女の子のお母さんから、よくこんな話を聞きます。
「母親の私も、子どもの頃から算数は苦手だったのよね。娘も女の子だから、算数が苦手でもしょうがないわ」
昔から、なんとなく男の子は理系、女の子は文系が多いというイメージがありますが、「女の子だから算数が苦手」。これって本当のことなのでしょうか? 今回は、性別によって得意科目の差は存在するのか?についてお伝えします。
「男の子のほうが算数が得意」というデータはない
実は、男の子のほうが算数が得意だというのは単なる思い込みなのです。これまでRISUの教材を学習した子どもたちのデータを見ても、男の子のほうが算数が得意だという結果は見られません。
ただ、全体の結果に性別による能力差は見られないものの、分野によっては男女の傾向に差があるものもあります。
計算分野などはテストの結果にほとんど男女差はありません。しかし、図形分野は男の子のほうが得意な傾向にあり、一方で丁寧に解くような問題は女の子が得意な傾向にあります。
男女で得意な傾向は存在する
RISUの学習データでは、図形(特に立体)やグラフに関する問題は男の子のほうが正答率が高い傾向にあります。
男の子を100とすると、女の子の得点は85%ほどに留まりました。男の子のほうが図形問題に強い理由の1つに、積み木やレゴブロックなど、小さい頃から図形(立体)を扱うおもちゃで遊び慣れていることがあると思われます。
一方で女の子は、男の子より問題の解き方が丁寧である様子が見受けられます。
例えば、桁が大きな数の引き算や、小数・分数の細かい計算、素因数分解などの問題は女の子の正答率が、男の子をやや上回る傾向にあります。
男の子は問題を速く解こうとする傾向にあり、丁寧に解く必要がある問題はミスが起きやすくなります。じっくり、ゆっくり問題を解いているお子さんは、おうちの方から見ると『問題が分からないから遅いのかな』『やっぱり算数は苦手なのかな』と心配になるかもしれませんが、ただ解き方が丁寧なだけで、点数はしっかり取れているという場合もたくさんあるのです。
能力差はないのに、女子は文系、男子は理系というイメージはどうして?
算数の得意・不得意に男女の差はないのに、「男子は理系で女子は文系」というイメージを持つのはどうしてでしょうか。私たちが学生の頃も、実際に高校のクラス分けでは理系志望のクラスは男子の比率が高く、文系志望は女子の比率が高い傾向にありましたよね。
内閣府男女共同参画局による男女共同参画白書(2015年版)でも、大学の専攻分野別にみると理学部や工学部など理系の分野は男子学生の比率が高いことが分かります。
また、東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所が2015年と2016年に行なった調査でも、女の子の年齢が上がるにつれて文系志望の子が増えていく様子が分かります。
年齢と共に理系志望の女の子は減る
年齢が上がるにつれて理系志望の女子が減っていくのは、能力による得意・不得意によって算数(数学)から離れていくというよりも、外的な要因が大きいと言われています。
外的な要因とは、例えば昔からある「理系は男子」という先入観です。おうちの方の無意識の思い込みや声掛けも影響がありますし、身近に理系の女性がいるかどうかでも進路選択に差があるようです。
2017年度に行なわれた内閣府の委託調査では、女性の保護者の最終学歴が理系か文系かによって、女性保護者が理系の場合は、20%も多くの女子学生が理系を選択しているという結果が示されました。また、中学校、高校で理系科目を学んだ際に、全て男性教員が教えた場合と、女性教員がいた場合では、女性教員に教わった経験がある女子学生のほうが11%多く理系を選択している結果も示されました。
つまり、理系=男子という先入観が無くなるようなロールモデルが女の子の身近にあるほうが、理系を選択する女の子が増えるのです。
「女の子だから」に囚われないで
理系分野は、性別に関わらずこれから活躍が期待される分野です。特に女の子にとっては、政府が「男子は理系で女子は文系」という現状を変えていくために提言(※)を取りまとめるなど、理系で活躍する女子を増やすことに力を入れており、今後、活躍の場がさらに広がることが期待されています。
