「NIES」とは何? 意味や対象、発展の背景などを分かりやすく解説【親子で学ぶ現代社会】

NIESは経済発展における過去の事例や、世界経済を学ぶ際などに、登場することがある用語です。1970年代を中心に、世界経済に影響を与えた国や地域を指しています。NIESと呼ばれる理由や対象、現状などについて解説します。

NIESとは

NIESという言葉には、どのような意味があるのでしょうか。言葉が誕生した経緯やNIESに含まれる国・地域を見ていきましょう。

新興工業経済地域のこと

NIESは英語の「Newly Industrializing Economies」を略した言葉で、「ニーズ」と読みます。日本語では「新興工業経済地域」という意味があります。

NIESは工業が急速に発展し、経済の発展が著しい地域や国を指す造語です。1970年代にそれまで発展途上にあった国々が、電子機器・鉄鋼・自動車工業などを発展させ工業化に成功したときに生まれました。

当時、先進国に追いつき追い抜こうとするような勢いを持っていた、アジア・中南米・ヨーロッパの国や地域などが含まれています。

似ている「NICS」との違い

「NICS」は1979年に、経済協力開発機構(OECD)が定義した言葉です。「Newly Industrializing Countries」の略で、「ニックス」と読みます。

日本語では「新興工業国」という意味があり、韓国・台湾・香港・シンガポール・ブラジル・メキシコ・ギリシア・ポルトガル・スペイン・ユーゴスラビアの10個の国と地域を指します。

その後NICSは、香港や台湾を独立国家と認めていない中国への配慮などがあり、1988年のトロントサミットで「NIES」に改称されました。

「アジアNIES」を指すことも

NICSに該当する10個の国や地域のうち、1980年代以降も著しい成長を遂げた韓国・シンガポール・台湾・香港は「アジアNIES」と呼ばれる場合があります。

アジアNIESは、1970年から1980年代に外国企業を誘致して工業化を進め、目を見張るような経済成長を遂げて世界を驚かせました。

このため当時の経済について論ずるときに、NIESと言えば「アジアNIES」のみを指すケースもよくあります。ニュースなどでNIESが話題になっているときは、どの範囲を指しているのかに注意するとよいでしょう。

シンガポールの高級リゾート「マリーナベイ・サンズ」

NIESが生まれた背景

なぜ、発展途上にあった国々が急速に成長したのか、疑問に思う人もいるでしょう。NIESが生まれた背景を紹介します。

オイルショックによる先進諸国へのダメージ

1960年代にアメリカで財政赤字や貿易赤字が拡大し、ドルの信用が低下する「ドルショック」が起こりました。続いて、1973年に中東の原油国がイスラエルを支持する国への原油輸出を禁止し、原油公示価格の大幅な引き上げが行われたことで「第一次オイルショック」が起こります。

さらに1979年のイラン革命で、原油価格の高騰「第二次オイルショック」が起こり、アメリカやヨーロッパ、日本などの先進諸国に大きなダメージを与えました。こうした状況で先進国の経済が低迷する中、NIESが好調を見せるようになっていきます。

輸出志向型の工業政策

NIESは主に加工業や、仲介貿易の分野で成功を収めます。しかし、NIESの中には開発独裁をする国が少なくなかったため、国民の生活は豊かにならず、かえって悪化した国もありました。民主政治が抑圧された中で、開発優先の工業化が進められ、多くの国民に利益が還元されない状態に陥ったのです。

また、ブラジルやメキシコなど中南米のNIESは、輸出品を主に自然の中で採取される一次産品に依存していたため、1980年代に入るとそれまでの好調とは打って変わって、経済成長が見られなくなりました。

ブラジル最大の港を擁するサントス。サントス港は大豆やトウモロコシなど穀物輸出港として知られる。Photograph by Mike Peel (www.mikepeel.net) , Wikimedia Commons

NIESのその後

現在、NIESはかつてのように注目されてはいません。急激な成長を見せたNIESは、その後どうなったのでしょうか。

驚異的な成長が止まる

アジアNIESの好景気は1990年代まで続き、韓国・香港・台湾・シンガポールなどはアメリカへの輸出を中心に発展してきました。しかし、対米貿易黒字の増大により、アメリカが相場の均衡を保つために通貨切り下げをするようになると、経済成長に陰りが見え始めます。

1997年のアジア通貨危機によって、さらに経済が悪化したアジアNIESは、それぞれの国・地域で産業構造の改善が必要となりました。以降、NIESが特別視されることはなくなり、言葉も使われなくなっていきます。

とはいえ、アジアNIESは現在もIT分野などを中心に堅調な成長を見せています。「新興」ではなく、先進国と変わらない国・地域として認知されるようになったと言えるでしょう。

近年は「BRICS」が注目されている

2000年代に入ると、NIESに代わる経済成長の著しい国として「BRICS(ブリックス)」が注目されるようになります。BRICSとは、「Brazil(ブラジル)」「Russia(ロシア)」「India(インド)」「China(中国)」の頭文字から付けられた名称です。

Sは当初、複数形を意味する小文字を使用していましたが、その後「South Africa(南アフリカ)」が加えられたことで大文字のSに変化しました。

BRICSには広い国土や豊富な資源、人口の多さといった共通点があり、「新興5カ国」と呼ばれることもあります。

BRICS「新興5か国」の国旗

著しい経済発展を遂げたNIES

アメリカやヨーロッパ、日本などの先進諸国がドルショックやオイルショックで伸び悩む中、NIESは工業化を進めて発展しました。中でも韓国・香港・台湾・シンガポールのアジアNIESは、著しい発展を遂げています。

その後アジア通貨危機やアメリカの通貨切り下げなどによって、アジアNIESの驚異的な成長も止まります。近年は新たな経済成長国として、BRICSが注目されるようになりました。今後の世界経済がどうなっていくのか、過去のNIESや現在のBRICSから想像してみるのも、よい勉強になるでしょう。

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構成・文/HugKum編集部

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