目次
図鑑で大事なのは、何年たっても情報の質が高いままであること
みなさんは日頃図鑑をどのように活用していますか? 「子どもが好きな分野を繰り返し見ている」「調べものの必需品」「博物館に行ったような気持で眺める」など、図鑑のある風景が生活にとけこむ形で日々楽しんでいるのではないでしょうか。
今回リニューアルされた『小学館の図鑑NEO 人間 』は2006年に発売されて以来、人体の知の宝庫として親しまれてきました。大人も夢中になって読むほどの完成度の高い図鑑のどこが新しくなったのか、人間の体のどんな新しい情報が入ったのかを聞くと、意外にも次のような答えが返ってきました。
「基本的に図鑑は雑誌ではないので、最新のニュースを図鑑に入れることが必ずしも最善とは限らないんです。最近では新型コロナウィルスが流行りましたが、この2~3年を切り取って図鑑に入れてしまうと、5年後10年後に読んだ時に古びた情報になってしまう。例えばSERSや鳥インフルエンザが流行った時期に、その情報だけを大きく扱って感染症のページを作った場合、おそらく今読んだら古く感じると思います。だからアップデートすると言っても最新情報をどんどん入れることにより『基本的なところがどう変わってきたのか』をよく考えてわかりやすく本質を伝えることの方が図鑑には大事になっています」
基本情報を「どう見せるか」をリニューアル
基本的な情報とは、体の機能やしくみ、健康や発育や考え方などが定番になった状態のこと。もし時間がたつにつれて情報がころころと変わったら、それこそ修正を繰り返さなければならず、図鑑の信頼性にも関わります。図鑑とはどっしりとした知識の基盤のような存在で、いつでも確認に戻ってこれるプラットフォーム。とても慎重に内容を吟味する必要があるのです。
「そういう意味では、17年ぶりの改訂をする際『大きな変更点はありますでしょうか』と監修の先生方に尋ねたところ『大きな変更点ばかりを期待しないでください。基礎研究が大事なのです』といったお返事が多かったのです。たしかに、例えば『心臓の形が実は違っていた』ということはありえないじゃないですか(笑)。だから新版にあたって何を新しくしたかというと、『人体に関する基礎知識をよりわかりやすく正確に伝える工夫』を凝らしたんです」
紙と動画でより長く使える本格図鑑に
見せ方の工夫とは具体的にどのような変更なのかを伺うと、「今現在のデジタル生活に合った楽しみ方ができるアイテムを追加しています」と根本さん。
「これまでの学習図鑑は紙の上のビジュアルと文章だけで解説していたのですが、DVDに始まり今やスマホやタブレットで見られるQR動画でも解説ができるようになりました。体の機能やしくみは紙の上の止まった情報より、動きや流れの中で確認したほうが分かりやすい場合もあります。臓器ひとつをとっても『なぜそういう形をしていてどのような働きがあるのか』を伝えるために、紙面だけでなく、DVDとQR動画を加えたのが、今回の図鑑NEO 新版『人間』の見どころの一つです。」
動画情報が多様化し、紙と動画で見る図鑑がスタンダードに
たしかに昨近の動画メディアはデジタルになってからどんどん進化しています。少し前ならDVDを再生していたのが、今では動画配信サービスの多様化や、コードを読み取って気軽に動画を見ることもできるようになり、デバイスもスマホやタブレットなど、好みに合わせて選べる時代になっています。
「ドラえもんが登場する約70分のDVDは、人体に入り込んで探検するドラえもん映画を作っているような感じで、私自身もこのDVD制作を通じて、人体をより深く理解することができました。QR動画のほうは耳や目、脳、血液、DNAなどのしくみと働きを約2分間にまとめたショート動画を計20本新たに作っています。トータルで40分ほどのQR動画、実はNEOシリーズ初なんです。紙面と動画(DVD・QR動画)で学べる最強の図鑑になったと実感しています。文字がまだ読めないお子さんは、親御さんと一緒にまずは動画を楽しんでほしいですし、小学生中学生になったら紙の図鑑でより細かいところを見てほしい。『長く使える本格図鑑』のキャッチコピー通り、幅広い年代に長く使ってもらえたらうれしいです」
カバー裏を見て図鑑の興味をさらに広げよう
QR動画ならコードを読み取るだけで動画を気軽に見ることができるよさがあります。小学生時代なら親御さんと一緒にコードを読み取る体験もできますし、デジタルツールの使い方を学ぶ機会にもなります。小学生のうちに自分のデバイスを持つことに賛否はありますが「正しい使い方」を学ぶチャンスとして一緒にやってみるのもよさそうです。
ところで、このQR動画、中面ページの該当テーマのところに散らばっているのかと思いきや、意外な場所に集まっています。
