【おうちでガチ中華】「麻婆豆腐」で“比較文化”。6種の辛さと隣国の歴史を学ぶ

異文化を学ぶキーワードととして「ガチ中華」に注目。食から見えてくる文化の違い・背景・歴史が深い! 「麻婆豆腐」から隣国「中国」について、あらためて学んでみました。

日本の食卓の定番「麻婆豆腐」。「中国からやってきたメニューだけど、日本人の口に合うようにアレンジされているらしい」とはよく聞くところですが、でも本場の麻婆豆腐を試してみる機会なんて、これまでほとんどなかったのではないでしょうか。

が!  この数年の「ガチ中華」ブームによって、日本でも、いわゆる“ガチ”の麻婆豆腐が食べられるようになりつつあるのだとか。

池袋の中華フードコート「友諠食府」で“ガチ”な麻婆豆腐をパチリ!

「ガチ中華」ってどんな料理?

人気番組「マツコの知らない世界」や「タモリ倶楽部」、「孤独のグルメ」等でも取り上げられている「ガチ中華」ですが、

「海を渡って日本に来た中国語圏の人たちが調理する本場の中国料理を、従来の『町中華』とは別物として、近年『ガチ中華』と呼ぶようになったんですよ」

と解説してくれたのは、ガチ中華の動向に詳しい東京ディープチャイナ研究会代表の中村正人さん。

「ガチ中華」本も続々発刊!

「『麻婆豆腐』は、四川出身の陳建民さんが、1960年代から出演していたNHKの『きょうの料理』などで日本人にも親しみやすいレシピを紹介して、家庭でもおなじみのメニューとなりました。

ただ『町中華』と『ガチ中華』が別物なように、家庭料理の麻婆豆腐と“ガチ”も別物です。例えば日本に暮らす四川人や“ガチ”ファンが集まる四川料理店『陳家私菜』でも、豆板醤は現地で100年の歴史を持つ工房から直接仕入れて“ガチ”な味を守っているほど。

日中両国の『麻婆豆腐』を食べ比べてみたら、意外な発見があるかもしれません」(中村さん)

とのことで、今回は親子で、日中両国の「麻婆豆腐」を徹底比較してみることに!

日本で愛され半世紀「丸美屋」&本場四川発ブランド「好人家」

とはいえ、ゼロから作るのは手間暇もかかるので「麻婆豆腐の素」を使うことにしました。

日本からは「マーボといったら」のキャッチコピーで知られる「丸美屋」の中辛をセレクト。

1971年の発売から日本の家庭の食卓を支え続けてくれた、いわば老舗の味です。鶏ひき肉入りで、付属のトロミ粉にネギも入っているので、材料は豆腐だけ用意すればOKです。

そして中国からは、麻婆豆腐の故郷「四川」に本社を置いている食品ブランド「好人家」(ハオレンジア)をセレクト。

パッケージに掲げた「四川民間伝統風味」「厳選、計300日発酵の豆板醤」に、本場トップメーカーとしての自信が窺えます。

中華食材店だけでなくネット通販等でも入手しやすく、我が家で購入したものには、裏面に日本語で作り方等が書かれたシールも貼ってありました。

材料は豆腐のほか、植物油と牛ひき肉と片栗粉、また中国語レシピに従ってネギ(日本語訳に記載なし、中国語によればニンニクの芽でも可)も用意しました。

なお絹か木綿かについては中国国内でも意見が分かれるようで、我が家は日中バージョンとも絹豆腐にしました。

準備が整ったところで、我が家の子どもたち、小学3年生の双子も下ごしらえをスタート!

作り方に書かれていた大きさのとおり(?)豆腐を切って「好人家」の分は下茹でをして

 

「好人家」のレシピでは最後にネギを足すそうなので、ちょっぴり涙目でネギも刻めば・・・

 

あとはそれぞれ、煮たり炒めたりするだけ!

「丸美屋」は「今日のお夕飯はマーボだな♪」とウキウキする香りがフライパンから立ち上ります

 

「好人家」は「ガチ中華」の厨房そのままの香り!  高温で炒め過ぎたのか、ケホケホと咳が出ました

 

日中両国の「麻婆豆腐」、できあがりました!

