母と小学生姉弟、全員歌人の山添ファミリー。短歌を詠んだきっかけは? 話題の歌集『じゃんけんできめる』創作の“たね”を聞いた!

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朝日新聞内の短歌投稿欄「朝日歌壇」から誕生した母子3人による短歌集が話題です。累計250回以上「朝日歌壇」に採用・掲載された歌人ファミリーの日常から見えてくるのは、「言葉を紡ぐ」という創作活動を通しての家族のコミュニケーションでした。

母と娘・息子が“五七五七七”で紡ぐ、いとおしい家族の日常

朝日新聞に「朝日歌壇」という、短歌の投稿コーナーがあるのをご存じですか。明治43年(1910年)、石川啄木を選者として始まった歴史ある歌壇をいま賑わせている親子がいます。奈良県に住む山添さんファミリーです。

お母さんの聖子さんが子育てをしながら、また、小学6年生の葵さん・3年生の聡介さんが幼い頃から詠んできた親子三人の短歌が今秋、親子歌集『じゃんけんできめる』として本になりました。

子どもの活字離れもいわれる昨今、家族で「短歌=31文字の表現世界」と共にある暮らしとは、どんな毎日なのでしょうか。山添家の親子3人にお話を伺いました。

山添さんのお宅の本棚

山添家は、どんなきっかけで短歌を始めたのですか?

『じゃんけんできめる』の短歌は多くが何気ない日常を詠んだもので「どうしたらこんな風に感じられるのだろう?」と驚くばかりです。

ふうせんが九つとんでいきましたひきざんはいつもちょっとかなしい(聡介7歳)

ゆっくりとバニラアイスをすくったらしろいことりのはねになったよ(葵6歳)

タンポポの綿毛で練習したおかげ二歳のろうそくふぅーっと一息(聖子2012年)

聖子さん:葵の2歳の誕生日の夜、帰宅した夫に「タンポポの綿毛」のエピソードを話していて、ふと「短歌になるかも」と思いました。試しに朝日歌壇に送ってみたらビギナーズラックだったのか、新聞に載せていただいたのが始まりです。

育児中、小さな子どもと過ごす時間というのは、大人と話すことがほとんどなくて、「おいしいね」とか「ワンワンだね」とか、一日ほぼ自分ひとりでしゃべっていて。でも短歌を投稿してみたら、採用されてうれしくて。社会とつながっている感じで、孤独感が緩和されたというか。それからは、毎週のように送るようになりました。

葵は、そんな私の姿を見て5歳頃から「ご、しち、ご、しち、しち」と指折り数えながら、短歌を作り始めました。聡介も私とお姉ちゃんの影響か、6歳頃から詠み始めました。

「短歌を詠んでみたら?」と、誘ったりはしなかった?

聖子さん:私は子どもが自分と同じ分野に来ると、どうしても粗(あら)が目立って「もっとこうしたらいいのに」と口を出してしまうのがイヤで、違う分野に行ってくれたら、と思っていたんです。知らない分野ならどんなに間違っても、ほほえましく見ていられるから、精神的に健康でいられるかなって。

それでひとり、ひっそりと続けていたんですけれども、私が好きで短歌を作っている姿を見たからか、子どもたちも真似をして…気づいたらふたりとも、同じところにいます。

親子でいざ、同じ土俵に立ってみると?

聖子さん:私はほぼ毎週、子どもたちはそれぞれ短歌ができた時に投稿しているのですが、「朝日歌壇」に葵だけ、あるいは聡介だけ載ったりということもあります。でも子どもの採用率が高くて、載らないのはほぼほぼ私なので、幸い揉めることもありません(笑)。

子どもの歌には、私が思いつけない「子どもだけの世界」があって、例えば黒板とか体育館とか、分野も視点も異なるので、私自身はジェラシーもなく、ほのぼのと「あ、載ってよかったな」と思えています。

でもこれがあと20年とかして同じ立場になったら、歌人として「うまいこと言うなぁ」と思うようにはなるかもしれません。

短歌をどうやって作る? 表現の“たね”の見つけ方、育て方

ところで気になるのが「短歌をどうやって作っているのか」ということ。ここからは葵さん、聡介さんにも加わっていただいて、短歌がともにある暮らしについて伺います。

左から葵さん(小学6年生)、聡介さん(小学3年生)

短歌の“たね”とは?

『じゃんけんできめる』巻末の家族鼎談によれば「短歌の“たね”を見つけて詠む」とのこと。この短歌の“たね”とはどういうものを指していうのでしょうか。

聖子さん:子どもたちは「これは歌になる」と思うことがあると「これは“たね”になる」と言っていて…いつ頃からかな。

葵さん:私が5歳くらいから、使っているかな。

聖子さん:聡介もお姉ちゃんの真似をして、いつの間にか“たね”と言うようになりました。

“たね”を普段から探している?

