「漁夫の利」とは?
日常生活やビジネスシーンなどたまに耳にする「漁夫の利」。いざ子どもにその意味を聞かれると、正しい意味はわからないという方も多いのではないでしょうか。まずは、「漁夫の利」の意味をおさらいしていきましょう!
読み方と意味
「漁夫の利」は「ぎょふのり」と読みます。意味は、「2者が争っているところに、第3者が利益を横取りすること」。誰かと誰かが争っている隙に、第3者がやってきて、苦労をせずに利益を得るときに使われる言葉です。なお、「漁夫の利」は、「漁夫之利」と書くこともできます。
由来・語源
「漁夫の利」は、中国の昔の物語がもとになっている故事成語です。現代語訳などもありますが、その物語を簡単に紹介しましょう。
戦国時代の中国に、趙(ちょう)という国と、燕(えん)という国がありました。趙が燕に攻め込むと聞きつけた燕は、蘇代(そだい)という、議論が上手な人物を趙に送り込むことに。そこで蘇代は趙の王に、こう話すのです。
「今日こちらに来る途中の川で、シギがハマグリを食べようと、その身をついばんでいるところに遭遇しました。すると、ハマグリはシギが逃げることができようにと、自身の殻を閉じ、シギのクチバシを挟んだのです。双方とも一歩も引かず、言い争いをしていましたが、そこに漁師がやってきました。
すると彼は、ハマグリもシギも両方とも捕まえてしまったのです。このまま趙と燕が戦をして、双方が疲弊すれば、そこに強大な秦国が攻めてきて、両者ともども敗れてしまうのではないでしょうか」
このように、ハマグリとシギのエピソードを聞かせることで、蘇代は趙の侵略を止めたのだそう。この話がもとになって、「漁夫の利」という言葉が生まれました。
使い方を例文でチェック!
「2者が争っているところに、第3者が利益を横取りすること」という意味の「漁夫の利」。例え話をあげてみると、小学生などのお子さんにもわかりやすく説明できるでしょう。
ここでは、「漁夫の利」を使った例文を紹介します。
1:「徒競走で1位の子と2位の子が競り合っていたが、2人とも転倒。最終的に3番手の子が漁夫の利を得て、優勝した」
トップ争いをしている走者が、競り合ううちに、途中で転倒してしまう光景を見たことがないでしょうか。そして、そこにやってきた3番手の人が優勝をさらうのはよくあるケース。これは、そうした場面をあらわした文です。なお、「漁夫の利」は、この例文のように「漁夫の利を得る」という言い回しでも使えますよ。
2:「長男と次男がお菓子の取り合いでケンカをしている隙に、三男がお菓子をパクッと食べてしまった。まさに漁夫の利だ」
日常生活でよく見る「漁夫の利」には、こうしたシーンもあるのでは。上の子たちが争っている隙に、ちゃっかり者の末っ子が難なく利益を得ているというシーンです。
3:「ライバル企業が争っているうちに、後から登場した企業が漁夫の利を占めた」
「漁夫の利」は、「漁夫の利を占める」という言い方もできますよ。意味は、「漁夫の利を得る」と同じで、「当事者が争っている隙に、第3者が利益を得る」です。
類語や言い換え表現とは?
「漁夫の利」の類語には、「犬兎の争い」「濡れ手で粟」「小股を掬う」などがあります。それぞれの意味を詳しく紹介しましょう。
1:犬兎の争い
「犬兎の争い」とは「けんとのあらそい」と読みます。意味は、「両者が争っているところに、第3者が利益を横取りすること」。
「犬兎の争い」は、犬が兎を追いかけて、双方が疲れ切ったところで、農夫が犬も兎も捕まえてしまったという話がもとになっているようです。「漁夫の利」と同じような意味を持つので、類語としてぴったりですね。
2:濡れ手で粟
「濡れ手で粟」の読み方は「ぬれてであわ」で、意味は、「苦労なく利益を得ることのたとえ」。
濡れた手で粟をつかめば、粟の粒をたくさん取れることから生まれた言葉です。苦労なく利益を得る点が「漁夫の利」と似ているところですね。
3:小股を掬う
「小股を掬う」とは「こまたをすくう」と読みます。意味は、「相手の隙を狙って、利益を図ること」。
これは、相手の足の内側を片手ですくい上げる「小股掬い」という相撲の技がもとになっている言葉です。隙をついて利益を得ようとする点が「漁夫の利」と共通していますね。
対義語とは?
続いて、「漁夫の利」の対義語を見ていきましょう。ことわざなので、厳密な意味での対義語ではありませんが、ここでは、逆のニュアンスの結果をさす表現として「二兎追うものは一兎をも得ず」と「虻蜂取らず」の2つを紹介します。
1:二兎追うものは一兎をも得ず
「二兎追うものは一兎をも得ず」という言葉を一度は聞いたことがあるのではないでしょうか? 読み方は「にとをおうものはいっとをもえず」。意味は「2つの目標を同時に得ようとすると、結局どちらも得られないことのたとえ」です。
「漁夫の利」の由来となったエピソードでは、漁夫はハマグリもシギも両方とも手に入れていますので、「二兎追うものは一兎をも得ず」は反対の言葉といえますね。
2:虻蜂取らず
「虻蜂取らず」の読み方は「あぶはちとらず」。意味は、「2つのものを同時に得ようとしても両方とも得られない」「欲張りすぎると失敗することのたとえ」です。
もともとは「虻も取らず蜂も取らず」という言葉でしたが、現在では簡略化され、「虻蜂取らず」という言葉で使われるようになりました。
英語表現とは?
「漁夫の利」を英語で言う場合に適した表現を紹介します。例文もあわせて紹介しますので、参考にしてみてください。
1:profiting while others fight
「profit」は、「利益を得る」という意味、「while others fight」は、「他人が争っている間に」という意味です。2つをあわせると「他人が争っている間に利益を得る」という意味になりますので、「漁夫の利」の英語表現として使えるでしょう。
2:Two dogs fight for a bone, and the third runs away with it.
「漁夫の利」を意味する英語のことわざがこちら。この英文を直訳すると「骨のために2匹の犬が争っていると、3匹目の犬がそれを持ち去った」。つまり、「漁夫の利を得る」という意味になりますね。
最後に
当事者が争っているところに第3者が利益を得るという「漁夫の利」。類語や対義語なども覚えると、言葉についての理解が深まります。意味を覚えたら、日常生活でも積極的に使って、「漁夫の利」の使い方をマスターしてください!
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構成・文/結野雅美(京都メディアライン)