左が「丸美屋」(中辛)、右が「好人家」

 

日本代表「丸美屋」は、子どもたちに言わせると「ご飯がすすむ味!」。中辛とはいえ「そんなに辛くない」とのことで「給食の味にも似ているよ」と感想を述べつつ、モリモリ食べ続けました。

対する中国代表「好人家」は、口に運ぶなり「ママ!  麦茶、麦茶!」と大騒ぎに。「辛い!  唇がビリビリする!  おいしい、けど辛い!」とまくし立てながら、麻婆→麦茶→麻婆→麦茶を繰り返しておりました。

夕食の最終盤には「混ぜてもおいしいよ!」という新たな発見も(笑)。

麻婆丼の日中コラボ!?

 

実際に食べ比べてみて分かったのは、子どもたち曰く「どっちもおいしくて、どちらがいいとかはないけれど、見た目も、味も、香りも、同じ料理とは思えない」ということでした。

「辛いって4種類あんねん」麻婆豆腐から考える文化の違い

ところで実食を終えた子どもたち、しばらく「唇がビリビリする」と話していましたが、それこそが「四川料理」の特徴といわれる「痺れる辛さ」、中国語で「麻辣」(マーラー)と呼ばれる味なのだとか。

ガチ中華ファンが通う四川料理店「香辣妹子」の麻婆豆腐も、見るからに「マーラー」!

 

アンミカさんの名言「白って200色あんねん」ではありませんが、中国では「辛いって4種類あんねん」といわれています。つまり日本語で「辛い」と表現される味が、中国語ではより細分化されて4種類の、異なる味として捉えられているのです。

1.辣(ラー):舌がヒリヒリする辛さ(唐辛子)
2.麻(マー):舌が痺れる辛さ(山椒)
3.咸(シエン):塩辛い辛さ(塩)
4.辛(シン):刺激を感じる辛さ(ネギ、ショウガ、ニンニク、生薬、等。山椒や唐辛子が含まれることもある)。「辣」と組み合わせて「辛辣」とも。

四川人はもっと細かく「辛いって6種類あんねん」?

しかも「四川料理」では、さらに細分化されて「辣(ラー)って6種類あんねん」というからビックリです。

1.麻辣(マーラー):山椒を使った舌が痺れる辛さ
2.香辣(シアンラー):「麻辣」に唐辛子を足し、香りと辛みをより強く感じる辛さ
3.煳辣(フーラー):唐辛子を炒めて焦がし、刺激的な辛みに焦げの香りを加えた辛さ
4.糟辣(ザオラー):唐辛子をニンニクやショウガと発酵させた、香り高い辛さ
5.酸辣(スアンラー):口に入れるとまず酸っぱさを感じ、最後に辛みが残る辛さ
6.鲜辣(シエンラー):生の青唐辛子が持つ爽やかな辛さ

初夏の四川フェスに出店した「麻婆老王」の「緑麻婆豆腐」。赤くないけど、辛い!

 

「辛さ」という表現ひとつをとっても、日本と中国、また中国の地方ごとにこれだけ異なります。そこに暮らす人たちが何を重視しているのか、文化の違いが垣間見えて、このテーマだけでレポートが書けそうですね。

麻婆豆腐の故郷「四川」と「中国」について学ぶ

さて「四川って、どんなところ?」と興味を持ったところで、四川省の文化と歴史についても深掘りしてみましょう。

外務省で37年にわたり対中国外交を担当、四川省を管轄する在重慶日本国総領事館で総領事も務められた、日中協会理事長・瀬野清水さんにお話を伺いました。

四川5000年の歴史!『三国志』孔明&劉備ゆかりの地

諸葛孔明は子どもから大人まで大人気!  三星堆遺跡にまつわるシノワズリ・アドベンチャーも

「四川省は『三国志』の蜀の国、諸葛孔明が活躍した場所で、省都(省政府所在地)の成都には、劉備玄徳のお墓や孔明の祠もあります。

5000年前から栄えていたことを表す『三星堆遺跡』や、世界遺産の『楽山大仏』などもあり、歴史と文化の宝庫といえますね」(瀬野さん)

前3世紀=日本の弥生時代、四川を豊かにした灌漑が今も現役!

「『四川』という名前は、周囲が山に囲まれた盆地の中を南北に4つの川が流れていることから付いたといわれています。

そのうちのひとつの岷江(ミンコウ)は常に氾濫し、洪水で人々を苦しめていたのですが、今から約2300年前に李冰(リヒョウ)・李二郎という親子が大規模な水利灌漑工事を行い、見事に水不足や水運を解決。それからは『天府の国』といわれるほど豊かな地域に変わりました。

この水利施設は『都江堰』(トコウエン)と呼ばれ、世界遺産にもなっています。実はいまも農地に水を引き続けているんですよ」(瀬野さん)

四川省の人口は、イギリスやフランスより多い!

