「王さまの耳はロバの耳」の王さまは実在した! あらすじと教訓、おすすめ絵本を紹介【教養としての童話】

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『王さまの耳はロバの耳』は、紀元前8世紀ごろのお話と言われております。どうして王さまの耳がロバの耳になってしまったのか、それによって村人たちに何が起こるのか、このお話から読み解く教訓とは何なのか解説します。

寓話『王さまの耳はロバの耳』とは

イソップ物語の一つとして知られる『王さまの耳はロバの耳』は、ギリシャ神話がもととなった、現在のトルコあたりのお話です。お話にはいろいろなバージョンがありますが、その中の一つをここでご紹介いたします。

イソップ寓話のひとつ

日本では『王さまの耳はロバの耳』はイソップ寓話として知られていますが、実は現在一般的に知られているイソップ物語のリストには『王さまの耳はロバの耳』は含まれていません。ギリシャ神話の一つとして数えられることが多いようです。

イソップ寓話にまとめられたとされている説では紀元前8世紀ごろのお話。ギリシャ神話に出てくる古代アナトリア(現在のトルコ)のフリギア王国・ミダス王の物語です。

原題:”Ὀνος ὦτα”(ギリシャ語)、英語原題”Ears of a donkey”
国:古代ギリシア
発表年:紀元前8世紀ごろ

原作はギリシャ神話で、実在した「ミダス国王」の物語

まずは、ミダス国王について解説します。ミダス王の耳がどうしてロバの耳なってしまったのでしょうか。

ロバの耳になってしまう王

贅沢を嫌うミダス王は、田舎に住み、自然と芸術、特に音楽を愛し、心豊かに穏やかな生活を送っています。

ところが、ある日、笛を吹くパーン神(笛の神)の音色にすっかり心を打たれ、ミダス王が賛辞を贈ると、パーン神は、自分は世界一の音を出す、と自信満々に答えます。

すると、それを聞いていた立琴(ハープ)の神アポロンが異議を唱え、どちらの音色が優れているかと争いになります。山の神たちはアポロンの方が上手いと審査をしますが、ミダス王だけはパーン神の方ほうが上手い、と言います。

すると、怒ったアポロンは「そんなバカ耳はロバの耳になってしまえ」とミダス王の耳をロバの耳にしてしまい、『王さまの耳はロバの耳』のお話はここから始まります。

16世紀にオランダ人画家ピーテル・パウル・ルーベンスによって描かれたミダス王がロバ耳にされる瞬間。Print made by: Frans Pilsen, Wikimedia Commons(PD)

ロバ耳の科学的根拠

ミダス王や統治していたフリギアは実在しており、トロイの木馬で有名なホメロスの「イーリアス」という書物にもよく出てくる地名です。ミダス王の墓と思われる古墳も近年、トルコの首都アンカラの近くで発見されており、中からはミダス王の頭蓋骨と思われるものが出土しています。

では、実際にミダス王はロバの耳を持っていたのでしょうか。

実は、頭蓋骨を調査した結果、彼の外耳道が先天的な非対称性を持つ奇形であったことが判明しました。この奇形が原因で、ミダス王の外見は正面や背後から見ると、左右の耳の高さに違いがあるように見えた可能性があります。この外見から、王の耳についての噂を生んだ可能性があり、それが「王さまの耳はロバの耳」という物語の起源になっているのかもしれません。

イソップ寓話作者のアイソーポスってどんな人?

ギリシャ語名アイソーポス(英語名ではイソップ)は「イソップ物語」の作者とされる人物です。ただ、その存在は未詳です。日本では英語読みのイソップのほうがギリシャ語読みのアイソーポスより知られています。

ディエゴ・ベラスケスによって描かれたアイソーポスの肖像画。Wikimedia Commons(PD)
ディエゴ・ベラスケスによって描かれたアイソーポスの肖像画。Wikimedia Commons(PD)

特徴と代表作

イソップ寓話は、登場人物が動物や自然であることが多いのが特徴。動物や自然が道徳的な教訓や人生の教えを伝えるという物語です。代表作には「アリとキリギリス」「ウサギと亀」「キツネとぶどう」などがあります。