※「教育未来創造会議」2022年5月10日に取りまとめられた第一次提言では、理工農系を専攻する女子学生の割合を、男子学生と同じ28%程度にすることなどが示されています。
「女の子だから」という先入観だけでお子さんが無意識に算数は苦手だと思い込んでしまったり、算数が好きだったのにだんだん離れてしまったりするのは大変もったいないことです。このような先入観を避けるために、おうちの方ができる関わり方のポイントを3つお伝えします。
1:自分が苦手なことを子どもも苦手なはずだと決めつけない
例えば「私も算数は苦手だったから分かるよ。できなくてもしょうがないよ」というような声掛けは、おうちの方はお子さんを慰めたり励ましたりしたい気持ちからの言葉だと思いますが、子どもは『やっぱり私は算数が苦手なんだ。できなくてもしょうがないことなんだ』と受け取ってしまうことがあります。
「できなくてもしょうがない」は、諦めてもよいというニュアンスにも聞こえてしまうので、別の言葉に置き換えてみてください。
おうちの方が「できている」の合格ラインに完璧を求めてしまうと、どうしてもお子さんのできていない部分が気になり不安を感じてしまうものです。そうではなく、比較対象を「以前のお子さん」にすれば「今はこれだけできるようになった」と、できる部分に注目することができます。
「できるよ」「できているよ」など肯定する言葉を使って褒めたり励ましたりすることで、子どもも『やればできるんだ』という気持ちで前向きに学習に取り組むことができるでしょう。
2:「女の子らしいから」を理由にした習い事を選びをやめる
習い事を選ぶときに、おうちの方の“こんなふうに育ってほしい”という願望が選択の理由に入っていることはありませんか?
男の子に人気の習い事、女の子に人気の習い事と聞いて、それぞれどんな習い事を想像するでしょうか。男女による人気の習い事の傾向には、本人の「やってみたい」の他に、おうちの方の「やらせたい」意向が含まれているように思います。
ロボット教室やレゴ教室は、男の子に人気があります。このような習い事で扱うプログラミングは、算数でも必要な論理的思考力を身に付けることができますし、ブロックに親しむことは立体の想像力を鍛えます。女の子でも「やってみたい」と思うのであれば、否定せずやらせてあげてください。
「ロボット教室に来ている子、男の子ばかりみたいだけど、それでもいいの?」
このような声掛けは、お子さんを気遣っているようで暗に「理系は男子」を印象付けてしまうので注意が必要です。
3:おもちゃ選びに男女差を付けない
習い事選びとも共通しますが、おもちゃ選びも無意識に男女差をつけてしまいがちです。
「本人が好きだから」という理由であればいいのですが、単に男の子だからミニカーを、女の子だからお人形を、と選んでいることがあれば、性別に囚われないおもちゃ選びを心がけてみてください。
積み木やブロック、粘土などの遊びは算数の図形分野を強くします。加えて、野菜や豆腐の断面で立体を学べる料理も有益です。無理やりこれをしなさいと強要することは間違いですが、家にあるおもちゃや遊びの1つとして、いつでもできるようにしておくことはおすすめです。
まとめ:算数の得意・不得意は性別によらない
今回は、「女の子は算数が苦手」は本当か?について、算数の得意・不得意は性別によらないことをお伝えしました。ただし、図形分野は男の子のほうが正答率が高い傾向や、女の子は丁寧に問題を解く傾向にあるというような、男女の傾向の違いはあります。
それでも女の子が理数系から離れていき「理系は男子」の現状になっている要因は、周りからの声掛けや環境の影響が大きいようです。
今後は理系女子を増やす取り組みもあることから、今より活躍の場が広がることも期待されます。小さい頃から性差によって扱いに差をつけることをやめ、本人の好きで学びたい意欲に寄り添って、力を伸ばしてあげましょう。
記事執筆
〈タブレット教材「RISU算数」とは〉
「RISU算数」は1人ひとりの学習データを分析し、最適な問題を出題するタブレット教材。タイミングの良い復習や、つまずいた際には動画での解説の配信を行うことにより、苦手を克服し得意を伸ばします。
『10億件の学習データが教える 理系が得意な子の育て方』
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構成/HugKum編集部