葵さん:うぅーん、探しているところもあるかもしれないけど、日常で起こったことが「“たね”になりそうだな」って思うから…普通に過ごしていても、意外と見つけられるかな。

葵さんの創作ノート

 

葵さん:まず“たね”になりそうなことが起こって、それをメモしておいて。必ず入れたい言葉とかを付箋に書いて、肉付けして。順番はこっちの方がいいか、みたいな感じに並べ替えたりして作っています。

聖子さん:「てにをは、は何がいい?」とか「置き換えるとしたら一番いい置き換えは?」とか模索するのは、子どもも大人も一緒だと思うのですが、具体的なやり方というのは、それぞれ好きなようにしています。

私は育児の隙間にスマホにメモしていて、スマホの中で言葉をたくさん、消したり書き連ねたりの作業をしています。できあがった短歌は忘れないように完成形だけ、投稿日と一緒に記録しています。

聡介さんの創作ノート

 

聖子さん:聡介は、裏紙とかを短冊状に細く切って、必要な言葉を書いて、パズルみたいに並べ替えたりしながら作っているようです。ノートもあるんですが、ぐちゃぐちゃというか、割と混とんとしていて…何が書いてあるかよく分からない(笑)。

聡介さん:ポケモン自由帳なんだよ。新作を作るのにかかった時間?  510分くらいかなぁ?

聖子さん:葵も、数分で詠んでしまうことがあります。子どもは、瞬発力があるんですよね。

それぞれお気に入りの歌をご紹介いただけますか?

陸上部だった私の細胞はもうない 風の記憶だけある(聖子2022年)

聖子さん:風を覚えている、この歌が、最近のもので気に入っています。

葵さん:私はランドセルを初めて背負った時の気持ちを「きんいろのきもち」と、自分の言葉で表現できた歌も好きなんですが、

新学期となりの席の男の子お道具箱でバッタをかってる(葵10歳)

葵さん:この歌は、隣の席の男子がお道具箱を開けたらバッタがいて、「おもしろいから“たね”になりそう」って思って作りました。
国語の授業で短歌を習った時に、先生が私の歌を黒板に書いてくれて。そうしたらこの男子も「俺のことだ!」って言っていました(笑)。

聡介さん:僕は、物干しざおの歌!

 体いくかんでしゅうりょうしきをしていたら外からものほしざおを売る声(聡介9歳)

聡介さん:体育館で校長先生が話をしていた時「竿竹~2本1000円、昔と同じ価格だよ」って聞こえてきて、みんな後ろ向いちゃったり(笑)。それがおもしろくて、短歌を作りました。

それぞれの歌の魅力は、どんなところにあると思いますか?

聡介さん:ママの歌は、物語みたい。物語みたいな「例え」がいいんかなぁ。お姉ちゃんのは見ていたらおもしろくて、元気が出る!

葵さん:聡介の歌は、おもしろいところとか、共感できるところがあります。例えば、ムラサキシキブの実を「梅ミンツ」って言ったり。あと遠足の帰りのバスで見る「コナン」はいつもいいところで終わる、みたいな歌があるんですが、そういう経験は私にもあって「たしかに!」って(笑)。
母の短歌には「私のことはこんな風に見えているんだな」という気づきがあります。「タンポポの綿毛」の歌も、優しい感じが好きです。

お互いの短歌を評して、家族の内面を垣間見たり、共感したり

 

聖子さん: 葵の歌は「少女らしい瑞々しさ」、キラキラした感じがあって、詩心というか、ちょっとした瞬間の輝きをよくとらえているな、と。

聡介の歌は「未知の生物」感があります(笑)。でもまっすぐ、その時に思ったことを詠んでいて、それが時々ハッとしたりするような言葉で…技巧的に比喩をしているとかではないのですが、グッと迫ってくるようなものもあって。

息子は学校では国語よりも、答えがはっきりしている算数や理科が「スッキリする」から好きらしいのですが、答えがはっきりしていない短歌も「まちがえがない」し「いろいろな考えがいい」から、その自由なところが好きだと。
聡介は、本当によくいる小学生男子なんですが「こういうことも詠むんだ!」と驚くこともありますね。

短歌を通じて得た「かけがえのない日々」の記録、そして救いとは

ご家族の作品をまとめた『じゃんけんできめる』は「まるでドキュメンタリーや長編小説を見ているよう」との評も聞きます。歌集として手に取った時の思いと、この10年を振り返って感じたことを、あらためて伺ってみました。

『じゃんけんできめる』として、家族の歌が1冊の本になったことについては?

聖子さん:最初に「本にしませんか」とご連絡をいただいた時は「詐欺か、自主出版のセールス?」と思って、ビックリしたんですけど(笑)。
こうやってまとまってみると、私たちの歌が一篇のストーリーのように連鎖して、その時の情景が垣間見えたりして、家族のアルバムのようです。

読み返してみて、いかがですか?

