「APEC」は何の略? 設立の目的やビジョン、日本との関連もチェック【親子で学ぶ現代社会】

日本は、APECの首脳会議や閣僚会議に定期的に出席しています。アジア太平洋共同体を目指す国際的な枠組みの一つで、主に経済面での協力が中心です。APECには、どのような国・地域が参加しているのでしょうか? ビジョンや取り組みを解説します。

APECとは何?

世界には国を超えたさまざまな枠組みがあります。「APEC(エイペック)」は日本が参加している国際的な枠組みの一つで、日本語では「アジア太平洋経済協力」と呼ばれます。APECの概要と参加している国・地域について確認しましょう。

アジア・太平洋地域による経済協力の枠組み

APECは、「Asia Pacific Economic Cooperation」の略称です。アジア太平洋地域の21の国・地域が参加する経済協力の枠組みで、1989年11月に閣僚会議としてスタートしました。

アジア太平洋地域は、世界のGDP(国内総生産)の約6割・貿易量の約5割・人口の約4割を占めることから、「世界の成長エンジン」や「世界の成長センター」と呼ばれています。

持続的な成長と繁栄を目指し、以下のような取り組みを行っています。

●貿易・投資の自由化と円滑化
●地域の経済統合の推進
●格差の縮小と成長の障害を取り除くための経済・技術強力

APEC加盟国 Wikimedia Commons(PD)

参加している国・地域

APECに参加する国・地域は「エコノミー」と呼ばれます。エコノミーになる条件は、APECの活動に参加する意欲と能力があることで、新規参加は既存のエコノミーのコンセンサス(全会一致)によって決定されます。

現在の参加エコノミーは、日本・オーストラリア・ブルネイ・カナダ・インドネシア・タイ・アメリカ・韓国・マレーシア・ニュージーランド・フィリピン・シンガポール・中国・台湾・香港・パプアニューギニア・メキシコ・チリ・ロシア・ペルー・ベトナムです(2024年3月時点)。

組織と運営

APECは、首脳会議を頂点とする以下のような組織で成り立っています。

●首脳会議
●閣僚会議
●分野別担当大臣会合
●財務大臣会合
●高級実務者会合
●各種委員会
●APECビジネス諮問委員会(AABAC)
●事務局

首脳会議・閣僚会議・財務大臣会合は年1回、分野別大臣会合は毎年または数年ごとに開催されています。APECビジネス諮問委員会は、唯一の民間団体です。

エコノミーの各首脳が任命したビジネスのプロから構成されており、首脳・閣僚・高級実務者への助言をするのが役目です。

またオブザーバーとして、「PECC(太平洋経済協力会議)」「ASEAN(東南アジア諸国連合)事務局」「PIF(太平洋諸島フォーラム)」が関与しています。オブザーバーは会議に第三者として参加して、進行を見守るポジションです。

出典:APECの概要|外務省
APEC新規参加に関する議論|外務省
APECの組織|外務省

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APECを理解するためのキーワード

2012年のロシアAPEC Photo by Gobierno de Chile – Flickr, Wikimedia Commons

APECは、世界の多くの国・地域が参加する国際的な枠組みです。規模が大きく、取り組みの内容も多岐にわたるため、実態が分かりくいと感じる人もいるでしょう。次の三つのキーワードを通して、APECへの理解を深めましょう。

ソウル宣言

APECは、オーストラリアのキャンベラで1989年に開催された、第1回閣僚会議によって発足しました。2年後の1991年には「ソウル宣言」が発表され、APECの取り組みの柱となる以下の目的が設定されます。

●地域の成長と発展の維持によって世界の成長と発展に貢献する
●経済的な相互依存の関係を進展させ、利益を増進させる
●アジア太平洋地域と世界の経済のため、開かれた多角的貿易体制を推進・強化する
●財・サービスの貿易と投資における障壁を取り除く

「多角的貿易」とは、貿易の自由化やルールづくりなどを多国間によって行うことです。「サービス貿易」とは、国際的にサービスの取引を行うことを意味します。

ボゴール宣言

1994年にインドネシアのボゴールで行われた非公式首脳会談の中で、「ボゴール宣言(APEC経済首脳の共通の決意の宣言)」が発表されました。この宣言により、APECの長期的目標と協力体制の方向性が決定されます。

先進国は2010年、途上国は2020年までに域内における貿易・投資の自由化を目指す内容で、1995年には具体化のガイドラインである「大阪行動指針(OAA)」が作成されました。

貿易の自由化とは、輸出入にかかる関税や規制を撤廃または緩和する取り組みを指します。また、投資が自由化されればヒト・モノ・カネ・情報が集まり、地域経済はさらに活発化するからです。

ABTC

ABTCの正式名称は「APEC・ビジネス・トラベル・カード」です。日本人が海外に滞在する場合、国によってはビザ(査証)を取得しなければなりません。しかしビザの取得にはさまざまな書類を準備する必要があり、時間と労力が費やされます。

外務省はAPEC域内に出張する人の利便性を考慮し、日本のパスポートを所持するビジネス関係者に対してABTCを発行しています。ABTCの所持者は、APEC域内(日本を含む19カ国)への入国・入域でビザが免除、または手続きが免除されるため、よりスムーズな移動が可能です。

出典:資料2 ソウルAPEC宣言|内閣府ホームページ
外務省: APEC経済首脳の共通の決意の宣言(ボゴール宣言仮訳)
APEC・ビジネス・トラベル・カード(ABTC)|外務省

APECが目指す未来とは?

1989年の創設以来、APECを取り巻く環境は大きく変化しています。アジア太平洋地域の持続的な成長と繁栄に向け、APECはどのような展望を抱いているのでしょうか?

「APECプトラジャヤ・ビジョン2040」の採択によって、APECが目指す未来について解説します。

APECプトラジャヤ・ビジョン2040

2020年11月に開催された第27回APEC首脳会議において、「APECプトラジャヤ・ビジョン2040」が採択されました。1994年のボゴール宣言に代わる新たなビジョンで、「2040年までに、開かれた、ダイナミックで、強靱かつ平和なアジア太平洋共同体を目指す」が理念に掲げられています。

貿易・投資の自由化については、エコノミー間で自由貿易圏を形成する「FTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)」に向けた取り組みが盛り込まれました。そのほか、イノベーションとデジタル化における協力の必要性や、持続可能な成長のための取り組みなどが確認されています。

出典:APEC プトラジャヤ・ビジョン 2040(仮訳)

APECの取り組みに目を向けよう

日本はAPECが設立された当初からのエコノミーであり、多くの国・地域と協力してアジア太平洋地域の成長と繁栄を支えてきました。同時に、自由貿易による恩恵を受けて発展を遂げた国でもあるので、APECの取り組みをリードしなければならない存在といえます。

新型コロナウイルスのパンデミックを乗り越えた今、APECでは新たなビジョンの実現を目指しています。未来の繁栄のため、APECが今後どのような取り組みを行っていくかに注目しましょう。

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構成・文/HugKum編集部

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