【井桁容子先生×ベテラン保育者座談会】子どもの「生きる力」はここに表れる!

【井桁先生と座談会】子どもの「生きる力」はこんなところに表れる!

「生きる力」は、見えにくい力でもあります。一人ひとりにしっかり 目を配っていないと、日々の「当たり前」の中に埋もれてしまうことも……。子どもの「生きる力」にあらためて気づかされた瞬間や、 心の成長のために心がけていることなどを ベテラン保育者さんの視点から語り合っていただきました。

【非認知能力を伸ばす方法】子どもの「生きる力」について井桁容子先生が解説
子どもの「生きる力」~非認知能力~はゆっくり伸ばしたい 乳幼児期に身に着けた「非認知的能力」が、大人になってからの生活に大きな差を生じさせ...

【出席者】
井桁容子先生

X先生 東京都の公立保育園勤務。保育歴25年。2歳児クラス担当と副園長を兼任。

Y先生 東京都の私立保育園勤務。保育歴19年。2歳児クラス担当。

いつも自分中心だったAちゃんが友達の思いを聞いて少しずつ変わっていった!

<Y先生よりこんなことがありました!>

強いタイプのAちゃんは、クラスの子のあこがれの存在。でも、遊びの主役はいつも自分。ほかの子も主役をやりたそうにしているけれど……。

Y先生:たとえばお医者さんごっこをするとき、お医者さんは必ずAちゃん。ほかの子に、「私がいいっていうまで寝てて!」って(笑)。いわれた子は、「人気者であこがれのAちゃんに遊んでもらっている」という遠慮があるみたいで、自分もお医者さんがやりたいって、いいだせないんです。

井桁先生:自分の思いを表現しきれない子もいますからね。強い子と一緒になると、主役と脇役みたいに、なってしまうことがあります。

Y先生:気になっていたので、機会があるたびに「お医者さんがやりたいのはAちゃんだけじゃないよ」などと声をかけていたんです。そうしたらあるとき、ひとりの子が、「私もお医者さんやりたい!」っていったんです。

X先生:自分でいえたんですね。

Y先生:そんなことをいわれたのは初めてだったので、Aちゃんは驚いたみたい(笑)。そのときは怒り出してけんかになっちゃんたんですよ。でもその後、保育者からも友達の気持ちを伝えるかかわり方をしばらく続けたら、ある時期から譲れるようになって。今ではほかの子からの遊びの提案も受け入れられるようになりました。

 

保育者と保護者の会話を聞いて、いつも自分を抑えていたBちゃんが1日で大変身!

<井桁先生よりこんなことがありました!>

ひとつ年上の男の子との遊びで、いつも赤ちゃん役のBちゃん。ベビーカーがわりの箱に「乗って」といわれると、遊びが終わるまで、黙ってずっと乗っているような子でした。

井桁先生:「強い子とその子に従っている子」というケースでは、自分の思いをいえない子を応援することが大切なんですよね。Bちゃんの場合は、自分の気持ちをいえない理由のヒントが出てくればいいな、と思って、お迎えに来たおかあさんに、Bちゃんのおままごとの話をしてみたんです。

Y先生:おかあさん、なんておっしゃいました?

井桁先生:「うちの子はみんなにかわいがられて幸せですね」って(笑)。

X先生:意外な答え(笑)。トラブルを起こしたくない、というタイプの方なのかもしれませんね。

井桁先生:私も、それは少し違うかな、と思ったので、「いやなときはがまんしないで、いやと言えることが大事ですよ」って、おかあさんに話したんです。Bちゃんは、おかあさんの横でそれを聞いていたんです。

Y先生:Bちゃんは1〜2歳ですよね?

井桁先生:そうなの。でもその翌日、Bちゃんはベビーカーがわりの箱に乗るのをはっきりと断ったんです。「いや!」って。誘った子がどんなに頼んでも、断固拒否(笑)。

X先生:先生とおかあさんの会話を、1歳児なりに理解したんでしょうね。

井桁先生:表現し始めたら、Bちゃんは変身しましたよ。みんなで散歩に行った日なんてね、道路を横断するときだけ、年上の男の子に「おてて!」って手を突き出すの。いわれた子は驚いて、「あ、ハイ」と手をつないであげたんですけど、道を渡り終えたとたん、Bちゃんが「もういい!」(笑)。

