野菜だけで作る「ビーガン」は世界中の人と仲良くなれる料理です
──まず、ビーガンとは何か、教えてください。
本道佳子さん(以下、本道)ビーガン(vegan)とは、肉や魚だけでなく乳製品やハチミツなど動物由来の食品をまったく摂らない完全菜食主義のことをいいます。イギリスで起こったビーガニズムが始まりで、「衣食住において、できる限り動物から搾取をしない」という哲学に基づく運動から生まれました。
──完全菜食主義というと、なんだか厳しい感じがします。
本道 そうですね。なので、私は「和ビーガン」をおすすめしています。もともと、日本には精進料理という動物由来の素材を使わない料理の分野が確立されていました。和ビーガンの和は、日本の「和」、平和の「和」、調和の「和」を意味します。野菜だけで作るので、文化や宗教などの違いを超えて、世界中の人と食卓を囲んで仲良くなれる、とてもピースフルな料理だと思います。ストイックにお肉を食べたら絶対ダメ、というのではなく、週に一度だけでもお肉を食べない野菜料理にしたら? と提案しています。
おいしくて、見た目も美しい「和ビーガン」
本道さんが手がける「和ビーガン」は、大地の力がギュッと詰まった旬の野菜を使って、肉や乳製品の代わりになる素材を工夫しながら、おいしく仕上げます。
世界各国、日本全国を駆け巡り和ビーガンを伝える活動
コロナ禍以前は、「国境なき料理団」の代表として全世界を駆け巡り、「食を通して世界平和を」という想いをイベントや料理講習会で伝えてきた本道さん。作った野菜料理を一品持ち帰れる料理教室を開催するなど、子どもたちに向けたイベントも大好評でした。
──ビーガンとSDGs は、どのように関係しているのですか?
本道 たとえば、大量の食肉を生産するためには大量の牛を飼育しなければならず、大量のエサが必要です。そのために森林を切り開いて畑にして、エサとなる穀物を作っています。世界中の人が、肉を食べる量を少しでも減らせば、その分だけ地球にかかる負担が減ります。
──育ち盛りの子どものことを考えると、肉なしメニューの食卓は想像がつきません。
本道 みなさん、そうおっしゃいます。でも、現代の日本の食生活なら、たんぱく質は十分に足りているんですよ。なので、毎日とは言いませんので、週に一度だけでも、動物性の食材を使わない料理にチャレンジしてみてはどうでしょう。
本道さんがアンバサダーを務めるミートフリーマンデーオールジャパン(MFMAJ)
ポール・マッカートニー氏が提唱している「ミートフリーマンデー」に呼応して、日本でも活動を展開するMFMAJ。週に1回、菜食を実践すると、人の営みによる地球への負担を少しでも減らすことができ、健康にもなれるということを発信。本道さんがアンバサダーとして活躍しています。
https://www.meatfreemondayjapan.com/
──日常の食卓にビーガンを取り入れるコツはありますか?
本道 いつもの料理から肉や魚を抜くという発想を転換させて、肉や魚や卵の代わりには、どんな食材があるかな? と、子どもと一緒になぞなぞを解くみたいに楽しんでみてはどうでしょうか。たとえば、マヨネーズは豆乳で作れますし、クッキーだってバターを入れなくても菜種油などでおいしく焼けます。豆乳と醤油でも″卵かけご飯″のように感じて、サラサラと食べられます。
イタリアで開催されるビーガン料理の世界大会で準優勝する腕前
イタリア・ミラノで開催された「世界ビーガン選手権」で、外国人初の2位となった本道さん。そのアイデアと技を惜しみなく伝授してくれる著書『週末ビーガン野菜レシピ』(新潮社)もおすすめ。
ビーガン料理とは、野菜、果物、海藻などの植物性素材だけで作る、動物性ゼロの完全菜食のこと。低脂質で食物繊維豊富な料理がお通じを良くし、腸内環境を整えて免疫力もアップさせます。主菜から副菜、ごはんにスイーツまで、世界で活躍する「野菜の伝道師」が75レシピを紹介。毎日は難しくても、週末なら始められる菜食生活。
──本道さんご自身は、毎日ビーガンなのですか?
本道 10年ほど前に「湯島食堂」という菜食料理のお店を始めたときから4年ほどは、完全ビーガンでしたが、今は、基本的には何でもいただきます。でも、お肉はほとんど食べません。なぜなら、これは私感ですが、お肉を食べないと体が軽くて、精神的にポジティブになれるからです。ただ、本来は何を食べてもいいと思っています。自分の体の声を聞いて、そのときに食べたいものを食べることも大切です。
──子育て中の親御さんへ、メッセージをお願いします。
本道 人はみな″食べたもの″でできています。だから、食を変えるだけで新しい自分になれます。完璧を求めずに、食べたいものを、楽しく、ラクに作ってみてください。野菜料理はストックできるものも多いので、忙しい方には、特におすすめしたいです。
親子で体験! 週に1 回の食卓に野菜料理を取り入れよう!
肉や乳製品の代わりに、何を使う?「なぞなぞみたいに楽しんで」という本道さんに、ビーガンレシピのヒントを教えてもらいました。
週に1 回の食卓に野菜料理を取り入れよう!
肉、魚、卵、牛乳、チーズ、かつおだし、煮干しだし、ハチミツなど、動物性の食材を使わないビーガン。「そんなの無理!」という声が聞こえてきそうですが、まずは、ゆるやかに野菜料理からチャレンジしてみましょう。
たとえば、みんな大好きなギョウザ。キャベツにシイタケやニラなど好きな野菜を入れて、野菜だけで作ってみてください。黙っていたら、家族は誰も肉なしであることに気がつかないかも。ハンバーグなら、レンコンをきざんで小麦粉のつなぎを入れたレンコンバーグがおすすめ。
豆類、ナッツ類、豆乳やアーモンドミルク、米油などの素材を活用するのが秘訣です。
ひき肉の代わりにレンコンを使った「レンコンバーグ」と野菜だけの「ベジギョウザ」。どちらも大満足なおいしさ。
記事監修
本道佳子
和ビーガンシェフ、NPO法人「国境なき料理団」代表。高校卒業後、フードコーディネーターになり、単身ニューヨークへ。ケータリングの仕事をしながら各国の料理を学ぶ。その後、ロサンゼルスへ移住し、オーガニックやマクロビオティックに触れ、帰国。2010年、ビーガン料理レストラン「湯島食堂」をオープン(~2014)。18年、世界ビーガン選手権にて外国人初の2位入賞。現在、教育、医療、アートなどさまざまな分野とコラボし、「愛あるご飯」を提供中。 http://www.hondo-yoshiko.tokyo/
『小学一年生』2022年3月号 別冊『HugKum』 構成・文/神﨑典子 写真提供/本道佳子、株式会社ベス企画
1925年創刊の児童学習雑誌『小学一年生』。コンセプトは「未来をつくる“好き”を育む」。毎号、各界の第一線で活躍する有識者・クリエイターとともに、子ども達各々が自身の無限の可能性を伸ばす誌面作りを心掛けています。時代に即した上質な知育学習記事・付録を掲載しています。