渋谷の巨大壁画プロジェクト
都内の落書き問題。特に、渋谷区の都営バス事務所の壁の落書きはひどく、ようやく最近になって、都の協力もあり消去され、まっさらなキャンバスの様な壁になりました。
そこに再び落書きされることを防止するため、誰もが参加できるインクルーシブアートで壁画を描くという「SHIBUYA みんながつながる インクルーシブ・アート 」が、この夏に始まりました!
そして、この秋に夏に製作された原画に基づき、実際に壁画を完成していく様子をレポートしたいと思います。
「SHIBUYA みんながつながる インクルーシブ・アート 」は、東京都議会議員・龍円あいりさんの発案の元、落書き消しのエキスパート団体の「一般社団法人 CLEAN & ART」と、アートに力を入れている障害者の団体「渋谷区障害者団体連合会」の共催プロジェクトです。
龍円あいりさんは、自身もダウン症のお子さんを育てていて、インクルーシブ公園などの実現に力を入れています。
そして、実際にこのインクルーシブアートのデザインを実現させたのは壁画アーティスト傍嶋賢さん。「CLEAN & ART」の主な活動の一つである「SDGs」啓蒙の一環として「SDGs」のカラーをモチーフとして使い、誰でも作れるアートを作り上げました。
壁画の原画作りのワークショップ
壁画は、以前の記事でも紹介した2022年8月28日に開催された、一般の参加者と障がいのある子ども達の合同のワークショップや別日に開催された「渋谷区障害者団体連合会」の参加者が作った原画を元に仕上げていきます。
原画作りの会場には、「SDGs」の17色の三角形や四角形などのピースが用意されていて、ホワイトボードの上に好きな図形を作成していきます。
ピースは立体的な形で、身体的なハンデや視覚障がいがある人、小さいお子さんでも参加しやすく、誰でも使えるようにたくさんの工夫がこらされています。
医療ケアが必要な児童も参加!
また、外出が難しく、上記のワークショップに参加出来ない「フローレンスの障害児保育園ヘレン初台」に通う児童達にはキットを施設に持っていくことで参加が可能になりました。
「障害児保育園ヘレン」は、日本で初めて医療的ケア児・障害児を専門に長時間の預かりを実現した園。 私自身、壁画の原画作りを通して施設の存在を初めて知ることができました。
そして、健常者ですら子どもを預けて働くのが大変な中、障害があることで働けない保護者の支援がまだまだ足りないことに衝撃を受けました。
今回の原画づくりに参加したのは「ヘレン初台」に通う5名のうち、制作の当日に登園した3名と後日製作した一名で酸素や吸引などの医療的ケアが必要なお子さんでした。一人で座れるお子さんは、子ども用の椅子と机を使って制作。
完成した作品を撮影後も何パターンも図形を作って楽しんでいたそうです。中には体調がすぐれないお子さんもいて、抱っこで先生が優しく話しかけながら制作をしました。
「こうして全員で共通の作業をするのは大切なことです。お友達がどんなものを作っているのかを見られなくても、先生たちが笑っていたり、反応が聞こえてきたり、五感で集団生活を味わえるからです」と椎根亮園長がお話してくれました。
ハンデのある方に合わせたデザイン
壁画作りのデザインは、ハンデのある方に合わせています。上手い下手やかかる時間も関係なく、誰かと競うのではなく自分らしいデザインが、難しい作業を通さず可能になる。健常者と障害児、更に医療的ケアが必要な子どもたちと一緒に作ることのできる作品は他にはなかなかないと思います。
今回のプロジェクトを通して、障害者のご家族とお話しする機会や「障害児保育園ヘレン」のことを知り、考えさせられることがたくさんありました。
こうして、健常者、障害者、そして病気と闘う子ども達、そして手助けをしてくれる家族や保育士、職員の方々など、様々な人のたくさん思いが詰まったデザインの原画を元に、ついに10月1日と2日の二日間に渡り、壁に実際に子ども達と描くことになりました!
集合場所はバスの中!