歴史のスケールだけに驚くなかれ、まだまだデッカイ話が続きます。

「『〇〇省』というと、日本の都道府県をイメージされる方もいらっしゃるかもしれませんが、四川省は1997年まで、日本とほぼ同じ1億2000万人という中国最大の人口を抱えていました。

97年に四川省の一都市だった重慶が、北京市や上海市、天津市と同じ『直轄市』に昇格したので、省としての人口は8000万人になりましたが、それでもすごい数ですよね(笑)」(瀬野さん)

四川省の省都「成都」

パンダもいっぱい! 歴史・文化・自然・料理、何でもござれ?

日本で愛されているパンダも、ルーツは四川にあり!

「四川省は世界遺産が5つもあるのみならず、パンダの故郷でもあり、その保護や繁殖、育成を目的とした『パンダ保護基地』と呼ばれる施設が4つもあって、たくさ~んのパンダとも出会えるんですよ」(瀬野さん)
四川省の成都パンダ基地のパンダたち

 

四川省、掘り下げれば掘り下げるほど、歴史好き、本好き、自然や動物好き、食いしん坊(!)、いろんなタイプの子が「おもしろいかも?」と感じられる分野が見つかりそうです。

日本であまり知られていない、でも知っておいてほしい歴史も

瀬野さんからは、こんなコメントも。

「日本と中国が戦争をしていた1937年、当時の中国の政府(国民党政府)が重慶に臨時政府を設けたので、日本軍はそれを追って、翌38年からの5年間に、203回も上空からの爆撃を繰り返しました。1万人以上の市民が犠牲になり、2万軒以上の家屋が焼失したといわれ、いまも戦争の傷跡が残っています。

戦争だけは、絶対にしてはいけません。『四川』について学ぶ機会に、平和への思いもあらたにしていただけたら」(瀬野さん)

いま「中国」について学ぶ意味とは?

隣国・中国について学べる入門書も(小学館)

 

日中関係の最前線にいらっしゃる瀬野さんから、子どもたちへ向けて最後にこんなメッセージも。

「人はできるだけ早い時期に、中国に限らず、広く世界を見ておくことが大切とよくいわれます。旅行でも留学でも構いません。それはちょうど、自分のことを知るのに、鏡を見たり、友だちの様子を見たりして、何かと比べることで自分が分かるようになるのと同じです。

世界には200を超える国があり、国連加盟国だけでも196カ国もあります。その中でもなぜ中国について知る必要があるかといえば、それは中国が永遠の隣国であり大国であり、日本にとって文化の大恩ある国だからです。

2000年以上の歴史の中で、日本からは遣隋使や遣唐使、最澄や空海たちが命がけで海を渡り、中国からは鑑真や隠元や多くの文人、僧侶が渡ってきました。こうした数多くの先人の尽力のおかげで、中国から漢字や仏教、儒教などの哲学思想や文学、印刷技術や服飾、医療、食材、建築、土木、都市計画など様々なことが伝えられました。

明治維新まで中国は日本の先生であり続けましたが、明治維新以降、日本は欧米を崇拝するあまり、アジアを見下すようになった結果、両者の2000年の歴史のうち50年は不幸な戦争を経験しました。しかし、残りの1950年以上は友好的な往来が途切れることなく続いてきたのです。

中国は、14億という日本の11.3倍の人口を抱えていて、2010年にはGDP(国内総生産)のベースで日本を追い抜き、世界第2位の経済大国となりました。今後もさらに豊かで強い国づくりを目指して発展を続けていくことでしょう。隣国の日本が中国とどう向き合い、どのように協力し合って世界の平和と安定に貢献できるか、少なくとも意見の食い違いが戦争にまで発展することのないように、対話を通じた信頼関係を深めることが大切です。

そのために日本の若い世代が中心となって、中国の歴史や文化を学び、中国のことを日本に伝えると同時に、ありのままの日本の姿を中国に知ってもらうことは、お互いの誤解や誤った判断から戦争になることを避けるためにもとても大切なのです」(瀬野さん)

*  *  *

いつもの「麻婆豆腐」から、親子で世界を語ってみませんか。また“比較文化”に興味を持ったり、自分のアイデンティティを見つめ直すお子さんもいらっしゃるかもしれません。

「麻婆豆腐」の日中両国バージョン、ぜひ試してみてくださいね!

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構成・文/ちかぞう

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