「はい、実はカバー表紙の裏にQR動画のコンテンツリストがあるんです。『人体を動画で旅しよう』というテーマのとおり、体の器官の一つひとつを動画で見ていくことで体の中を旅するようにしくみを理解することができます。中面を開きながら、さらにカバー裏のQR動画からまた少し違ったダイナミックな世界を見てほしいですね。ちなみに図鑑NEOシリーズにはカバー裏に仕掛けがあるタイトルが多く、『[新版]動物』なら生息地が分かるよう世界地図を入れています。カバー裏を並べて展示してくれた書店もあって圧巻でした。家に図鑑NEOがあったらぜひカバー裏のポスターを広げてみてほしいです」
リアルすぎず、おおざっぱすぎないイラストがNEOらしさ
動画は動きで機能を理解できるよさがありますが、紙は自分のペースでゆっくりめくりながら探究できるよさがあります。紙の本の中では、どのような見せ方の工夫が加わったのでしょうか。
「分かりやすいのは体の内側――臓器ですね。自分の体の中は見ることが難しいので、どのようなビジュアルにするかも非常に重要だと思っています。例えばヒトの心臓を実物写真で大きく紹介すると読者は引いてしまうし、かといって簡単なイラストにすると消化不良になってしまう。だから適度に詳しく(細密に)、グロテスクにならないよう気を使いながらビジュアルを作っています。CGのイラストが流行り始めていますが、あえてCGっぽさは抑えてギラギラしないように心がけているのもNEOの特徴です。臓器は『リアルすぎず、崩しすぎない』。新版ではレイアウトを調整したり、イラストを大きくしたりして、パッと開いたときにビジュアルだけを追ってもエッセンスは頭に入る流れを意識してページを作っています。ぜひチェックしてみてください」
お気に入りのコーナーを見つけて伝え合う機会を
誰しも図鑑の中に「特にここ!」というお気に入りの箇所があると思いますが、根本さんが制作のプロとして「これはすごい」と思った図版やページはあるのでしょうか。
「下の写真にお花畑のような図版がありますよね。これ、なんだかわかりますか? ナショナルジオグラフィックさんのCG映像の場面写真なのですが、実は鼻の奥の天井にある、匂いを感知するところなんです。この映像表現には「おお!」と感心しました。電子顕微鏡の画像だけを見ても理解しづらい場所なのです。鼻の奥の天井部分で、繊毛がにおい物質をキャッチして脳に送るしくみを伝える表現力は、ナショナルジオフラフィックさんならでは。映像制作のパートナーとして、私どもも心強い限りです」
「あと、肺のCGです。先のにおいを感知する部位のCGの左にあるのが肺の中の肺胞。丸い肺胞の外側にある網目状の管は毛細血管で、酸素と二酸化炭素の交換をしているんです。イラストとCGの見え方の違いも見所ですね。DVDではドラえもんとのび太が人体の世界に入っていって、『気管から肺に到着』『気管支の奥は肺胞だね』と案内してくれるのですが、同じ肺胞でも図鑑の紙面とDVDの表現方法を比べてみると知識の奥行きが出ると思いますよ」
物事には色々なとらえ方があることを知ってほしい
こうして考えると、図鑑はさまざまな事柄を詳しく解説されたものであり、色々なものの見方を知る機会でもあると感じます。根本さんの「おすすめのコーナー」はどこになるのでしょうか。
「ほかの動物と比べてみるコラムはぜひ見てほしいですね。人間のことを知るために、人間以外の動物を知るとより人間の特徴が浮き上がってくる。例えば『皮膚』のページでは、トカゲならうろこに覆われているとか、カエルなら粘液に覆われていることを紹介しています。比べてみると『なぜ人間はこうなのか』まで考えることができる。ほかの動物と比べるとより人間の特異性が浮き上がってくるので、こうしたコーナーで、自分の体の『なぜ』に向き合ってもらいたいですね」
最後に、読者に向けて「人間の図鑑を通してどのようなことを感じてほしいか」について伺うと、やさしいお父さんの表情で次のように教えてくれました。
「自分の『体』の知識を得ると同時に『なぜ自分はここに存在しているんだろう』と思いを馳せながら図鑑をめくってもらえたらうれしいです。例えばDVDには妊娠から出産までの過程を追った映像があります。『お母さんのおなかの中にいたとき、どんな感じだったの?』『へその緒でつながっていて栄養を送っていたんだよ』『お母さんのおなかを蹴ってたよ』といった会話を通じて、人間の生命の不思議を感じてほしいです」
体を知ることは命を実感すること。『小学館の図鑑NEO[新版]人間 ヒトのからだ』の活用法は、体の知識だけでなく、心のあり方や命の大切さを親子で考えることなのかもしれませんね。
『図鑑NEO危険生物』に関するお話はこちら
夏休みイベントも盛りだくさん!
夏休みは全国各地で図鑑NEO編集者によるミニトークやイベントが開催されます。根本編集長のトーク&クイズイベントは北海道、鹿児島で!詳しくはこちらをご覧ください。