なんと、集合場所はバスの中! バスの車庫の壁を使った壁画制作ということで、都バスからバスを休憩所として提供して頂きました。少し早めに着いたので、特別に運転席に座らせてもらったり、子ども達も大喜び。
バスの中で、「 CLEAN & ART」のスタッフから、消去される前の落書きされてしまった壁の様子や壁画のプロジェクトの経緯、そして、描き方の手順の説明を受けました。
渋谷区でも最大級の落書きで、壁を消すだけではなく、布や防犯カメラの設置に多額の費用がかかります。
再犯させないことが大切となりますが、監視だけでは難しく、抑止も必要ということで、今回のプロジェクトの大切さを実感しました。
説明が終わってからは、ペンキで汚れないように「CLEAN & ART」のロゴの入ったオリジナルのビブスに着替えます。同じ作業服を着ることで、より一体感が出てきますね。
ちなみに「CLEAN & ART」のスタッフの作業服は、人気アパレルブランドのビームス(Uniform Circus BEAMS)です。スタッフの作業着の汚れ具合もお洒落で、真っ白な新品よりもむしろ格好いい!
落書き消しの汚れ作業という暗いイメージを払拭したいという思いも込められているそうです。
みんなでペンキ塗り!
野外での作業なので天気が心配されましたが、両日とも気持ちの良い秋晴れに恵まれました!
集まった原画デザインは130、二日合わせて障がい者の子どもを含む120名近くが参加しました。
テープでデザイン作り
まずは、ひと家族に一つテープが配られ、テープで自由な長さや角度でマスキングしていきます。そして、テープの間にできた図形にSDGsの17色でペイントしていきます。
小さい子も、保護者や年上のお子さんと一緒にテープ貼りを楽しんでいました。
コロコロペンキ塗り
テープ貼りの後は、塗るスペースに番号をふっていきます。各家族に番号がふられたペンキが配られ、番号の箇所をそれぞれ塗っていきます。作業手順も分かりやすく、効率的で作業もサクサク進んでいきます。
ペンキ塗りはローラーをコロコロと転がすだけでとても簡単。ペンキは水分が少し多めで伸びがよく、小さな子ども達でも塗りやすい工夫がされています。17色もあるので、このペンキ作りが大変だったそうです。
10月とは思えない真夏の様な気温になりましたが、スタッフが休憩の声がけしながら、十分に水分をとりつつ、無理せず、楽しく仕上げていきました。
一般の参加者以外にも、ダウン症や障害者のお子さん達も参加しました。写真上はピンクの絵の具を塗っているダウン症のお子さん。水彩画が好きで家でもよく絵を描いているそうで、今回のイベントも楽しみにしていたそうです。
期待通りの仕上がりに!
壁画制作の提案者でもある都議の龍円あいりさんは、これまでの道のりは長かったけれど、期待通りの雰囲気に出来上がってきたと話してくれました。実は、当初は中学生くらいの年齢層がメインになる予想だったそうですが、未就学児が多く参加してくれたことが意外だったそう。
アート活動を通じて生まれたつながりを、さらに育てていけるように、インクルーシブアートの活動を続けたいと話してくれました。
壁画制作に参加してみて
今回のワークショップで仕上げた部分です。通るだけで楽しくなるカラフルな壁になりました!
これから、何十年も残る地元の壁画作りに参加できて嬉しく思います。
一見、子どもたちが好き放題、楽しく自由に作っているように思えますが、全体にバランスが取れていて、公共の場に相応しいデザインに仕上がっていくのに感心しました。街を汚す落書きと街を彩る壁画の大きな違いを感じました。
「CLEAN & ART」の皆さんがリタッチを施し、原画のデザインを加えていきます。
完成は10月24日にコーティング予定で、11月7日には完成式を行う予定とのこと。新しく生まれ変わった壁を見るのが待ち遠しいです!
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「SHIBUYA みんながつながる インクルーシブ・アート 」
- 開催場所(渋谷自動車営業所の壁)
- 東京都交通局 渋谷自動車営業所
- 東京都渋谷区東2丁目25−36
- 問い合わせ:「一般社団法人 CLEAN & ART」
- プロジェクトについての問い合わせは営業所ではなく、「一般社団法人 CLEAN & ART」にお願い致します。
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写真・文/Rina Ota