今を生きる私たちに響く傑作ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』
巨匠スティーブン・スピルバーグが、1961年にも映画化された名作ブロードウェイミュージカルを2022年バージョンにアップロードした映画『ウエスト・サイド・ストーリー』が2月11日より公開されました。本年度の米アカデミー賞では、主要3部門(作品・監督・助演女優賞)を含む7部門にノミネートされ、受賞への期待が高まっています。
スピルバーグ監督が気合十分に臨んだ渾身の1作と聞いて、かなり身構えて観ましたが、予想以上にいろんな発見がありました。名作「ロミオとジュリエット」をモチーフにした本作は、タイトルが表すとおり、ニューヨークのウエスト・サイドで対立するグループによって引き裂かれた恋人たちの悲恋物語です。でも、観終わったあと、紛れもなく今観るにふさわしい1作だなと、新鮮な感動を覚えました。
オリジナル版も素晴らしいのですが、新作でも改めて時代を超えて語り継がれる名作の重みをかみしめたというか。こういう“本物”を親子で楽しむというのは、大げさに言えば、人生においてとても有意義な時間になるのではないかと思いました。
圧巻のダンスシーンもスピルバーグによりバージョンアップ!
舞台は、夢や野望を持つ移民たちが暮らすニューヨークのウエスト・サイド。貧困や差別に不満を持つ血気盛んな若者たちが結束し、チームの対立は激化していきます。そんななか、プエルトリコ系移民で構成された“シャークス”のリーダーを兄に持つマリアが、対立するヨーロッパ系移民“ジェッツ”の元リーダーであるトニーと出会い、恋に落ちていきますが……。
主人公のトニーを演じるのは、『ベイビー・ドライバー』(17)のアンセル・エルゴート、ヒロインのマリア役には、3万人のオーディションを勝ち抜いたフレッシュな新星レイチェル・ゼグラーが大抜擢されました。この2人が織りなす情熱的なロマンスにキュンキュンします。また、61年版の映画でアニータ役を演じアカデミー賞助演女優賞を受賞したリタ・モレノも出演している点にもご注目。
アカデミー賞の作品賞を含む10部門を受賞した1961年版『ウエスト・サイド物語』。歌ありダンスあり感動のストーリーあり、というのはお決まりのフレーズですが、『ウエスト・サイド・ストーリー』でも、めくるめくドラマティックなダンスシーンで、おなじみの名曲の数々が、散りばめられています。
特に多くの人に耳馴染みのある曲「Tonight」や「Somewhere」など感動的なナンバーは、観終わったあとにもリフレインするほど心を鷲づかみにされます。振付は現代アメリカのダンス界をけん引するトニー賞受賞のジャスティン・ペック。時代を経てバージョンアップされた、キレのあるダンスシーンは観ていて釘づけにされますよ。
人種問題、世界の分断など、現代の社会問題も色濃く反映
著名人からも絶賛の声が寄せられていますが、そのなかで、プロフィギュアスケーターで元オリンピック日本代表の鈴木明子による「人間は時代が変わっても同じ過ちを犯してしまう。だからこそ、監督は今この時代に本作を映画化したのだと思いますし、今やることに意味があるのではないでしょうか」というコメントを読んで、本当にそのとおりだなと思いました。
折しも、世界中が北京オリンピックに沸いているなか、世界情勢は相変わらず揺れているし、人種差別問題をはじめ、世界の分断は、今もなお続いています。すなわち60年代から、ずっとその状況は残念ながら変わっていません。
優れた映画は常に時代を選ばず、いえ、時代に求められて公開されてきたイメージがありますが、こういった名作はまさにそうで、『ウエスト・サイド・ストーリー』で描かれる悲劇も、今に共通する社会問題が色濃く表れている気がします。
もちろん、素晴らしいエンターテインメント作品なので、観れば心を豊かにしてくれることは間違いナシですが、もしかして名作というものは、それ以上の役割を担っているのかもしれません。
いろんな意味で、今を生きる私たちに大切なメッセージを届けてくれる本作。どの年代が観ても、間違いなく心を大きく揺り動かしてくれる作品ですし、五感で楽しめる映画になっているので、これは親子揃って、映画館で体感していただきたいです。
製作・監督:スティーブン・スピルバーグ
出演:アンセル・エルゴート、レイチェル・ゼグラー、アリアナ・デボーズ、マイク・ファイスト、デビット・アルヴァレズ、リタ・モレノ…ほか
公式HP:20thcenturystudios.jp/movies/westsidestory
文/山崎伸子
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