人気スタイリストが「こども食堂」を始めた理由。きっかけは、ひとり親家庭の厳しい状況

働くママやひとり親家庭が増える中、こどもたちがひとりで過ごす時間が多くなり、食事が取れない家庭が増えています。

そんな中、あちこちで生まれたこども食堂。横浜市郊外の洋光台駅からほど近い、レインボーもそのひとつです。

でも、なんだかすごく美味しそう! 楽しそう! おしゃれ! というのも、ファッション中心に活躍するスタイリスト・木津明子さんが運営しているから。

では、どんなこども食堂なのか、早速訪問してみました!

虹のようにキラキラと明るいこども食堂

横浜市磯子区のJR洋光台駅を下りると、URの団地が建ち並び、その1階、2階部分は店舗になっています。手頃な家賃で借りられるためか、こぢんまりしたカフェや雑貨店が軒を連ね、見ているだけでも楽しくなります。

そんな一角に、「こども食堂レインボー」があります。店先にはメニューを記した看板、おいしそうな食材。子どもたちが元気に出たり入ったりして、見守る大人たちも楽しそう。ここには文字通り、虹のような明るさがいっぱいです。

主宰しているのは、木津明子さん。ふだんはファッション誌や広告の人気スタイリストとして大活躍。それなのに、なぜ、こども食堂?

世の中のひとり親家庭の厳しい状況に目を向けて

木津さん「きっかけは、私自身がシングルマザーになったことなんです。ひとり親の申請をしに区役所を訪れたのですが、そのときに、ひとり親家庭の厳しい状況を知ったんです。

区役所からの帰り道、いろいろなことを想像しました。もし、自分が今の仕事に就いていなかった場合、昼も夜も仕事をして、子どもに食事を作ってあげようと思っても疲れてできず、インスタントご飯になってしまうのかな。。子どもに申し訳ないと思って胸が苦しくなるけれどどうしようもない気持ちになるのかな……と。

そんなとき、子どもたちが安心して『あそこでごはんを食べよう』と思える場所があるといいな、と思ったんです。野菜いっぱいの安全で温かい料理が食べられる。1月はお餅つきをするなど、季節性も大事にするような、そんな食堂を作りたいって、心底思ったんですね」

こども食堂で知り合った人たちが地域で子どもを見守る環境を

ある日の昼食。人気焼き鳥屋さんコラボの鶏ハムや新鮮なトマトのほか、つきたてのお餅も!

木津さん「シングルマザーはもちろん大変だけれど、働くお母さん、専業主婦の人だって、毎日ご飯作って食器洗って片付けて、いっぱいいっぱいだと思うんです。でも、毎日の生活の中で、こども食堂があって、ちょっとラクができたり優しくされたりすると、次に会う人に優しくできると思うんです。それが連鎖して、ここで食べた子が、学校や家庭でも人に優しくなれたら私もうれしいです。

ここにはうちの両親も食べに来るんですが、だれが来てもいい。それはこども達がおじいちゃん、おばあちゃん、たくさんの人達と知り合うことで、こども食堂が地域のコミュニケーションの場所となり、地域全体でこども達を育て、見守れる場ができたらいいと思います。

世界のこどもたち、大人にまで届けばって、どんどん思いが広がっていったんですね。

2021年3月に思い立ち、8月に開店し、以来、月2回のペースで昼夜30食ずつを提供し、今に至っています」

 

有名女優さんやモデルさん、プロの料理人たちが支援する

新鮮で安心できる野菜をいつも届けてくれる友人も

この食堂は、大人は1500円、こどもには無料で食事を提供します。運営には資金がいりますが、WEBサイトから支援チケットを購入してもらうことで、そのお金を食事代金や場所代、人件費などの費用に充てています。

また、それとは別に野菜、味噌、お米などは、好意で提供してくれる人がいるので助かっているそう。このほかに、企業からもマスクやバッグ、衣類などを提供してもらうこともあるそうです。

 

スタイリストという仕事柄、女優やモデルからの支援も

そんな支援者の中には、木津さんが日頃、仕事で知り合うモデルさんや女優さんたちがたくさん含まれているのも「こども食堂レインボー」の特徴。木津さんの熱い思いに賛同しています。

そのほかにも、プロの料理人さんたちも賛同。有名焼き鳥屋さんが鶏ハムを、レストランのシェフがミートソースやハンバーグなどを提供してくれています。新鮮な野菜とおいしい料理。そして、食欲をそそるセンスある盛り付け。食材や調味料の安全性にもこだわったレインボーの食事は、ひと味もふた味も違います。

ファッションメーカーや販売店から寄付で送られてきたグッズも、訪れた人たちに無料で配られます。

 

運営にかかわる人にはお金を支払う

スタッフや食べにくる人、だれでも自由に書けるノート。ちょっと困ったこと、うれしことや楽しいことを書いて共有

木津さんがこだわっているのは、

「食べに来てくれるこども達、大人な方々、支援者の方々、そして働くスタッフ、みんなでハッピーになること」

この活動を続けていくためにはちゃんとスタッフにお給料を支払うことが大切だと思っています。ボランティアって、私はリアルじゃないと思っています。スタッフの一人一人にも生活があって家族があって事情がある。

スタッフのひとりが帰りがけに、家で待っている家族に『ケーキ買ってきたよ』って、お土産を買えたら、それで家族がハッピーな気持ちになれたら。家族もこども食堂で働くことに賛同してくれて、より良くなったらうれしいです。

木津さんの11歳のお嬢さんや5歳の息子さん、そしてお嬢さんのお友達もお店をお手伝いしています。

「娘や息子が食堂で働きはじめてから、働くことの大変さ、喜びを感じて、こども達の成長を感じています。子どもたちに責任をもって働いてもらい、『ちゃんと働くってこういうことなんだよ』というのを示したいし、それが、未来を築くことにつながっていきますよね」

 

「一生やりたい」から法人格にし、持続可能な食堂へ

スタイリストの仕事の傍ら、はじめたこども食堂。でも、片手間で終わらせるつもりはありません。社会を見据え、「一生続ける」と、木津さんは心に決めています。

「長く続けるためにも、企業などのスポンサーを得て持続させていきたい。となれば、一個人で運営するのではなく企業という形にしようと、202112月から法人格にしています。社員4人の企業として新たにスタートし、資金調達も可能にしていきたいと思っています。

これまで自宅で調理した料理を運んでいましたが、近々キッチンのある近くのスペースに転居したいと考えています。そして、月2回の開店を、毎週の開店にしたいと考えています。

「個からチームへと気持ちも組織もシフトして、持続可能なこども食堂にしていくつもりです。法人になったことで、むしろ人に頼ることを学びました。信頼できる仲間とともに、ひとりではできないことを、実現していきたいですね」

 

こども食堂レインボー

木津明子(きづ・あきこ)さん

スタイリスト。2006年独立、「otonaMUSE」「VOGUEjapan」などの雑誌、広告を中心に活動中。11歳長女、5歳長男の母親でもある。

今回の記事で取り組んだのはコレ!

  • 1 貧困をなくそう
  • 3 すべての人に健康と福祉を

SDGsとは?

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