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「今まで頑張ったのだから続けてほしい」はあり?
幼児に比べて小学生は、経験から学んだり、そこから考えを広げたり、これからやることを計画したりと、考える力が伸びる時期です。もちろん大人ほどではありませんし個人差もありますが、それでも少しずつ「自分で考えて行動できる」ようになります。
習い事においても「仲のいい友だちがやっているから」「オリンピックで〇〇の競技がカッコよかったから」など、自分なりの動機や理由があって始めた場合も多いことでしょう。
習い事をやめるとこれまでの努力が無駄になる?
そんな子どもが「やめたい」と言うと、親は少なからずがっかりします。そして「自分からやりたいって言ったのに……」と、やる気が続かない子どもに不甲斐なさを感じて叱ったり、これまでやった努力がムダになるとばかり「もっと頑張れ」と奮い立たせようとすることもあるのではないでしょうか。
「子どもに‶今まで頑張ったの『だから』続けてほしい〟というのは、裏返せば‶続けている子は認める=続けられない子は認めない〟という条件付きの愛になっています。親は子どもに習い事をやらせてあげたい、そして応援してあげたいと思うものですが、根底にあるのが条件付きの愛だとうまくいかなくなる可能性があります」と道山先生は言います。
小学生が習い事をやめたくなる3つの理由
そもそも小学生が習い事をやめたいと思う時、以下がその原因のトップ3だと道山先生は指摘します。
- ①興味がなくなった
- ②人間関係がうまくいかない
- ③活躍できない
- ①は最初は強い動機付けがあって始めてみたけど、いざやってみたらそこまで楽しくなかったというケースです。
- ②は習い事自体は好き、楽しいと感じているけど、教室の友だちや先生、コーチとうまくいかなくて「教室に行きたくない」と感じている場合です。
- ③は、とくにチーム競技で「レギュラーになれなかった」とか、個人競技で「負けが続いている」、舞台や発表の場で「いい役(ポジション)をもらえない」「入賞できない」など、自分と周りの子のレベルの違いに気づいて楽しくなくなるというケースです。
ただどのような理由であれ、子どもは自分から言いたがらないことも多いので、親がうまく気持ちを引き出すことが大切です。
「頭ごなしに‶何言ってるの!〟‶もっと頑張りなさい〟‶そんなこと我慢しなさい〟など詰問したり叱ったりするのは良くないですね。子どもは落ち込んでいるのですから‶何かやめたい理由があるのかな?〟と穏やかに聞いて、子どもの声にしっかり耳を傾けてあげましょう」
子どもが「やめたい理由」を言いたがらないときは
やめたい理由を子どもが言いたがらない場合、「言うと親に叱られるから」「否定されるから」と思っていることも多いのです。日ごろの親子関係が悪いと、子どもは素直に心を開きません。親に叱られることを恐れるあまり、嘘の理由を作って子どもなりに「正当化させたい」という心理が働くということもあります。
「もし日ごろからお母さんとの関係が悪いという場合は、お父さんや祖父母など、身内のなかで違う人が聞くほうがいいかもしれません」
人間関係が原因なら、親は即行動を
上の3つの理由のうち、②の場合だけは早急な親の対応が必要です。
「多いのは友だち関係のトラブルですが、先生、コーチの暴言や体罰でイヤになる子も少なくありません。教室での人間関係がよくない状況のなかで無理に頑張らせると、子どもの心に深い傷を負わせてしまいます。これは絶対に避けるべき。すぐに親が動いてください」
親は我が子を守るというスタンスで、
「うちの子は友だちからいじめを受けていると言っていますが、それは事実ですか?」
「コーチに頭をぶたれたと言っていますが、なにがあったのですか?」
など、あくまでも「子どもから聞いた情報だけど……」という言い方をして、事実として何が起きたかを知りたい、という姿勢で相談することが大切です。
そして親は先生やコーチの対応を理解、信頼できて、解決に導いてくれると思えれば、子どもの気持ちが回復するまで休ませて様子を見るのも方法です。解決しない場合は、もう一度子どもと話し合って「やめるか」「我慢して続けるか」を考えるといいでしょう。
それぞれの発言が食い違うときは要注意
