「飛ぶ教室」ってどんなお話?
「飛ぶ教室」は、ドイツの作家、エーリッヒ・ケストナーによって1933年に発表されました。30か国以上で翻訳されており児童文学の中でも名作として人気が高く、子どもだけではなく、大人でも涙なしには読了できないほど魅了される素晴らしいお話です。
エーリヒ・ケストナーの名作
「飛ぶ教室(原題・英語表記:The Flying Classroom)はドイツの作家、エーリッヒ・ケストナー(Erich Kästner)によって1933年に、ナチスドイツ時代に発表された小説です。
彼は元は詩人でしたが、編集者から児童文学を描いてみないかと提案され、最初に書いたのが「エミールと探偵たち」でした。これが大ヒットしたことから児童文学を描くようになり、その後手掛けたのが「飛ぶ教室」です。
「飛ぶ教室」は先生と生徒の関係も非常に魅力的に描かれていますが、彼自身も教師を養成する専門学校ギムナジウム(中間一貫教育校)に進んでおり、作中あとがきにも本人が登場していることから自分自身のギムナジウム時代と教師像を物語に投影しているともいわれています。
国:ドイツ
発表年:1933年
おすすめの年齢:中学生以上
作者のエーリヒ・ケストナーってどんな人?
エーリヒ・ケストナーは、1899年にドイツのドレスデンで生まれ決して裕福とは言えない家庭で育ちます。ケストナーは幼い頃から読書が好きで、学校の図書館で本を借りては読みふける日々を送っていました。
その後ケストナーは、ライプツィヒ大学でドイツ文学や哲学を学び、卒業後は新聞社や出版社で働きながら舞台評論家や作家としても活動を始めます。
1928年には児童文学作品「エミールと探偵たち」を出版、好評を得て一気に世界的な児童文学作家となります。その後も「飛ぶ教室」や「点子ちゃんとアントン」「二人のロッテ」など、多くの児童文学作品を手がけ、広く愛される作家となりました。
飛ぶ教室が書かれた時代背景
「飛ぶ教室」が発表されたのは、ナチス・ドイツの時代である1933年。
当時ドイツは、第一次世界大戦の敗戦やインフレーション、世界恐慌の影響によって混乱しており、ナチス党が急速に勢力を伸ばしていました。
同年1933年に、ヒトラーが首相に就任すると、ナチス党は文化や教育などあらゆる分野において、個人の自由や表現を制限するようになりました。このような時代に、「飛ぶ教室」は、個人の自由や想像力を尊重する作品として注目され人気を集めました。
この物語は、個人の夢や自由、友情、人間関係の大切さが描かれており、ドイツ社会の現実に対する批判や反骨精神が込められていると言われています。
物語のあらすじ
それでは気になるあらすじを、ご紹介します。
あらすじ
ドイツの小さな街にある、校則が厳しい全寮制の男子校が舞台。物語は高校1年生たちのクリスマス休暇までの数日間を描いています。
クリスマス休暇目前に学校でお芝居をすることになり、体育館で練習する間にトラブルが続出。お芝居のシナリオは、文章を書くことが大好きなジョニーが「飛ぶ教室」という題で執筆し、画家志望で絵がうまいマーティンが舞台美術を担当します。全5幕と、かなり本格的な仕上がりになっており、空を自由に飛ぶ夢をもった主人公が、何度もくじけそうになりながら夢をあきらめいで突き進む姿を描写しています。
しかし、それと同時に実際の生徒たち一人ひとりにも悩みや葛藤があり、先生と一緒に乗り越えていくストーリーです。物語の最後には心打たれる展開も待っており、読んだ人にとって忘れられない本の一つになることでしょう。
主な登場人物
主な登場人物を紹介します。それぞれのキャラが非常に濃いのが特徴です。
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ヨーナタン・トロッツ【=ジョニー】(孤児・作家志望)
親に捨てられ、乗っていた船の船長に拾われるも10歳の時に全寮制男子校に入れられる。文章を書くことが好きで、クリスマス会の劇「飛ぶ教室」シナリオ担当。
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マルティン・ターラー (秀才・貧乏な奨学生)
学業一番の秀才。絵の才能があり、お芝居では舞台・美術担当。非常に貧しくクリスマス休暇で実家に変える電車賃が工面できないほど。授業料半額となる奨学金免除をうけている。
マティアス・ゼルプマン(心優しい大柄スポーツマン)
恰幅が良く将来ボクサーになりたいと思っている。腕っぷしが強く、大柄でいつも腹ペコ。正義感のある心優しい性格。友達をとても大事に思っており、小柄で女の子のようなウリーもバカにすることなく優しく接する。ウリーが骨折したときも、クリスマス休暇返上で自分が面倒を見ると名乗り出る。
ウリー・フォン・ジンメルン(臆病者の貴族出身のチビ)
