コロナ禍が学校での歯磨き習慣を変えた!「口を閉じた状態」で「うがいはゆっくり」ニュースタンダード時代の歯磨き法を歯科医が解説

アフターコロナの新学期が始まります。日本学校歯科医会は、ニュースタンダード時代に向けた「学校での歯磨き」の注意点を発表しました。そのポイントについて、歯学博士・島谷浩幸先生が詳しく解説します。

コロナ禍は歯磨き習慣も変えた

4月になって入学や入園など、新生活が始まる子どもたち。新しい仲間との出会いや新たな学びの毎日が始まることに、胸を膨らませていることでしょう。

およそ3年に及んだコロナ禍もようやく終息の兆しを見せ、2023年3月13日からマスク着用のルールが緩和、5月8日には「2類相当」から季節性インフルエンザなどと同じ「5類」への引き下げなど、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関して政府や厚生労働省の規制は軟化しています。しかし、依然として未然に防ぎたい感染症であることに変わりありません。

周知の通り、コロナ禍は私たちに根付いていたライフスタイルを大きく変えました。その一つが、歯磨き。日常の何気ない習慣だった歯磨きでさえ、さまざまな気配りが必要な時代になってきています。

学校や幼稚園で新たな集団生活が始まる子どもたちにとっても、「飛沫」をキーワードとして気を付けたい注意点があります。

“飛沫のない”歯磨きの時代へ

学校生活でクラスメートと肩を並べて歯磨きをするシーンでまず思い浮かぶのは、給食や昼食後の歯磨きではないでしょうか。

コロナ禍以前の学校での歯磨きは、ワイワイと楽しくおしゃべりしながらしていた印象があったと思います。しかし、コロナ禍がようやく落ち着きつつある現在でさえ、そのような歯磨き風景は好ましくないとされる世の中になってしまいました。

日本学校歯科医会は下記に紹介するような指針とともに、コロナ禍における給食後の安心・安全な歯磨き方法について啓発しています。そのポイントについて詳しく解説していきます。

1:洗面所が混まないようにしましょう

洗面所まわりの“3密”に注意

マスクを外した状態の子どもたちが密集する洗面所は、感染リスクが高いのは言うまでもありません。いわゆる“3密”になりやすい歯磨き環境は作らないようにしましょう。

例えば、人との距離(ソーシャルディスタンス)を保つ、整列して順番を待つ、時間帯をずらして(人数を分けて)歯磨きをする、近くに窓があれば開けて換気をよくする、などの配慮が必要です。

2:歯磨き中の私語はやめましょう

他の人と距離をとりつつ、会話もひかえて

歯磨きをしながら私語をすると、唾液を介してウイルスなどの感染源が飛散し、感染リスクが高まります。特に、向かい合った姿勢での会話は飛沫が口から入りやすいため、好ましくありません。

皆さんの中には、新型コロナウイルスは呼吸器から感染するというイメージがあるという方も多いのではないでしょうか?  しかし実は、口も新型コロナウイルスの入り口の一つです。この事実を示す研究報告を紹介しましょう。

新型コロナウイルス感染症の症状の一つに味覚障害があること、新型コロナウイルスの遺伝子を唾液中から検出できることなどから、口腔と新型コロナウイルスとの密接な関連性が示唆されてきました。

2020年8月、神奈川歯科大学の槻木恵一教授らのグループが報告した研究では、口腔内にある舌、味蕾(味を検知する小器官)、歯肉溝(歯と歯肉の間にある溝、歯周ポケット)には新型コロナウイルスが感染するのに必要な生体側受容体ACE2と、ウイルス粒子の宿主細胞への侵入を促進する酵素であるセリンプロテアーゼTMPRSS2が存在することを明らかにしました。

