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なぜアート教育に注目が集まっているの?
現在、子どもたちへの「アート教育」が重要視されています。
それは、生成AIが日常に浸透し始め、子どもたちには、AIにはない「想像性・創造性」が求められるようになっているから……。そうした力を身につけるために、世界的にも「アート教育」に力が入れられるようになってきました。
「アート教育」とは
美術や芸術を教わることだけではありません。子どもたちの感性と教養を高め、人間性を養うことも意味します。
ですが、「アート教育」といわれても、子どもたちを、ただ美術館に連れて行くだけでよいのか、どうやってアートに触れさせればよいのか、なかなかイメージが沸かないですよね。
そこで、子どもたちが初めてアートに触れるきっかけとなる「ミュージアム体験」を提供するプロジェクト「Museum Start あいうえの」プログラムを小学校低学年の我が子とともに体験してきましたので、ご紹介します。
初めてのミュージアム体験「 Museum Start あいうえの」とは?
東京の上野恩賜公園内には、美術館や博物館など、9つもの文化施設が集まっています。どの施設にも世界中から本物が集まり、多様な文化に出会えるこうした場所は、世界的にも珍しいこと。
子どもたちにミュージアム・デビューを提供
この上野という特別な場所を舞台に、子どもたちによりよいミュージアム体験を提案するプロジェクトが行われています。それが、「Museum Start あいうえの」。「すべてのこどもにミュージアム体験を!」を合言葉として活動しています。
このプロジェクトでは、「こどもたちが、日常では得られない多様な世界にミュージアムで触れることが、これからの社会をつくる力を獲得していく」と考えられています。そうした思いをもとに、すべての子どもが良い形でミュージアムでの体験をスタートしてほしいという思いから始められのです。
「ズームイン!ミュージアム」を体験
「Museum Startあいうえの」では、この夏、ファミリー&ティーンズ・プログラム、「ズームイン!ミュージアム」が開催されました。
「ズームイン!ミュージアム」のねらいは
「ズームイン!ミュージアム」では、子どもたちは家族と離れ、美術館内を探検していきます。とびラーさん(※)にサポートされながら、「美術館」という建築・空間を観察し、ものを見ることを体得していきます。
※とびラ―:東京都美術館と東京藝術大学の連携事業「とびらプロジェクト」に所属するアート・コミュニケータ。東京都美術館の「都美(とび)」と、「新しい扉(とびら)を開く」の意味が含まれた愛称で、18歳以上の様々な人たちで構成されています。とびラーたちは、こどもたちに寄り添い、ミュージアムでの活動を安心して行なうことができるようサポートします。
美術館内を観察・探究することで、他者に自分の意見が認められることや、他人の意見を受け入れることなどが生まれるところまで期待して作られたプログラム。
「これはどういう工夫をしているんだろう?」「美術館とはどのような場所なのだろう?」と、自分の眼で見て、発見して、誰かと共有するという一連のプロセスを経験することで、どんどん対話が生まれていきます。
「ズームイン!ミュージアム」スタート!