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『王さまの耳はロバの耳』のあらすじ

それでは、さっそくあらすじを見ていきます。ミダス王の耳がロバの耳になってしまった経緯は上記の通りです。多くの絵本や児童書では、ロバ耳になってしまってからお話が始まることが多いので、下記ではそこからをあらすじとしました。

※物語のネタバレを含むので、結末を知りたくない方はご注意ください。

詳しいあらすじ

昔むかしある国に、アポロン神の怒りに触れたため耳をロバの耳に変えられてしまった王さまがいました。王さまは、ロバ耳に変えられてしまった日から、耳を隠すために必ず頭巾をかぶるようになり、人々は不審がります。

そして、王さまの散髪に呼び出された髪切り師たちは、お城に召された後、二度と村に帰ることがありませんでした。髪切り師の家族たちは彼らがどこに行ったのか、どうして帰ってこないのか、とても心配していました。そこで、一人の勇敢な若い髪切り師が「今度、王さまが髪を切るときには、自分がお城に行って必ずみんなを連れて帰って来てみせる」と約束をしてお城に行きます。

しかし、若い髪切り師が王さまの髪を切りに行くと、王さまの耳を見てびっくりします。王さまは、髪切り師に向かって「秘密を知ってしまった以上、お前を村へ帰すことはできない、牢屋へ行くのだ」と言います。そう、今までの髪切り師はみんな地下牢に入れられているのです。

若い髪切り師は「母親が心配するから家に帰して欲しい。誰にも言わない」という約束をします。王は、若い髪切り師を信じて、家に帰すことを許しますが、見張りを付けます。そして、「もしも誰かに言おうものならお前の命はない」と念を押します。

誰にも言わないことを約束した髪切り師でしたが、村に戻ると人々が押し寄せてきて、どうしてお前だけ帰ってこれたのか、お城で何があったのか、他の髪切り師は生きているのか、など執拗に聞いてきます。ですが、若い髪切り師は、口止めされているので答えることができず、日々その重圧に耐えるしかありませんでした。しかし、しまいには村人たちは、約束が違う、自分だけ戻ってきやがって、と怒り始めるのです。

そんな日々に耐えられなくなった彼は、見張りの目を盗んで森へ行き、深い洞穴を掘ります。そして、そこに向かって「王さまの耳はロバの耳!」「王さまの耳はロバの耳!」と叫びストレスを発散させます。

すると不思議なことに、その穴の上に生えた葦が風に吹かれると「王さまの耳はロバの耳」「王さまの耳はロバの耳」という声が聞こえてくるようになるではありませんか。

人々はそれを聞いて笑いはじめ、誰もが「王さまの耳はロバの耳」と歌い出します。それを聞いた王さまは激怒して若い髪切り師を呼び出しますが、髪切り師は正直に「誰にも言っていないが、耐えられなくなって、穴に向かって叫けびました。しかし、その上に生えた葦からそういう声がするようになったのです」と伝えます。

家来たちが、現地へ確認しに行くと確かに草からそういう声が聞こえてきます。王さまは、髪切り師に非がないことを認め、ロバ耳の姿で民衆の前に姿を現し「皆の言う通りだ、わしはロバ耳だ!」と伝えます。

すると、人々は最初は驚きますが、それによって地下牢から、数々の髪切り師が解放され、村は祝福ムードになり幸せに包まれます。王さまもすっきりし、とても幸せな気持ちになるのでした。

あらすじを簡単にまとめると…

ある日、神の怒りを買ってロバ耳にされた王さまは、頭巾をかぶって必死にその耳を隠し続けます。同時に、お城に呼ばれた髪切り師がことごとくお城から帰ってこなくなることに、村人たちは不信感を持ち始めます。若い髪切り師だけは、秘密を守ることを約束したことでお城から戻ることが許されます。

しかし、秘密を知ってしまった彼は、穴を掘ってそこに向かって王さまがロバ耳であることを叫びます。すると、そこから生えた草が風に揺られると「王さまの耳はロバの耳」と言う音色を発するようになり、村中に知れ渡ってしまいます。

