経済連携協定(EPA)って何? FTAやTPPとの違いを理解しよう【親子で学ぶ現代社会】

経済連携協定(EPA)は、二国間・地域間で結ばれる協定の一つで、ヒト・モノ・カネの自由な移動を目的としています。EPAを締結すると、どのような恩恵を受けられるのでしょうか? 協定の概要やメリット、他の協定との違いを解説します。

経済連携協定(EPA)とは?

日本は、多くの国・地域と経済連携協定(EPA)」を結んでいます。協定の目的や誕生のきっかけ、日本における協定の現状を見ていきましょう。

幅広い経済関係の強化が目的

経済連携協定は、英語で「Economic Partnership Agreement」と表記され、頭文字を取って「EPA」と呼ばれます。

EPAは、特定の国・地域との「幅広い経済関係の強化」を目的とする協定です。具体的には、関税の撤廃投資規制の緩和、知的財産制度の確立などを通じて、経済活動の自由化・円滑化を図ります。

世界には、国同士の協定や枠組みが数多くありますが、EPAの特徴は国・地域が個別に協定を結ぶ点です。双方で交渉を重ね、署名および批准手続きを経て発効します。

経済連携協定が生まれた背景

EPAが誕生した理由には、WTO(World Trade Organization:世界貿易機関)が関係しています。WTOは、主に貿易に関する国際ルールを定めている国際機関です。1995年1月1日に創設されて以降、世界の164カ国・地域が加盟し、WTO協定に基づいた貿易を行っています。

WTOにおけるルール決めは加盟国の全会一致が原則のため、機能不全が生じやすいのが難点です。2001年には先進国と途上国の意見が対立し、交渉が暗礁に乗り上げる事態が生じました。以降、WTOを中心とする多国間貿易から、EPAによる二国間貿易に軸足を移す国が増えたのです。

日本における経済連携協定の現状

日本は2002年にシンガポールと「日・シンガポール経済連携協定」を結んで以来、多くの国・地域とEPAを締結してきました。特に、東南アジア地域の10カ国から構成される「ASEAN(東南アジア諸国連合)」との交渉には力を注いできた歴史があります。

2024年1月時点において、日本とのEPAが発行済みまたは署名済みなのは、シンガポール・メキシコ・マレーシア・チリ・タイ・インドネシア・ブルネイ・ASEAN・フィリピン・スイス・ベトナム・インド・ペルー・オーストラリア・モンゴル・TPP11(CPTPP)・EU・アメリカ・イギリス・RCEP・TPP12です。

TPP11やTPP12は、「Trans-Pacific Partnership(環太平洋パートナーシップ協定)」に署名する国々による経済連携協定を指します。

RCEPは、10カ国の間で締結されている「Regional Comprehensive Economic Partnership(地域的な包括的経済連携協定)」の略称です。

出典:EPA等交渉の状況|税関 Japan Customs

▼ASEANについてはこちら

「ASEAN」の加盟国はどこ? 発足のきっかけや日本との関係性も解説【親子で学ぶ現代社会】
ASEANとは? テレビのニュースや新聞などで、「ASEAN(アセアン)」という言葉を目にする人は多いでしょう。ASEANは、国際的な地域...

経済連携協定の主なメリット

EPAは特定の国・地域との個別交渉によるため、内容は一様ではありません。EPAの締結によって享受できる代表的なメリットを見てみましょう。

輸出入にかかる関税の減税・撤廃

輸出入をする場合、各国が定める関税を支払わなければならないのが一般的です。WTO加盟国の場合は、WTOの原則に基づき、全ての国に共通の税率(MFN税率)を適用しなければなりません。

一方でEPAを締結した二国間においては、交渉によってMFN税率よりも低い税率(EPA税率)を定められます。品目によっては無税になるケースもあり、輸出入に関わる企業は、コストの削減が実現するでしょう。

ただし、相手国の原産品でなければ、MFN税率よりも低い関税率は適用されないのがルールです。

輸入規制の緩和・撤廃

各国では、輸入品の種類や容量、数量などを制限する「輸入規制」を設けています。EPAを締結した国・地域との間で輸入規制の緩和・撤廃が実現すれば、商品の流通や販売がよりスムーズになるのがメリットです。

例えば日本とイギリスの間では、「単式蒸留焼酎の容量規制」が緩和されました。日本国内で流通している四合瓶・一升瓶・五合瓶の単式蒸留焼酎をイギリスに輸出できるようになったほか、EUワインの醸造規則に従っていない日本ワインも、生産者の自己証明書を付して輸出できます。

出典:日本産酒類GIの保護について日EU・EPAと同一内容を確保|国税庁

各種手続きの簡略化

国をまたぐヒト・モノ・カネの移動には、さまざまな手続きが必要です。モノの輸出入をする際は、他国の法令を確認したり、証明書を取得したりしなければならず、手続きがなかなか前に進まないケースもあります。

EPAを締結した国・地域の間では、ヒト・モノ・カネの移動に関わる手続きの簡略化を進めています。例えば、ビジネスパーソンの移動に関する手続きをシンプルにすれば、現地に生産拠点を置く企業が事業を展開しやすくなるでしょう。