聖子さん:例えば、夜泣きの頃の歌もそうですが、子育てで辛い時「これは短歌にしたらいいんじゃないか」って、ちょっと客観的に一歩下がってみることで、辛さからも一歩ひいていられたのではないか、と。

短歌にしておかないと忘れてしまいそうな、日常の中の子どもの一瞬の言葉や仕草を「そうだった、あの部屋でこんなことがあったな」って思い出せるように、記録として残しておけたのもよかったです。

冒頭でもお話したのですが、短歌を詠むことで、社会とつながっていられたことも、いま思えば救いになっていました。

大切なご家族を亡くされたことも歌にしています。

悲しみは深爪に似て日に幾度触れては痛む失ひしもの(聖子2016年)

おつきさまみたいにママがやせたのはおばあちゃんがもういないから(葵6歳)

聖子さん2016年は、大好きだった祖母を亡くして……。悲しいっていう気持ちは目には見えないのですが、短歌にして文字に整えると、悲しさが物理的に、目に見えるものになります。

私の悲しい気持ちを短歌に入れ込んで、悲しさをちょっとずつちょっとずつ短歌に移していって、切り離してゆけるというか。当時の私は悲しさでいっぱいで、そんなことまで思いは及びませんでしたが、それが救いになったところはあるのかもしれません。

祖母を亡くしたあたりの歌を読み返すと、まだヒリヒリする感じがあるのは、あの時に切り分けた悲しさにもう一遍触れるからじゃないかな、と思ったりもします。

コロナ禍の歌も、印象的です。

メヌエットあと五小節で終わるのにピアノのレッスンずっとお休み(葵10歳)

大すきな六年生のはっちゃんのそつぎょうしきにいきたかったな(聡介8歳)

マスク越しの子の発表を聞くための教師の背(せな)のカーブ優しき(聖子2020年)

聖子さん:コロナもそうですが、悲しいこととか、しんどいことがあった時にも、歌という形にすることで、自分の外にアウトプットでちょっとずつ出すというか、デトックスできたらいいのかもしれません。

日常のどんな出来事も歌の“たね”になる

最後に「親子で短歌を詠んでいてよかった」と思うことを教えてください。

聖子さん:本人たちはそんな難しいことを考えて作ってはいないと思うんですが、言葉にするためには頭の中で言葉をどんどん研ぎ澄ますというか、気持ちの純度を増すというか。自分のその時にぴったりの表現を探して、言葉をその時の気持ちに近づけてゆく過程があります。また考えるのにも、言葉を使って考えます。
短歌を「自分を表現する方法」のひとつとして、持っていたらいいんじゃないか、と思っています。

葵さん:そうやって短歌を作る過程で、今まで知らなかった自分の一面に気づくこともあります。

聡介さん:記憶が忘れていたことも、短歌が覚えてる。文字として残せるところがいいと思う。

聖子さん:もし短歌という形にならなかったら、子どもたちの考えや思いに気づかないでいたことがあるかもしれないので、そういうのをチラッチラッと知ることができるというのも、うれしいです。

とりわけ息子の考えが読めない、という部分はいまだにあるので(笑)、聡介の頭の中とか価値観とか、何を良しとするのかっていうのを、うかがい知ることができるのもいいですね。

葵もいま思春期で難しい年頃なので、昔の歌を読み返したら「かわいかったなぁ」と思えて、ちょっと優しくなれそうな気がします(笑)。

結局のところ短歌が、何かの手段のひとつとして役立つからいいというわけではないのですが、子どもたちが将来「短歌があってよかったな」と思うことがあるかもしれない…あったら、いいなと思います。

*  *  *

インタビュー中も終始あたたかな雰囲気にあふれた山添家でしたが、親子でケンカすることもあるのだそう。実は『じゃんけんできめる』というタイトルにも、クスッと笑える姉弟の攻防がありまして…その顛末は、本を手に取ってみてくださいね。

親子歌集『じゃんけんできめる』で、心に響く一首に出会ってください。

親子歌集『じゃんけんできめる』著者プロフィール

山添 聖子(やまぞえ せいこ)
1979年生まれ、奈良県出身。結婚後の2006年より滋賀県に転居、短歌を詠み始める。現在は再び奈良県在住。

山添 葵(やまぞえ あおい)
2010年生まれ、奈良県在住。小学6年生。名前は、初夏が出産予定日だったこともあり、空に向かってまっすぐ咲き進むアオイの花から。ちょうど葵祭の頃だった、という背景も。

山添 聡介(やまぞえ そうすけ)
2013年生まれ、奈良県在住。小学3年生。名前は、聖子さんがサ行の名前が好きなことから。漢字に耳の字がつくのも、聖子の聖とお揃いとか。人の意見に耳を傾け助ける、優しく賢い子になりますように、との願いから命名。

取材・文/ちかぞう

作・山添聖子、山添葵、山添聡介小学館1870円(税込)

子育てのワンシーン、学校生活での発見、家庭内で感じた喜びや寂しさ――。2012年から2022年までの親子の短歌作品が年ごとに並んでおり、姉弟が短歌とともに成長している様子にも心を揺さぶられます。巻末には、自宅で創作に励む子供たちの日常を取材したインタビュー記事も収録。

 

 

 

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