アニメーションから実写版にいたるまで、これまであまた溢れる「スパイダーマン」映画が作られ、時代を超えて愛され続けてきました。そんななか、本日3月8日より封切られた最新作『スパイダーマン:スパイダーバース』は、これまで観たことのない画期的な映像美はもちろん、新しいアプローチ方法とドラマティックな物語にうなります!
人気シリーズものは、マニアックに攻めすぎるとビギナーがおいてきぼりをくらうし、かといって内容がぬるすぎると、ファン離れにつながります。ところがこの最新作は、両者のハートを鷲づかみ、しかも涙腺を刺激します。これまでの「スパイダーマン」映画の名シーンをフィーチャーしつつ、初登場となる主人公の少年の勇気と成長を称える感動作に仕上がりました。
先日第91回アカデミー賞長編アニメーション映画賞を受賞しましたが、実は「スパイダーマン」映画の長い歴史において、オスカー受賞は初の快挙でした。なによりも、親子でとびきり楽しめる仕掛けが多数散りばめられています。
パパも共感!? 40代のスパイダーマンも登場!
マーベルコミックの映像化作品では、作品を飛び越えてアメコミヒーローたちが共演する「アベンジャーズ」シリーズが日本でも大ヒット。ママたちにとっても、作品のヒーローたちがクロスオーバーして共演する「仮面ライダー」映画でもおなじみの手法です。本作では、いろいろなスパイダーマンが“次元”を超えて集結し、タッグを組んで戦うところが新鮮です。
今回新生スパイダーマンとなるのは、13歳の少年、マイルス・モラレス。ハリウッドが近年唱え続けている“多様性”を反映してか、半分プエルトリコ人という有色人種のキャラクターとなっています。彼はごく普通のヘタレな少年ですが、いろいろな人との出会いを経て、少しずつ勇気が芽生えていきます。
また、次元を超えてやってくるスパイダーマンのなかには、40歳となり、少しお腹が出てきたピーター・パーカーの姿も。ややお疲れ気味で、中年の悲哀も感じさせるキャラクターなので、パパたちが大いに感情移入できそうです。
ほかにもヒロインであるグウェン・ステイシーが、ヒーローになる「スパイダー・グウェン」や、日本のアニメにオマージュを捧げた少女と戦闘ロボットがタッグを組んで戦う「ペニー・パーカーとSP//dr」は、女の子たちに夢を与えてくれそう。また、クールで渋いハードボイルドなキャラクター「スパイダーマン・ノワール」や、おちゃめな「スパイダー・ハム」など、バラエティーあふれるヒーローたちの共演にも大興奮です。
「スパイダーマン」が伝えるメッセージが胸に染みる
映像は本当に活気的で、スクリーンで観るべき1作、ということは声を大にして言いたいのですが、本作がすばらしいのは、「ヒーローだって必ずしもすべての人を救えるわけではない」という現実が描かれていること。よく考えれば当たり前だけど、さほど語られてこなかったヒーローの葛藤も、本作ではきちんと描かれます。でも最終的には「自分を信じろ!」と背中を押してくれる。そこにいたる心の機微が丁寧に描写されています。
昨年、「スパイダーマン」の生みの親であるスタン・リーが天に召され、世界中の人々が涙しました。本作には、スタン・リーに対する敬愛の念もあちこちに散りばめられています。生前に彼はこう言ったとか。「困った人がいたら、迷わず助けられるのがヒーローだ」と。
本作では、普通の少年がスパイダーマンになりますが、日常に置き換えれば、困っている人に手を差し伸べられる人は、誰でもヒーローだなと、腑に落ちました。世知辛い現代だからこそ、なんとも胸に響く普遍的なメッセージです。いろいろな意味で、ご家族で観に行ってほしい、イチオシのアニメーション映画です。
監督:ボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマン
声の出演:シャメイク・ムーア、ジェイク・ジョンソン、ヘイリー・スタインフェルド、ニコラス・ケイジ …ほか
日本語吹替版・声の出演:小野賢章、宮野真守、悠木碧、大塚明夫…ほか
公式HP:spider-verse.jp/
文/山崎伸子