知的財産保護の強化

「知的財産」とは、人間の知的活動によって生み出されたアイデアや創作物のことです。海外には、偽物やコピー品の取り締まりが緩い国が存在します。海外に進出した日系企業が商標や意匠を横取りされる事件も発生しており、知的財産を巡る問題は海外進出におけるリスクの一つといえるでしょう。

EPAを締結した国・地域では、知的財産保護の強化を図っています。シンガポールでは、日本国特許庁における特許審査情報をシンガポール知的所有権庁に提出することにより、現地での特許付与手続きを円滑化できるルールを定めています。

出典:日本・シンガポール新時代経済連携協定(概要)

経済連携協定におけるサービス貿易

貿易というと、モノの輸出入を思い浮かべる人が多いですが、貿易は物からサービスへと移行しています。EPAを締結している国・地域の間でも「サービス貿易」に関して、さまざまなルールの取り決めが行われています。

サービス貿易の種類

「サービス貿易」と聞いて、具体的に何を指すのかイメージできない人もいるでしょう。サービス貿易についての国際ルールは、「サービスの貿易に関する一般協定(GATS)」によって定められています。GATSによると、サービス貿易は以下の4種類に分類されます。

●国境を超える取引
●海外での消費
●業務上の拠点を通じたサービス提供
●自然人の移動によるサービス提供

自然人の移動によるサービス提供の「自然人(Natural person)」とは、権利や義務の主体である個人を意味します。

少子高齢化に伴い、日本の国内市場は縮小傾向にあります。今後は物だけでなく、サービス貿易にも力を入れていく流れとなるでしょう。EPAを締結している国・地域との間では、サービス貿易の自由化に向けたルールの整備が行われています。

参考:サービスの貿易に関する一般協定(GATS)の解説|外務省

看護師・介護福祉士候補者の受け入れも

サービス貿易の「自然人の移動によるサービス提供」に関連して、日本はインドネシア・フィリピン・ベトナムからの看護師・介護福祉士候補者を受け入れています。看護師・介護福祉士候補者とは、国家資格の取得に必要な知識・技術の修得を目指す人のことです。

日本では一定の条件の下で、日本への入国および一時的な滞在を認めています。また国家資格を取得した人は、看護師・介護福祉士として、日本国内で就労する道を選択できます(在留期間の更新回数に制限なし)。

経済連携協定と混同されやすい協定は?

世界には数多くの協定が存在し、日本もさまざまな国と複数の協定を結んでいます。数ある協定の中でも、EPAと混同されやすいものをピックアップして解説します。

自由貿易協定(FTA)

自由貿易協定は、「Free Trade Agreement」の頭文字を取って「FTA」と呼ばれます。EPAと同様に特定の国・地域との個別協定で、文字通り「自由貿易」に関する内容を定めています。FTAとEPAは混同されやすいため、違いを明確にしておきましょう。

FTAは輸出入における関税の撤廃・削減を主な目的としているのに対し、EPAは関税の撤廃・削減はもちろん、投資や人の移動、知的財産の保護を含む幅広い経済関係の強化を目的としているのが特徴です。FTAは、EPAの一部であると考えましょう。

環太平洋パートナーシップ(TPP)協定

環太平洋パートナーシップ協定は、「Trans-Pacific Partnership」の頭文字を取って「TPP」と呼ばれます。「環太平洋(かんたいへいよう)」とは、太平洋を取り囲む国・地域のことです。

FTAやEPAは特定の国・地域との個別協定ですが、TPPは交渉相手を固定せず、域内での経済の自由化を目指しているのが特徴です。

現在、オーストラリア・ブルネイ・カナダ・チリ・日本・マレーシア・メキシコ・ニュージーランド・ペルー・シンガポール・ベトナムが署名しており、イギリスの新規加盟も決定しています。元々はアメリカもTPPに加わっていましたが、2017年1月に離脱を表明しました。

アメリカの離脱後に11カ国で署名された協定は、「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)」と呼ばれます。

出典:環太平洋パートナーシップ(TPP)協定交渉|外務省

経済連携協定は世界の経済・社会を支える

EPAは関税の撤廃や投資規制の緩和などを通じて、ヒト・モノ・カネの自由な移動を促すことが主な目的です。自由貿易に関連する国際的なルールはWTOが定めていますが、二国間・地域間の交渉と合意形成により、さらなる経済の自由化が実現します。

個別の協定が主流となった今、世界の経済はEPAによって成り立っていると言っても過言ではありません。EPAによって、日本はどのような恩恵を享受しているのかを考えてみましょう。

こちらの記事もおすすめ

「G7」って何? 7カ国になった理由やサミットの歴史もまとめてチェック【親子で学ぶ現代社会】
「G7」とは何のこと? G7(ジーセブン)とは、そもそも何を表しているのでしょうか。名前の由来や参加国、活動内容を見ていきましょう。 サ...

構成・文/HugKum編集部

編集部おすすめ

関連記事