『分福茶釜』ってどんなお話?
『分福茶釜』は日本の昔話。茶釜に化けたたぬきが芸をして裕福になっていくお話です。物語の内容や結末には、いくつかのバリエーションがありますが、江戸時代初期頃には現在の形になっていたと考えられています。
国:日本
発表年:江戸時代初期頃
おすすめの年齢:読み聞かせができる1歳頃から、一人で読める6歳頃まで
本物の分福茶釜が見れるお寺がある?
物語の中で、茂林寺(もりんじ)というお寺が登場します。このお寺は群馬県に実在するお寺で、今でも本物の分福茶釜を祀っているそう! 分福茶釜の他にも、参道では21匹の信楽焼のたぬきが出迎えてくれますよ。
物語の元となった茂林寺の伝説とは?
『分福茶釜』の物語は、茂林寺の伝説が元になったといわれています。茂林寺には守鶴(しゅかく)という老僧がおり、千人分のお湯を組んでも尽きることがない不思議な茶釜を持っていました。ところが守鶴の正体はたぬきで、そのことがばれてしまったため、お寺を去って行ったというものです。
「ぶんぶく」の由来は?
分福茶釜は「ぶんぶくちゃがま」と読みますが、「ぶんぶく」の由来は諸説あります。一つめは、茶釜のお湯が沸く音という説。二つ目は、守鶴が茶釜を「人に福を分け与える」という意味で「分福」茶釜と呼んでいたという説です。
物語のあらすじ
『分福茶釜』の元となった伝説や、茶釜が見れるお寺がわかったところで、さっそくあらすじについて見ていきましょう!
あらすじ
むかし、あるお寺に一匹のたぬきが忍び込みました。お供え物の団子をつまみ食いしようとしたところ、お寺の小僧が戻ってきたので、慌てて茶釜に化けます。茶釜を見つけた小僧は不思議に思い、和尚様に伝えに行きました。
和尚様は、きっと誰かが贈ってくれたに違いないと思い、小僧に茶釜を磨くように言います。小僧がごしごし茶釜を磨くので、あまりの痛さにたまりかねた、たぬきは「そうっと磨けや」と声を上げました。
びっくりした小僧は和尚様に報告しますが、信じてもらえません。次は茶釜でお湯を沸かすように言われ、小僧は茶釜を火にかけました。すると、たぬきはあまりの熱さに暴れ出してしまいます。それを見た和尚様は、「この茶釜はお化け茶釜だ!」と言って、どこかに捨ててくるように言いました。
たぬきの茶釜は道端に捨てられてしまいましたが、その横を古道具屋のおやじが通りかかりました。おやじは「見事な茶釜だ」といって、茶釜を持ち帰ることに。
その夜、枕元で音がするので、おやじが見てみると、茶釜がたぬきの姿をしているではありませんか。たぬきは「寺に忍び込んだら見つかりそうになり、茶釜に化けたものの戻れなくなってしまった」と、全て正直に話しました。
そして「自分が芸をして稼ぐから、どうかこのまま家において欲しい」と頼みました。たぬきの芸を見たおやじは感心し、たぬきと一緒に見世物小屋を始めます。するとたちまち大人気となり、二人はとても裕福になりました。
しばらく見世物小屋をやった後、おやじはたぬきに「そろそろ見世物はやめて、お寺でのんびり暮らしてはどうか」と提案します。おやじは、たぬきがかつて忍び込んだお寺に、これまでのことを全て話し、たぬきをおいてくれるように頼みました。
お寺はその後、たぬきを大切に祀ってくれたので、たぬきはとても幸せに暮らしました。
あらすじを簡単にまとめると…
お寺に忍び込んだたぬきが慌てて茶釜に化けたところ、火にかけられ熱くて正体を現します。一度は道端に捨てられた茶釜のたぬきですが、優しい古道具屋のおやじに拾われ、一緒に見世物小屋をはじめて裕福になります。しばらくして、おやじがお寺に頼んでくれたおかげで、茶釜のたぬきはお寺で大切に祀られ、幸せに暮らしました。
主な登場人物
『分福茶釜』は、最後にたぬきが死んでしまったり、茶釜以外のものにも化けるなど、話の内容や結末のバリエーションが豊富。しかし、登場人物はほとんど変わりません。
物語を展開していく、主な登場人物たちをおさらいしておきましょう。
たぬき
お寺に忍び込み、お供え物のだんごをつまみ食いしようとしたたぬき。小僧に見つかりそうになりとっさに茶釜に化けますが、元の姿に戻れなくなってしまいます。古道具屋のおやじと見世物小屋を始めると、その芸が大人気に。
おやじ
優しい古道具屋のおやじ。道に捨てられていた茶釜を見つけて拾います。たぬきと一緒に見世物小屋を始め、裕福になりました。
小僧
茶釜に化けたたぬきを、寺で初めて見つけた小僧。和尚様に頼まれて、茶釜を磨けば話しかけられ、湯を沸かせば暴れまわる様子を見て、腰を抜かして驚きます。
和尚様
茶釜は、誰かからの贈り物だと信じていた和尚様。湯を沸かそうとしたら暴れまわる茶釜を見て驚き、捨てるように言います。最後は、おやじから話を聞き、戻ってきた茶釜のたぬきを大切に祀りました。
『分福茶釜』を読むなら
『分福茶釜』は有名な昔話ということもあり、多くの出版社から絵本が出版されています。書店で実際に手にとったり、WEB上で試し読みをして、内容の違いやイラストの雰囲気、サイズ感などを見て、気に入ったものを購入してもいいですね。
『ぶんぶくちゃがま(日本名作おはなし絵本)』(小学館)
富安陽子による文と、植垣歩子によるイラストの美しい大型本。登場人物たちの表情の豊かさや、丁寧に描き込まれた江戸の賑わいなど、味と温かみがあるイラストが魅力的。テンポのいい文章も、読んでいて楽しい気持ちになります。
『ぶんぶくちゃがま(はじめての世界名作絵本)』(ポプラ社)
持ち運びしやすく、子どもの手にもちょうどいいサイズ感。こわれにくい丈夫な製本で、忙しい時も読み聞かせやすいボリューム感。本格的なアニメーションイラストや、教科書体を使った読みやすい文字など、工夫と魅力が盛りだくさんです。
『ぶんぶくちゃがま(子どもとよむ日本の昔ばなし)』(くもん出版)
昔話研究の第一人者である小澤俊夫による文と監修。昔話本来の語り口を再現することで、テンポ良く読みやすい文章で、読み聞かせにぴったりです。
物語を読んで、茂林寺を訪ねて、二度楽しい『分福茶釜』
物語を読み終わった後、分福茶釜を実際に見ることができるお寺があると知ったら、子どもたちは驚くのではないでしょうか。たぬきが化けた不思議な茶釜。物語の中だけの話だと思っていたら、現実に存在するなんて。
伝説と現実の二つの世界の狭間で、どきどきわくわくしながら、ますます想像力が掻き立てられそうです。ぜひ物語を読んだ後は、子どもと一緒に茂林寺に足を運んでみてはいかがでしょうか。
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構成・文/伊藤舞(京都メディアライン)