王さまは激怒しますが、観念して、民衆にロバ耳であることを伝えます。最初は驚かれますが、それによって地下牢に閉じ込められていたほかの髪切り師たちも解放され祝福ムードに。以前よりも誰もが幸せな気持ちになれるのでした。

フランス人彫刻師Jean-Joseph Marie Carriès によるミダス王。J.Paul Getty Museum 所蔵 Photo by Wmpearl, Wikimedia Commons

主な登場人物

それでは、登場人物をまとめます。

王さま

神の不興を買い、ロバの耳に変えられてしまいます。その秘密を知った髪切り師たちを牢にとじこめています。

若い髪切り師

お城に呼ばれ、王さまの散髪を担当する髪切り師。王さまの秘密を知ってしまう。

村人たち

王さまの様子がおかしくなってから、さまざまなことを心配し、いろいろ噂をします。

村の髪切り師たち

過去に王さまの散髪を担当した髪切り師はみな、お城から帰って来なくなり消息を絶ちます。

物語にこめられた教訓とは?

それでは、この物語から学ぶべきことは何でしょう。

絶対的権威には逆らうな

お話がロバ耳になってしまった理由から始まっている場合、音楽の絶対的権威であるアポロンに逆らったことが全ての原因なので、教訓としては「絶対的権力者には逆らうな」という教訓もありそうです。

噂は思わぬところから広まってしまうもの

秘密や機密は必ずどこかからか漏れるものであるという教え。物語のように、他言してしまった相手が井戸だろうが洞穴だろうが、それは必ず漏れ伝わるという訓示がこめられています。

人を許す寛容さ

王さまは、約束を守った若い髪切り師の話を丁寧に聞き信じ、罰することなく許します。寛容な態度を見せたことで、村人から喜ばれ、結果的には民衆と絆を強くすることができる王さまに。寛容さが人間関係を強く結びつける、ということを伝えています。

隠さないことの幸せ

王さまが隠せば隠すほど、事態は複雑化していきました。最終的にすべてを打ち明けることで、村人の理解を得、髪切り師を家に帰すこともでき、皆が幸せになりました。このように、必要以上に秘密主義を貫いたり、何かを隠すことは自分にとっても周囲にとってもわだかまりを生み、壁を作ってしまうという教えです。つまり、隠し事をすべきでないと説いています。

参考:King Midas donkey ear moral

おすすめ絵本

子どもと楽しめる絵本を紹介します。

はじめての世界名作えほん77 おうさまの耳はろばの耳(ポプラ社)

中脇初枝 (著), 西本鶏介 (著), 高野登 (イラスト), 岡部順 (イラスト), 亜細亜堂 (その他)  形式: Kindle版・単行本 2020/10/1

ひらがながほとんど。易しい漢字少しあり、ルビあり。小学校低学年~。イラストが沢山あり、読みやすい大きな文字です。26ページ。

王さまのみみはロバのみみ よい子とママのアニメ絵本(ブティック社)

平田昭吾 (著)  形式: Kindle版 ムック版 2014/6/20

イラストもたくさんあり読みやすい大きな文字ですが、カタカナ、漢字が頻繁にあり、表現も少し難しいため小学校中学年~。48ページ 2014/6/20 ひらがな、カタカナ、漢字あり、ルビあり。

王様の耳はロバの耳 【日本語/英語版】 きいろいとり文庫

イソップ寓話 (著), ななほし (イラスト), YellowBirdProject (編集, その他)  形式: Kindle版 2017/8/28

漢字あり、ルビあり。英語版併記あり、イラストや表現が幼児向きではないので小学校高学年~。39ページ。

隠し事は、誤解やあつれきを生む

お話からも分かるように、王さまが自分の耳を恥じて隠せば隠すほど、民衆からは不審がられ信頼を失います。しかし、王さまが本当の姿を民衆の前にあらわすと、民衆も王さまも幸せになるという結末です。このことから分かるように、この寓話には、必要以上の隠しごとをするより、むしろ、秘密を打ち明けるほうが、相手とはより深い絆が生まれるというメッセージが隠されています。

家族の間でも、隠し事や秘密事はできるだけ避け、みんなが健全で幸せにいられる環境を作っていきたいものですね。

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文/加藤敬子  構成/HugKum編集部

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