精進料理ってどんな料理?
精進料理とは、中国から仏教が入るとともに伝わった料理です。現在の精進料理の形は、曹洞宗(そうとうしゅう)の開祖・道元禅師が、宋(当時の中国)から調理法を持ち込んだのが始まりとされています。
動物性の食材を一切使わない料理
「精進」には仏道の修行にいそしむこと、身を清め行いを慎むことといった意味があります。
精進料理の主な食材は、野菜や豆類、キノコ類、海藻類です。肉や魚、卵といった動物性の食材は使いません。殺生や煩悩(欲望・欲求・執着など)を避けるという、仏教の教えに基づいて作られます。
しかし、野菜なら何でもよいわけではありません。五辛(ごしん)や五葷(ごくん)と呼ばれるニンニク・ネギ・ニラ・ラッキョウ・ノビルは、精進料理では使用不可とされています。辛みや臭いが強く、血流を促す作用が期待できるので、憤怒や情欲(興奮)につながると考えられているためです。
炒め物や揚げ物には植物油を使用し、出汁も動物性食材に分類される鰹節ではなく干しシイタケや昆布でとります。
健康食としても注目されている
動物性脂肪や動物性タンパク質を使わない精進料理は、健康食としても近年注目されています。コレステロールや脂肪分が少なく、食物繊維が豊富であるなど、栄養バランスも優れているためです。
2013年には、「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコの無形文化遺産に登録されました。こうして和食が世界的なブームになったのに伴い、精進料理にも注目が集まっています。動物性の食材を摂取しないベジタリアンやヴィーガンにも人気です。
野菜中心でカロリーは抑えめ、なおかつ食物繊維が豊富なので、ダイエットにも適しています。ただし、天ぷらやきんぴらなどの油を使う料理は、食べすぎないよう注意しましょう。
参考:「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されています|農林水産省
精進料理の調理における特徴
精進料理の調理法には、仏道修行ならではの教えが込められています。主な特徴を、「食材に感謝し大切にする」「作る過程も重要」の二つに大きく分けて紹介します。
食材を無駄にせず使い切る
精進料理の特徴は「食材を無駄にしないこと」です。野菜の皮や切れ端も捨てずにきんぴらにしたり、豆腐を作るときに出るおからは煮物や和え物したりすることで、使い切ります。
調理する野菜は旬のものが中心なので、その味を活かすために味つけは薄めです。調味料も多用しません。
また、精進料理では食材の量や質が十分でなくても、工夫して調理し食べることとされています。食材を大切にし、余さずいただくという仏教の教えの表れです。
作る過程も仏道修行の一つ
曹洞宗の開祖・道元禅師は、書物「典座教訓(てんぞきょうくん)」のなかで、調理に対する心構えを説いています。典座職(調理係)が没頭する心を持たずに調理しても、辛いばかりで何も得られないという部分です。
つまり、調理を雑務ととらえるか、仏道修行の一つという自覚を持つかで、その後の本人に大きな違いが出てくるということです。
また、道元禅師は「調理の極意は三心(食べる人を思う心・作るまたはもてなす喜びの気持ち・大らかな心)を持つこと」とも説いています。食材の無駄を省く一方で、調理の手間と工夫を惜しまず行うことが大切という教えです。
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精進料理から広まったおなじみ料理3選
家庭で食べる一般的な料理にも、精進料理から広まったものがあります。特になじみの深いものを見ていきましょう。
精進揚げ
精進揚げは野菜類を中心とした、天ぷらのような食べ物です。ニンジンやナス、カボチャ、タケノコやレンコンなどが定番です。また、サツマイモやシイタケもよく使われます。動物性の食材を避けるため、天ぷらの衣に卵は入っていません。油を使う揚げ物ですが、さっぱりした口当たりです。
調理では食材ごとに揚げるのが基本ですが、複数の食材を一緒に揚げる「かき揚げ」もあります。色どりがよいので「五色揚げ」と呼ばれています。
精進揚げは、油分を摂取できる数少ない精進料理の一つです。若い修行僧にとっては貴重なご馳走であり、体力を保つためのエネルギー源にもなったことでしょう。
ごま豆腐
ごまには良質なタンパク質や油分が含まれているため、精進料理で不足しがちな栄養素を補うのにピッタリの食材です。
ごま豆腐は高野山で生まれた料理とされています。生のごまの皮を取り除いてすり鉢で細かくし、水と葛(くず)をすり合わせて作ります。ごまがペースト状になるまですらなくてはならないので、手間と根気が必要です。しかし、すっている時間も仏道修行と考えられています。
ごま豆腐の作り方は宗派によって異なります。曹洞宗の大本山の一つである永平寺のごま豆腐は、ごまを炒ってからするのが特徴です。水や葛と合わせて練り上げるごま豆腐は、名物として永平寺近くの土産物店でも購入可能です。
近年では、黒蜜やきなこをかけて食べる、スイーツとしてのごま豆腐も登場しています。
がんもどき
精進料理には、見た目や食感を工夫して肉や魚に似せた「もどき」料理が多くあります。例えば、ナスを鳥の肉に見立てた「シギ焼き」や、こんにゃくを薄く切って刺身に似せた「刺身こんにゃく」などです。
なかでも、「もどき」料理の代表格に挙げられるのはがんもどきです。潰した豆腐に細かく刻んだニンジンやシイタケ、ゴボウなどを混ぜて丸く形成し、油で揚げて作ります。肉に見立てた料理で、関西での呼び方は飛龍頭(ひりゅうず・ひろうす)です。
名前の由来は、カモ科の鳥「雁(がん)」の肉に似せたから、鳥のすり身を丸めた「丸(がん)」という料理に似ているからなど、諸説あります。
近年注目されている「大豆ミート」も、肉の代わりという点で「もどき」料理に近いといえるでしょう。
精進料理を日常に取り入れて楽しもう
季節の野菜や豆類、キノコ類などをシンプルな味つけで調理した精進料理は、食材そのものの味が楽しめます。現代でも食べられている料理にも精進料理にルーツのあるものは多く、毎日の食事に取り入れやすいのが特徴です。
また、栄養面でも精進料理は優れているといえます。薄味が基本で低カロリーなので、健康に気をつけたい人やカロリーを抑えたい人に適しています。食べ物に感謝して大切に食べるという、精進料理に込められた教えも一緒にいただいてみましょう。
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構成・文/HugKum編集部