今昔物語集とは?
まずは『今昔物語集』の作品について知りましょう。
インド・中国・日本の説話を集めた本
『今昔物語集』は、平安時代後期に編纂されたとされる説話集です。全体の構成は「天竺(インド)」「震旦(中国)」「本朝(日本)」の3部からなり、それぞれの国に伝えられた説話が、全31巻、総計1000 以上収められています。ただし、全31巻のうちの8巻、18巻、21巻は欠けているのだそうです。
『今昔物語集』呼び習わされていますが、正式な書名はわかっていません。ほとんどの話の出だしが「今は昔…」からはじまるので、『今昔物語集』というタイトルになったといわれています。
国: 日本
作者:不詳
発表年:1120年以降?
作者はどんな人?
『今昔物語集』の作者は不明です。また、編纂した人も明らかになっていません。
いつの時代の話?
『今昔物語集』に収録されている話は説話であり、宮中や武士などが登場することや、『今昔物語集』が成立した年がおそらく平安時代末期といわれていることから、平安時代より以前のいろいろな時代の話が入っているのだと推測できます。
今昔物語集の代表的な物語とあらすじ
『今昔物語集』には1000以上もの話があります。いくつかの話のあらすじを、「詳しく」&お子さんへの説明に便利な「簡単に」の2種類ご紹介します。
池尾の禅珍内供の鼻の物語
「池尾の禅珍内供の鼻の物語」は、芥川龍之介の小説『鼻』の題材となった話です。鼻の長いお坊さんが登場します。
詳しいあらすじ(ネタバレあり)
京都の池尾というところに「禅珍」という僧侶が住んでいた。彼は、とてもまじめで高徳な僧侶だったが、鼻の長さが15cm以上もある不思議な顔立ちをしていた。鼻は、腫れて紫に変色して痒かった。
禅珍は弟子に鼻を持ち上げさせて食事をしてたが、あるとき弟子が病気で休んでしまい、鼻が邪魔で食事もままならず困っていた。すると、どこからともなく童が現れて、板を使って鼻を持ち上げてくれたのだが…。そんな矢先、童は突然大きなくしゃみをしてしまう。すると禅珍の鼻を持ち上げていた板がずれ、禅珍の鼻がお粥の中にどぶんと入り、お粥が飛び散った。禅珍は「愚か者!これがもっと位の高い人の鼻を持ち上げているときだったらどうするのだ!出ていけ!」と怒鳴りつけた。
童は物陰に隠れ、「こんな大きな鼻を持つ人がほかにいるとお思いですか?おかしなことを言うお坊様だ」とつぶやいた。これを聞いた弟子たちはみな大笑いした。
簡単なあらすじ(ネタバレなし)
京都の池尾というところに「禅珍」という僧侶が住んでいた。彼は、とてもまじめで高徳な僧侶だったが、鼻の長さが15cm以上もある不思議な顔立ちをしていた。
禅珍は弟子に鼻を持ち上げさせて食事をしてたが、あるとき弟子が病気で休んでしまい、鼻が邪魔で食事もままならず困っていた。すると、どこからともなく童が現れて、板を使って鼻を持ち上げてくれたのだが…。
羅城門の上層に登りて死人を見る盗人の物語
ある盗人の話です。こちらも後に芥川龍之介が、この話をもとに『羅生門』という小説を書いたといわれています。
詳しいあらすじ(ネタバレあり)
ある男が盗みを働こうと、摂津国のあたりから京都へやってくる。男は人通りが少なくなる日暮れになるのを羅城門の物陰に身を隠して待っていた。門の上層は真っ暗なはずだが、火がぼんやりと見える。妙だと思い、男は連子窓から覗いてみると、床に若い女の死体横たわっていた。その傍らには白髪の老婆が座っており、死体から髪の毛をむりし取っていた。男は驚き、鬼か、霊かと疑う。
確かめるために老婆の前に飛び出し、「貴様は、貴様は」と老婆に問う。老婆は慌てふためき、命乞いをする。再び男が「お前はどこの老婆で、何をしているのだ」と問うと、老婆は「死んだ女は自分の主人で、弔うことができないため羅城門の上に置きに来た。髪の毛が背丈に余るほど長いので、抜いてかつらにしようと考えた」という。男は死体の着物、老婆の着物、そして死体から抜き取った髪の毛を奪い、走って逃げた。
簡単なあらすじ(ネタバレなし)
ある男が盗みを働こうと京都へやってくる。人通りが少なくなる日暮れになるのを羅城門の物陰に身を隠して待っていると、門の上層に火がぼんやりと見える。妙だと思い、男は連子窓から覗いてみると、床に若い女の死体横たわっていた…。
今昔物語集が読み継がれている理由
『今昔物語集』の特徴や、現在まで読みつがれている理由を解説していきましょう。
作品自体は謎だらけ
『今昔物語集』は謎が多い作品です。作者も、編者も、正確な成立年もわかっていません。また原本もなく、300年もの間世に出なかったことや、抜けた巻があったりと、謎が多くあります。ただし、この作品を読むのに支障はありません。
「今は昔」から始まる
『今昔物語集』のほとんどの話は、「今ハ昔(今は昔)」という書き出しから始まるのが特徴です。「今は昔」は「今となっては昔のことですが」という意味合いがあります。
また、物語の最後には、「トナム語リ伝ヘタルコトヤ」と書かれています。これは、「~と、語り伝えられているのだそうです」という意味です。
『今昔物語集』は正式なタイトルはわかっていませんが、「今ハ昔(今は昔)」という書き出しが多いことから、便宜上『今昔物語集』という名前がつけられました。
どれを読んでも、どこから読んでも面白い
『今昔物語集』には、仏教の説法から妖怪などが登場する不思議な話、恋愛話、噂話など、さまざまな話があります。また、それらの話のなかには、人生の教訓めいたものが読み取れたり、とくに意味がない話だったりと、どれを読んでも、どこから読んでも面白く感じることができるでしょう。
現在では、現代語に訳した本もたくさん出ているので、気軽に読むことができます。
説話文学や小説家への影響力
「雀の恩返し」や「わらしべ長者」といった昔話が収録されている説話集『宇治拾遺物語』には、『今昔物語集』に収められている話に似たものがいくつか見られ、影響を受けていたことが伺い知れます。
また上述のように、小説家の芥川龍之介も影響を受けたひとりで、『今昔物語』からヒントを得た『鼻』や『羅生門』『芋粥』といった作品を書いています。
名作「今昔物語集」を読むなら
ここからは、『今昔物語集』のおすすめの本をお伝えします。本作に興味を持ったらぜひ手に取っていただきたい3冊です。
マンガ今昔物語集
人々の生活のなかに生まれ、伝わる説話の宝庫『今昔物語集』から、選りすぐりのユーモラスな話や不思議な話をピックアップ。漫画版なので小学生にもおすすめです。
今昔物語集 今も昔もおもしろい! おかしくてふしぎな平安時代のお話集
『今昔物語集』から。怖い話、不思議な話、愉快な話をセレクト。親しみやすい話ばかりなので、小学生でも読みやすくなっています。
今昔物語集 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典
現代語訳を全面に出し、豊穣な話の宝庫をビジュアルとともに楽しめる一冊です。
今も昔も変わらないおもしろさ
『今昔物語集』には、現代人にも通じるような話や、不思議な話、起こったできことがそのまま書かれたノンフィクションのような話など、さまざまな説話がたっぷり収められており、そこには今も昔も変わらないおもしろさがあります。興味をもたったら、ぜひ手にとって読んでみてください。
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文・構成/HugKum編集部