参加する親子は、東京都美術館の講堂に集まります。
子どもには「ミュージアム・スタート・パック」がプレゼントされました。
「ビビハドトカダブック」とは、上野の9つの施設の文字をならべた言葉とか! 「Museum Startあいうえの」では、ミュージアム体験のことを「冒険」になぞらえています。「ビビハドトカダブック」には、冒険の準備の仕方やミュージアム情報が掲載されています。
ノートに記録しておくことで、積み重ねた体験を振り返ることができ、対話につながります。また、冒険ノートに書いた冒険の記録は、「Museum Startあいうえの」のWebに投稿することができ、体験した人たちと共有できたり、とびラーさんやスタッフさんからコメントをもらえたりすることができます。
「冒険ノート」の使い方と、美術館の歩き方の説明を受けたら、子どもたち4、5人のグループに、とびラーさん2人がついて、美術館内を探検です。
このグループは、美術館の入り口にある照明が気になるようです。
「おしゃれにみえる」「あたたかさを感じる」などの子どもたちの意見に対し、とびラーさんは、
「どんなところから“おしゃれ”を感じたの?」
「どんなところが“あたたかい”感じ?」
「ほかにも気づいたこと、気になったところはある?」
と問いかけながら、子どもたちの発見を引き出します。1つの場所を10分くらいかけて、じっくり観察します。
講堂へもどったあとは、自分たちの探検で気づいたことを発表していきます。
なにが一番気になったか、おもしろいと思った部分はなんなのか、五感を使って感じた事がらを、集まった他の参加者に伝えることで対話が生まれます。「美術館のおもしろさ」に対して、いくつもの考えが発表され、それを聞いてさらに考えて、と子どもたちの「美術館」という建物への意識がどんどんふくらんでいく様子を感じました。
そして、自分の感じたこと、考えたことをまとめる「冒険ノート」の書き方・例を教わります。
さらに、このプログラムをきっかけに、ほかのミュージアムへの関心を高められるよう、「ミュージアム・スタート・パック」には9つの施設をめぐるしかけも施されています。
プログラムの終わりに、子どもたちは、とある呪文を教わります。
そして、所定の場所(ビビットポイント)に行き、ミュージアム・スタート・パックのアイテムを見せながら、あの呪文を唱えると……。
ミュージアムのバッジが特別にもらえるんです。今回は、東京都美術館の探検だったので、東京都美術館バッジ。
9つの施設をめぐると、それぞれバッジがもらえ、バッグに付けていくことができます。全部集めたいと夢中になって上野に通う子も多いそう。
帰ってきたら、「冒険ノート」に今日見たこと、感じたことを親子で話し合いながら書いていきました。息子は美術館中央のらせん階段「おむすび階段」と、交流棟の階段「レモン階段」が気になったよう。
「見上げたら天井までずっと三角おむすびの形で、あんな階段は初めて見た」「きれいなレモン色の階段は見ていて楽しい」
など、ただ昇り降りするだけと思っていた階段にも美術館ならではの「また来たい」という工夫があるということを新鮮に感じたようです。
また、親子で別々に行動するプログラムだったため、自分が見て感じたことを、その場にいなかった親に伝えたかったよう。ふだん以上にたくさんの会話がにつながりました。
親としても、細部を意識して見ることで子どもの感じ方ががらりと変わることを目の当たりにでき、こうした「実際の体験」を人と共有することが、子どもから多くの意見を引き出すことに、「ミュージアム体験」の奥深さを実感しました。
ミュージアム体験後から、子どもたちが「自走」し始める
今回体験した「ズームイン!ミュージアム」は、ミュージアム・デビューとしてまず美術館に来てもらい「何かを見るって楽しそう」と気づいてもらえるようなプログラムを意図されているそう。小学校1年生から参加が可能です。
「Museum Start あいうえの」には、ほかにも子どもたちがミュージアムをさまざまな形で体験できるよう多様なプログラムがありますが、その根底には、「体験を通して、ホンモノをよく見て、自ら考え、発見する、探究型の学びを提案したい」という考えがあります。そうして興味を培った子どもたちは、能動的にミュージアムにきて、自分の学びをさらに深め、探究を「自走」しはじめます。
本物に触れる体験は、子どもたちの感性をゆさぶり、自分の意見や想像を引き出します。そうした体験を積み重ねることは、さらにまた新しい学びにつながっていきます。「ミュージアム」に触れることは、自分の中にある知的好奇心に気づき、主体的に考え学ぶことを理解する契機となります。
ぜひ、この秋、こうした「本物にふれる」体験をきっかけに、親子で対話と学びを深めていってはいかがでしょうか?
「Museum Start あいうえの」【公式】サイトはこちら>>
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文・構成/徳永真紀