「先生やコーチの暴言や体罰があった」などと子どもが言う場合は、注意が必要です。事実のこともありますが、子どもは「やめたい原因をつくるために嘘をついているかもしれない」からです。
例えば子どもは「コーチにぶたれたから、もう行きたくない!」と言っているが、コーチは「ぶっていない」と言ったとします。これは明らかに「どちらかが嘘をついている」ことになります。そのような場合は、コーチと「その上の立場」の人、親、子どもの最低4人で話をする機会を作ってもらい、事実を突き止めていくことが必要になります。
一カ月様子を見るか、一カ月休ませてみるのも方法
①と③の場合は、子どもの気が変わることもあるので、衝動的に「やめたいなら、やめていいよ」ではなく、一定の猶予期間を作って子どもに考えさせるといいようです。
その時の親の声掛けとしては、
「そうか。まあやってみると、想像と違うこともあるもんね。じゃあ、あと1カ月続けてみて(または1カ月お休みしてみて)、それでも気持ちが変わらなかったらやめるというのはどうかな?」
と親はあくまでも提案し「子どもが決める」ことがポイントです。
休会の間に子どもを観察
「親はせっかくこれまでやってきたという思いがあるので‶続けてほしい〟と思うでしょう。すると‶やめさせたくない〟という気持ちが言葉や態度に出てしまい、子どもはかえって反発するので注意が必要です。いったん休会にして子どもの様子を観察してみることをマイナスに思う必要はありません」
1カ月休んでも全く態度が変わらないなら、そもそも興味がなくなってしまったと考えてもいいでしょう。イヤイヤ続けることで、その先の子どもの貴重な時間を削ることになると考えれば、「やめる」という決断もしやすいのではないでしょうか。
一時的な気持ちで「行きたくない」という場合は、子どもは1~2週間でそわそわし始めて「やっぱり行く」となることが多いものです。1カ月あればある程度悩みも消えます。もちろん1カ月というのはあくまでも目安。休む期間は親子で相談して決めればいいことですが、長くても3カ月までと考えましょう。
「久しぶりに教室に行ってみる?」と明るい声掛けを
休ませた後の親の声掛けとしては、
「(1カ月)休んだし、そろそろ久しぶりに行ってみる?」
と明るく誘ってみるといいでしょう。
そのとき、「お母さんはあなたが続けてもやめても、どっちでも構わない。でも1カ月経って、このまま休み続けるのはよくないので、どうしたいか教えてほしい」という心構えで聞くのがポイントです。
習い事に対して「ただ楽しめればいい」というスタンスの子もいる
習い事に対して子どもは「スキルを磨いて、上を目指したい」タイプと、「友だちと楽しくやりたい」タイプの2つがあることも知っておくと、親の子どもを見る目も少し変わってくるかもしれません。
親はせっかく習わせているので前者であってほしいと願いがちですが、後者タイプの子も確実にいます。そしてその子は「レッスンが楽しければいい」「教室で仲間や先生とワイワイするのが好き」と思っているので、自主練はしません。向上心も見られないかもしれません。だけど、その習い事が好きなのです。結果や成果が出ないからといって、子どもに「向いていない」と決めつけないほうがいいでしょう。
道山先生は、子どもが習い事で結果を出している子の特徴の一つとして、「親が楽しんでやっているものや、親自身がプロや上級者で結果を出しているものだと、子どもも良い結果を残しているケースに出会ったことは多々ある」と言います。
習い事も親子の距離感が大事
その理由として、遺伝的なところはさておき、親はその習い事に理解があるので、練習環境や先生選びなど積極的なサポートをすることが考えられます。それほど親のサポートは影響が大きいのですが、どこまで親が関わるかが問題。子どもが思春期に入るころには、指導は先生やコーチに任せていき、子どもとの距離感を上手に保てればいいのですが、自分と同じ、あるいはそれ以上の成果を求めて口や手を出し過ぎると、間違いなく子どもは反発します。引き際が肝心なのです。
「結局どのようなケースであっても大事なのは、親の無条件の愛なのです。つまり習い事については‶あなたがやりたいこと、続けたいことなら応援するよ。でもやりたくないならやめてもいいんだよ。無理に続ける必要はないよ。お母さん(お父さん)はあなたが元気でいるのが一番だから〟という姿勢を伝え続けることが何よりも大切だと思いますね」