なぜ「風邪」は「引く」って言うの?【知って得する日本語ウンチク塾】

国語辞典編集者歴37年。日本語のエキスパートが教える知ってるようで知らなかった言葉のウンチクをお伝えします。

病気にかかることを「引く」というのは、風邪だけ

「かぜ」と呼ばれる病気になることを、「かぜを引く」と言います。この「引く」ですが、ほかの病気では使いません。なぜ「かぜ」だけ「引く」と言うのかご存じでしょうか?

 ほかの病気、たとえばインフルエンザや感冒は、「罹(かか)る」「なる」とは言いますが「引く」とは言いません。逆に「かぜ」は「罹る」「なる」と結びつけようとすると言えなくはないのですが、いささかすわりが悪い気がしてしまいます。

昔は「風」が病気を発症させると考えられていた

これは昔の人が空気の流れである「風」のせいで、病気の「かぜ」を発症すると考えていたからなのです。どういうことかと言いますと、「かぜを引く」の「引く」は、自分の体に受け入れたり、身に及ぼしたりするというのがもともとの意味です。そしてこれが吸い込むとか、かぜにかかるとかいう意味になったのです。つまり病気の「かぜ」は、空気の流れの「風」を体に吸い込んだために起こると考えられていたようです

病気の「かぜ」は漢字で「風邪」と書きます。「風邪(ふうじゃ)」は体内にはいっていろいろな病気を引き起こすとされる風のことなのです。

最近はあまり言わなくなりましたが、薬や茶などが古くなって湿ったり乾燥したりして役に立たなくなることも「かぜを引く」と言います。これも、空気の流れの「風」に当たって、そのような状態になると考えたために生まれた意味のようです。

目病み女にかぜ引き男

ちなみに、「目病み女にかぜ引き男」ということわざがあります。

目をわずらっている女は、目が潤んでいてその様子が男心をそそり、かぜを引いている男は、鼻にかかった声をしているので女心をくすぐるといった意味です。でも人それぞれですから、男がかぜを引いたからといって必ず女性にもてるようになるという保証はありません。

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神永(かみなが・さとる)
辞書編集者、エッセイスト。元小学館辞書編集部編集長。長年、辞典編集に携わり、辞書に関する著作、「日本語」「言葉の使い方」などの講演も多い。著書『悩ましい国語辞典』(時事通信社/角川ソフィア文庫)『さらに悩ましい国語辞典』(時事通信社)、『微妙におかしな日本語』『辞書編集、三十七年』(いずれも草思社)、『一生ものの語彙力』(ナツメ社)、『辞典編集者が選ぶ 美しい日本語101』(時事通信社)。監修に『こどもたちと楽しむ 知れば知るほどお相撲ことば』(ベースボール・マガジン社)。NHKの人気番組『チコちゃんに叱られる』にも、日本語のエキスパートとして登場。新刊の『やっぱり悩ましい国語事典』(時事通信社)が好評発売中。

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