津:オレさ、4年生になるとき、ルトワックの入塾テストを受けて、Sクラス落ちたんだよ。それが悔しくてさ。それで桜花で一番になってやるって」

上杉:そうだったんだ。なんか、かっけーな、そういうの。

島津:だから、ルトワックのSにいたのに、桜花に落っこちてきてAクラスにいるオマエのこと、なんか許せなくて。

上杉:オレ、双子の弟がいて、そいつが勉強頑張ってるから、オレはどうでもいいっていうか。オマエみたく、家のひととか先生とか、誰にも期待されてないっていうか。

島津:そんなことないよ。黒木先生がさ、言ってたんだよオレに。オマエがいつかオレのライバルになるって。

上杉:え、うそだろ!

島津:嘘じゃないよ。いつか机を並べる日が来るって。

そして島津君は上杉君にトップクラスへの選抜テストを受けろと訴える。熱いシーンだ。

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珍しくやるせない表情を浮かべる黒木

無事、塾に戻ってきた島津君。母親は息子を抱きしめて言う。「順、嫌だったら塾なんてやめていいのよ。中学受験だってやめていいの」。しかし順君は首を振る。「いや、やめない。やめたら……、きっと……、ママがパパにいじめられる!」。佐倉や黒木や、その場にいた一同が固まる。

そこにエキサイトした父親もかけつけた。まわりに塾の講師も子どももいるのに、「行方不明なんて、オマエの監督不行き届きだろ!」と母親に手を上げそうになる。すんでのところで思いとどまるが、今度は「友達と話していた」という順君に「バカの相手してる場合じゃないだろ!」と言って手を引こうとする。すると、順君はその手を払いのけ、父親を睨み付けて言う。「僕の友達を、バカって言うな!」。

「待ってるからな、Ω(オメガ)で」と上杉君に言い残して、順君と母親は、父親といっしょにエレベーターに乗る。そのドアが閉まるシーンには、ちょっと胸が詰まった。順君と母親は、家に帰ってからとんでもない目に遭うんじゃなかろうか……。心配でしょうがない。

黒木は珍しくため息をついて、やるせない表情を見せる。「ケアしないといけなかったのは、島津君のほうだったんですね。どうすればいいんでしょう」と佐倉。「たかが塾講師に、他人の家庭の中にまで踏み込む権限はありません」と返す黒木の視線がわずかに泳ぐ。

前回放送の武田家では当初父親が、島津家とは違う意味でのクズぶりを発揮していたが、中学受験と真剣に向き合うことでその父親にもかすかな変化が表れたことが描写されていた。しかし島津家は中学受験のダークサイドに堕ちている。中学受験が家族にとっての「良薬」となるか「毒」となるかは何が違うのか……。私の考えは拙著『なぜ中学受験するのか?』にまとめてある。

マインドコントロールされる母親

父親役の金子さんは怪演だった。原作ではもっとくたびれたように描かれていた父親が、ドラマではいけすかないエリートのように描かれていた。

また原作では、夫とのやりとりのストレスから、母親がトイレで嘔吐をくり返す様子が描かれている。まるで夫にマインドコントロールされているかのように、塾にやって来てはもっと発展的な内容を息子にやらせてほしいとクレームまがいの「提案」をして帰っていく。精神的に追いつめられている様子は、遠藤久美子さんの熱演からも伝わってきた。

神社での島津君と上杉君のやりとりは原作にはない。ドラマオリジナルの、「答え合わせ」的シーンだ。原作では、島津君は民家の庭の空っぽになった犬小屋の脇に隠れている。それを上杉君が見つけ、一緒に探していた母親が息子を抱きしめて言う。「順はずっと成績も良くて、勉強が好きなんだって思ってたから…。順がいなくなっちゃうほど嫌だったなんて気づけなかった」。

『中学受験生に伝えたい勉強よりも大切な100の言葉』(おおたとしまさ・著、高瀬志帆・画、小学館・刊)より

 

魂の訴えの名場面は?

原作では母親の回想シーンが続く。島津君は病弱で、5歳くらいまで入退院をくり返していた。病院で、歴史の事典を片っ端から暗記してしまい、「この子、もしかして天才!?」と夫婦で喜んでいたのだ。「あの頃は、ただ元気でいてくれるだけでよかった……! なのに私達はいつから、『もっと』と言い出したのだろう…」。中学受験で思い詰めたことのある親ならば、誰もが一度は思い至ったことのある感情ではないだろうか。

帰宅後の島津家の様子も、原作では描かれている。私がこの漫画の中で最も心を鷲づかみにされ、何度読み返しても涙がこみ上げてくる名場面が登場する。ドラマではのちのちあのシーンが出てくるのかもしれないので、ここでのネタばらしは控えておくが、コミックでは第4集に収められている。

さらにそのずっとあとの話では、島津君の父親が、ネットで中学受験情報を集めていることが示唆されている。あれほどまでに自信をもって塾のやり方を批判する根拠は何なのかと、ドラマの視聴者は不思議だったと思うが、それが実はネット上の必勝法ブログだったとすればあまりにもがっかりだ。

原作で島津君が父親に楯突くのはさらにあと。コミック第6集に出てくる。「俺の『友達』に『バカ』って言ったことを謝れ」と。それだけ時間をかけてようやく「言えた」のだ。その次のページには黒木の「予想通りとはいえ大荒れの予感。そしてここからは親の…狂気。でも、二度と同じ過ちは繰り返さない」という意味深なセリフがある。

その後も島津家の状況がどんどんエスカレートしていき、その難しい状況に黒木がどう対応していくかが黒木のバックグラウンドにかかわる大きな見どころであることは、原作のファンには常識だ。ただし原作とドラマの筋書きが必ずしも同一でないことは念のため断っておく。

次回、「『混ぜるな危険』大いに結構」

第6回の次回予告には、黒木のライバル灰谷純(加藤シゲアキ)が、トレードマークの眼鏡を外し、「無料塾ですか……」とつぶやくシーンがある。黒木の「裏の顔」に灰谷も気づいていくのか。また、黒木の「私はあの2人のかけあわせによる、大きな化学反応に期待しています」というセリフもある。全然タイプの違う直江樹里(野澤しおり)と柴田まるみ(玉野るな)の回になるらしい。原作のあの歩道橋の名場面が実写化されるのだろうか……。

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ドラマの第5回を見逃したというひと、もう一度見たいひとは、ネットサービス「TVer」で、11月20日21:59まで視聴可能だ。ドラマ公式ホームページでは「第5回」のダイジェスト動画が見られる。「第6回」を予習したい人は、「次回予告」をどうぞ。

文/おおたとしまさ

二月の勝者 -絶対合格の教室』第6話は11月20日(土)夜10時より放送/日テレ系列

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ビックコミックスピリッツで大ヒット連載中の中学受験漫画『二月の勝者-絶対合格の教室-』と気鋭の教育ジャーナリストのコラボレーション。「中学受験における親の役割は、子どもの偏差値を上げることではなく、人生を教えること」と著者は言います。決して楽ではない中学受験という機会を通して親が子に伝えるべき100のメッセージに、『二月の勝者』の名場面がそれぞれ対応しており、言葉と画の両面からわが子を想う親の心を鷲づかみにします。

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