Y先生:いわれるままに赤ちゃん役をしていた子とは別人みたい! 自分の思ったことをいっていいって、心から思えるようになったんでしょうね。

自分の気持ちをズバズバ言う!Cちゃんが見せてくれた意外な感情表現

<X先生よりこんなことがありました!>

Cちゃんは、同じ園に通うお姉さん&弟の3人きょうだい。ふだんから「私の!」などと強く主張する子でした。その日は、水遊びをすることになったのですが、体調不良でプールに入れないCちゃんは……。

X先生:私がプールの準備をしていたら、Cちゃんが近づいてきたんです。そして、みんなで遊ぶすべり台をセットしている私を見て、いつものように強い口調で、「ねえねに怒られるよ!」とひと言(笑)。

井桁先生:いつも家でいわれているんでしょうね(笑)。

Y先生:Cちゃん、プールに入りたかったんですね。

X先生:お姉ちゃんは年長さんで別のフロアで過ごしているので、私は怒られずにすんだんですけど(笑)。その後、みんなはプールで遊んで、その間、Cちゃんは保育者と一緒にお絵描きをしていたんです。「何を描いたの」と、できあがった絵を見せてもらったら……。

Y先生:どんな絵だったんですか?

X先生:すべり台の絵だったんですよ。ああ、本当にやりたかったんだな、と。Cちゃんは、いつも思ったことをどんどん口に出すイメージだったんです。でも、「すべり台で遊びたい」とはいえなかった。それでもくやしい気持ちをなんとか伝えたくて、「ねえねに怒られるよ!」といってみたけれど、まだ足りなかったんでしょうね。絵を見て、ああ、こんな形の感情表現もする子なんだな、と気づかされました。

井桁先生:強いタイプの子やはっきりした自己主張は、保育者が気づきやすいんですよね。でも、パッと目にとまるものがすべてじゃないんです。目立つ表現をしないおとなしい子ほど注意して見ていくべきだし、「〇〇ちゃんはこういうタイプ」などと決めてしまわず、ありのままに見ていくことも大切ですね。

保育者は子どもが「表現のスキル」を増やす手助けをする!

<井桁先生よりこんなことがありました!>

Dちゃんは、争いを好まない子。友達におもちゃを取られても、何もいいません。でも表情は悲しそうです。

井桁先生:泣いたり怒ったりしなくても、子どもはいろいろなことを感じていますよね。でも、相手が怖いとか、なんていったらいいのかわからないとか、その子なりの理由で表現するのをためらってしまう。だから、Dちゃんがおもちゃを取られたとき、「取り返しに行こう!」と誘ったんです。

X先生:取り返すって?

井桁先生:Dちゃんと手をつないで、おもちゃを取った子を追いかけ回したんです(笑)。

Y先生:Dちゃんはどんな様子だったんですか?

井桁先生:もう、ずっとニコニコ。でも、何もいわないんです。私が「こら! それはDちゃんのだから返して!」というと、黙ってうなずくの(笑)。

X先生:自分の気持ちを先生にいってもらったんですね。

Y先生:それをくり返すことで、Dちゃんも自分で思いを伝えられるようになっていくんでしょうね。

井桁先生:反対に、表現が激しい子もいるんですよね。Eくんは友達のおもちゃを取ろうとしたけれど、反対に泣かされてしまったんです。近くにいたおかあさんが「あなたが泣くことじゃないでしょう」というと、Eくんは「取れなかったのが残念で泣いてるんだから、泣くなっていうなー!」(笑)。

Y先生:思いが伝わる! いいですね(笑)。

井桁先生:でも、泣き声が大きすぎたの。だから、ここで泣くとみんなの耳が痛くなっちゃうから、あっちで泣いてきたら? といってみたんです。そしたら、うんって。部屋の隅で泣いて、すっきりした顔で戻ってきました。

X先生:表現することは大切だけれど、表し方が極端だと、受け入れられにくいこともありますよね。

井桁先生:「生きる力」は、自分とつきあっていく力でもあるんです。思いを伝えるためには「うまく表現する」ことも大切。声が大きすぎるなら、弱める方法をアドバイスしてみる。自分を抑えてしまう子には、「本当の気持ちをいっていいんだよ」と伝えてみる。保育者にできることのひとつが、表現するスキルを増やすお手伝いをすることなんですよ。

 

お話/井桁容子先生
保育の根っこを考える会主宰。福島県いわき市生まれ。東京家政大学短期大学部保育科を卒業後、同大学ナースリールームに2017年3月まで勤務。おもな著書に『ありのまま子育てーやわらか母さんでいるために』(赤ちゃんとママ社)、『保育でつむぐ 子どもと親のいい関係』(小学館)など。

 

 

出典/『0.1.2歳児の保育』2018年冬号 文/野口久美子 イラスト/すみもと ななみ

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