ほめるときに大げさな言い方になってしまったり、ガミガミと叱りすぎてしまったり。
ほめ方・𠮟り方についての悩みは尽きないものです。
40年以上にわたり育児の相談を受けてきた臨床心理士の植松 紀子先生に、おうちの方の思いがきちんと伝わるほめ方・叱り方のポイントをうかがいました。
ほめておだてるのではなく勇気づけを
ほめる・叱るというのはコミュニケーションの一種なので、気持ちがこもっていない大げさな言葉でほめたり、難しい言い方で長々と叱ったりしても、子どもの心には届きません。
ほめるとは「勇気づける」こと、叱るとは「注意する」ことと考え、シンプルな言葉と態度でおうちの方の気持ちを伝えていきましょう。
ほめるときに大切なのは、子どものがんばりを認め、「お母さんはうれしいよ」と自分の気持ちを伝えること。「すごい」「えらい」と子どもを持ち上げて大人の思いどおりに動かそうとするのは「おだて」であり、ほめることとは違います。結果を評価するのではなく、努力の過程に目を向けて勇気づけることが、子どもの自信につながっていくのです。
「それはダメ」とシンプルな言葉で注意して
いけないことをしたときに「それはダメ」と叱ることは、善悪の判断を教えるために必要なことです。ただし、いつも叱ってばかりいると、子どもは叱られることに慣れて聞き流すようになってしまうことも。生命にかかわる危険なことをしたとき、人に迷惑をかけることをしたとき、家庭や社会のルールを破った時という3つのポイントに絞り、短くわかりやすい言葉で注意しましょう。
子どもは心身ともに成長していくので、今、叱っていることは1年後には叱らなくても済むようになっていることも多いものです。イライラしたときは「この大変さがずっと続くわけではない」と考えて、おおらかな気持ちで子どもに接しましょう。
子どもの心に寄り添うコミュニケーションのヒント
「何を言うか」よりも親子の信頼関係を築くことが大切です
ほめ方・叱り方には、「こういう言い方をすればよい」というマニュアルがあるわけではありません。
日々のやり取りを通じて、おうちの方の間に信頼関係が築けていれば、子どもは叱られることがあっても「自分のために言ってくれてたんだ」ということが理解できます。
逆に、大人はしつけのつもりでも、「あなたは本当にダメな子ね!」といった人格そのものを否定する𠮟り方をしていると、子どもが自己肯定間を持てなくなってしまうこともあります。
子どもがどんな場面でも前向きに生きていける人へと成長していくためには、おうちの方とのコミュニケーションの中で「あちのままの自分を認めてもらえる」と実感することが大切です。
日ごろから次の5つのポイントを心がけ、親子の信頼関係を深めていきましょう。
1 当たり前にやっていることに目を向ける
ごはんを食べるという、おうちの方から見れば当たり前のことでも、いすに座った姿勢をキープする、スプーンやフォークを動かす、苦手な食材も食べてみるなど、子どもにとっては大変な努力がいることです。
何か特別なことができたときだけ注目するのではなく、そんな日常の頑張りに目を向けると、一日の中の様々な場面で子どもを認める声掛けができるようになります。
2 評価はせずにおうちの方自身が感じたことを伝える
「できる・できない」「勝った・負けた」といった評価をする言葉ばかりかけていると、子どもは「成功しなければ」というプレッシャーを感じ、よい結果を出せないと自信を無くしてしまうこともあります。そのことに挑戦した過程に注目して、「がんばったね。お母さん、うれしいな」とおうちの方自身の気持ちを伝えると、子どもは勇気づけられます。
3 遠まわしではなく短くストレートな言い方で
「何回やれば気が済むの?」「きちんとしなさい!」といった遠まわしな言い方では、子どもには「怒られた」という印象が残るだけで、何が悪かったのか理解できません。注意するときは、短い言葉で「それはダメ!」「こうしなさい」とストレートに伝えましょう。
また、子どもは過去のことを言われてもわからないので、注意すべき言動はその瞬間にその場で注意を。叱っている途中で過去の出来事を持ち出してグチを言うのはやめましょう。
4 できないときは少しだけ「お手伝い」を
1歳半から3歳ころは第一自立期にあたり、「自分でやってみたい」という気持ちが芽生える時期です。
できないことをやりたがることも増えるので、一生懸命に取り組んでいる姿勢に対して「ひどりでやってみようと思ったんだね」「がんばっているね」という声かけを。うまくできないときは「ひとりでここまでできたね」と声をかけてから、「最後に少しだけお手伝いしてもいいかな?」と言ってサポートすると、子どもの自尊心を傷つけずにすみます。
5 抱っこやスキンシップを取り入れる
言葉で伝えるだけではなく、抱っこ、手をつなぐ、手と手を合わせてハイタッチをする、肩や背中をなでるといったスキンシップを取り入れると、こどもはおうちの方の愛情をより深く感じて安心できます。
子どもがダダをこねるのは、「甘えたい」というサインであることが多いもの。
そんなときは10分程度の短い時間でよいので、膝にのせて絵本を読んだり、スキンシップをしなら一緒に遊んだりして、子供と向き合う時間をつくりましょう。
お話をうかがったのは
植松 紀子先生
臨床心理士。「こどもの城」小児保健部を経て、植松メンタルヘルス・ルームを主宰。
乳幼児健診での育児相談も担当。
2人の娘、5人の孫がいる。
出典:『ベビーブック』2019年2月号