元貴族で裕福な家庭で育つ小柄で臆病者のウリー。争いごとが苦手。素直で正直な性格だけど、何よりもすぐに逃げ出す臆病者の自分が嫌いでいつか克服したいと思っている。そんな中、臆病じゃないことを証明しようと無謀にも高所からパラシュート降下するという事件を起こし骨折。周囲の目が変わる。
セバスティアン・フランク(冷静で斜に構えたインテリ)
常に斜に構えて冷静で繊細な性格。近所の学校との決闘の際には交渉人・参謀をつとめる。読書家で博学。
テオドール(上級生、下級生の見張り役)
唯一の上級生で下級生の見張り役、室長。意地の悪い性格から劇の練習をするために体育館を使おうとしたマーティンとケンカになる。のちに正義先生の過去を知り改心し、心優しい室長になる。
ヨハン・ベク(正義先生、寄宿舎に住んで監督している先生)
寄宿舎に一緒に生徒と住む舎監兼先生。正義感が強く、生徒たちからは尊敬され、絶大な信頼を得ている。6章ではどうして舎監先生になったかが語られる。
ローベルト・ウトホフト(禁煙先生、ピアニスト)
寄宿舎の横の空き地に廃車になった電車車両の中に住む男性。二等列車の禁煙車両をドイツ帝国から譲り受け住めるように改造している。正義先生と同じく、少年たちからは絶大な信頼があり愛されている。夜になると近所の酒場でピアノを弾き日銭を稼ぐも、過去は名医と呼ばれる医者であった。
物語のねらい・学べること
この物語で作者が伝えたかったことは何でしょう。時代背景とともに見ていきましょう。
作者が伝えたかったこと
この本は、子どもの時のことを忘れてしまった大人がむしろ読むべき本かもしれません。大人になると「子どもなんて何も悩みないでしょ」とか「子どもの悩みなんて、ちっぽけなもんだ」などと、つい、子どもの内面を軽視してしまいますよね。しかし、誰もが子どもの時に真剣に悩んだり苦悩したり葛藤したりしたことがあるはずです。
物語では、先生が大人の悩みも子どもの悩みも重さに違いはないと言います。また、夢をあきらめそうになっている生徒への「とにかく自分に正直でいろ」「自分をごまかすな」といった励ましの言葉も見られます。
名言集
本の中には数々の名言が出てきて、大人がハッとさせられることも多くあるでしょう。作者ケストナーはナチスドイツが発言の自由すらも奪う暗黒の時代であったことから、子どもたちにはどうしても夢や希望、明るい未来を持ってほしいと願っていたようです。
●人生、なにを悲しむかではなく、どれくらい深く悲しむかが重要なのだ。
●子どもの涙の重さは大人の涙の重さに劣るものではない。
●なにしろ、人生というやつは、ものすごくでかいグローブをはめていますからね。みなさん、それにたいする覚悟なしに、そういう1発をくらうと、あとはもう、ちっぽけなせきばらい1つで十分、それだけでもう、うつぶせにのびてしまいます。だからいうのです。へこたれるな、不死身になれ、と。わかりましたね。いちばんかんじんなこのことさえわきまえていれば、勝負はもう半分きまったようなものです。
「飛ぶ教室」を読むなら
ここからは、そんな『飛ぶ教室』を読むためのおすすめ本をお伝えします。本作に興味を持ったらぜひ手に取っていただきたい4冊をご紹介。ご参考までに、翻訳者による違いに触れました。
飛ぶ教室 (岩波書店)
(翻訳) 254ページ ハードカバー 2006/10/17
池田 香代子単行本、Kindle版
難しい漢字にはルビあり、小学生高学年~。字も小さすぎず、大きすぎず、お子さんが読みやすいサイズです。池田香代子氏の翻訳は「〜だ・〜である」調。現代の小中学生でも読みやすい言葉づかいで、テンポよく物語が展開していきます。
飛ぶ教室 (新潮文庫)
(翻訳) 2014/11/28
223ページ 文庫 池内 紀
池内紀氏の翻訳は、特に古くものなく、かといって現代に寄せているわけでもないので、どの年代でも読みやすいです。言葉づかいに癖がないぶん登場人物の個性が引き立っています。他の本ではいずれも「正義さん」「正義先生」と訳されているベク先生が、池内訳では「道理さん」と訳されています。
漢字多め、ルビは難しい漢字のみ。小学生高学年~。
飛ぶ教室 (講談社)
山口四郎氏による翻訳は、「です・ます」調で平易で読みやすいです。滝平加根氏による素朴なイラストも、物語に合っていてイメージしやすいです。ルビも多めですが、字は大きくないため、小学校高学年~。
カラー名作 少年少女世界の文学 飛ぶ教室(小学館)
小学館による編集。カラー版名作全集『少年少女世界の文学』全30巻として、小学館より刊行。飛ぶ教室は33編中29番目。タブレットに入れて持ち歩くのに便利なキンドル版のみの販売です。
希望こそが人生
ナチスの台頭する時代に描かれたこの作品は、子どもたちが成長する過程を通して描かれるメッセージが大人たちの胸をも打つ感動的な物語です。
親子で一緒に読んだ後、感想を語ってみるのも良いでしょう。お子さんやお孫さんのお誕生日プレゼントにもきっと喜ばれる一冊です。
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文/加藤敬子 構成/HugKum編集部