つまり、口の中に存在する多くの細胞からウイルスが体内に入り込んで感染することが判明したのです。

歯磨き中は歯磨剤に含まれる発泡剤の泡で、飛沫がさらに舞いやすくなっています。歯の汚れや虫歯菌などの細菌成分を浮かせるための発泡剤ですから、ウイルスがいれば当然、ブクブクした泡には含まれると考えたほうがいいでしょう。

3:歯磨き中は口を閉じた状態で

前歯の裏など、口を閉じて磨きにくい時は手で口を覆って

2021年5月、日本歯科医師会はホームページ内の啓発番組「日歯8020テレビ」に新しい動画を公表しました。その動画は「ウィズコロナ時代の歯のみがき方 口を閉じてみがきましょう」という題名で、新たな歯磨き法を提唱しています。

新型コロナウイルスは唾液を介した飛沫の感染リスクが高いことが指摘され、歯磨きやうがいをした際に生じる飛沫による感染を不安視する声もあるため、実際の歯磨き時に飛沫がどの程度飛ぶのかをチリやホコリが無いクリーンルームで実験し、その様子を本動画で閲覧できるようにしたのです。

結果として、口を開けて磨いた場合、特に上顎の前歯の裏側を磨く時に大量の飛沫が生じることが判明しましたが、口を閉じて歯磨きした際には、同じように磨いても飛沫は飛び散りませんでした。ですから、日本学校歯科医会が奨励するように、前歯の裏を磨く時は口を手で覆って磨くようにしましょう。

本動画を監修した日本歯科医学会連合副理事長の川口陽子氏は、「唾液飛沫が飛ばないように口を閉じて行う歯磨き方法は、生活におけるエチケットとして新型コロナの時代が終わっても実践することが重要である」と説明しています。

また、同ホームページでは唾液飛沫を飛ばさない歯磨きのポイントとして、ブラシ部分が小さめの歯ブラシを選ぶことも推奨しています。大きな歯ブラシだと口唇の隙間から飛沫が飛び散りやすいので、できれば使わないようにしましょう。

▼日本歯科医師会ホームページ「日歯8020テレビ」動画(4分59秒)
「ウィズコロナ時代の歯のみがき方 口を閉じてみがきましょう」

4:うがいは少ない水で1~2回、吐き出すときは低い姿勢でゆっくりと

うがいで吐き出すときの飛沫にも注意

うがいで吐き出すのは細菌などの汚染物質が混ざった水なので、飛び散らないように低い位置から静かに吐き出しましょう。

うがいは各自のコップを使うのはもちろんですが、コップも不衛生になりやすいため、できればコップを使わず、きれいに洗った両手を合わせてできたくぼみに水をくみ、うがいをしたほうがより衛生的です。

5:片付けるときには、歯ブラシを清潔に

歯ブラシは使用後に流水下できれいに洗ったつもりでも、残念ながら無菌状態にはなりません。

しかも、湿った状態が続くのは衛生上好ましくないので、歯ブラシの水をよく切った後はティッシュや使い捨てのペーパータオルなどで水分を十分に吸い込ませて拭き取りましょう。この際、みんなが共用するようなタオルは感染リスクがあるため決して使わないようにしてください。さらに、風通しが良く、乾きやすい場所に保管すると雑菌の繁殖を抑えることができます。

新しい歯磨き法が人々の日常に定着するには時間を要すると思いますが、それをサポートできるように今後も情報発信を続けていきたいと思います。

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記事執筆

島谷浩幸

歯科医師(歯学博士)・野菜ソムリエ。TV出演『所さんの目がテン!』(日本テレビ)等のほか、多くの健康本や雑誌記事・連載を執筆。二児の父でもある。ブログ「由流里舎農園」は日本野菜ソムリエ協会公認。

協力/日本学校歯科医会(イラスト提供)

参考:
日本学校歯科医会:新型コロナウイルス感染予防のための食後の歯磨きスタイル
Tsukinoki et al.: Existence of SARS CoV-2 Entry Molecules in the Oral Cavity. International Journal of Molecular Science(2020年8月オンライン掲載)

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