中学受験する子と学力の差が開くのでは?と不安…「中受しない子」が「地頭力」を磨く具体的な方法は?【花まる学習会代表・高濱正伸先生に聞く】

中学受験をしないと決めているご家庭も、受験をする子としない子では、小学校高学年で机に向かう時間が圧倒的に違ってしまうということを不安に思うこともあるでしょう。その先の高校受験にきちんと向き合えるように、子どもの「地頭力」を鍛えるにはどんな方法が有効なのでしょうか。花まる学習会代表・高濱正伸先生に伺います。

受験組が塾に割く時間を、子どもが自ら熱中できることを存分にやらせる時間にあてる

編集部(以下編):地頭力というと、集中力や持続力、思考力、物事を試行錯誤できる力のように思います。中学受験しない子が、小学校中~高学年でこれらを磨くには、何をすべきでしょうか。

高濱先生(以下高濱):最も有効なのは、お稽古ごとやスポーツなど、なにか熱中できることを一生懸命やることですね。サッカーでも野球でも音楽でも、自分が没入できるならなんでもいい。そこで集中力や持続力は養われるし、補欠になったら悔しくて涙したり、試合に勝ったら仲間同士で歓喜したりするでしょう。そうした豊かな感情や、トライ&エラーするチャレンジ精神、人間関係の構築など、そこには人生に必要な学びがすべて詰まっています。本人の成長にものすごく役立ちます。

:確かにそうですよね。

高濱:私は、日本の教育の一番素晴らしい点は「部活」だと思っています。勉強そのものは、塾や予備校にいって自力でやればなんとかなる。でも生きていくためのスキルというのは、部活や習い事、スポーツなどから得られるものが圧倒的です。中学受験をしないのであれば、5年生・6年生の人間としても伸び盛りの時期に、そこに没入できるのがメリットだと思います。

子どもがやりたいことに没頭できる経験は得がたいもの

早いうちから受験対策をすることには、落とし穴も

:ちなみに高濱先生は、中学受験というものをどのようにとらえていらっしゃいますか?

高濱:本人が主体的に挑めるなら全く問題ありません。12歳という年齢で自分で目標を立てて、挑戦するのは勉強の面でも人間的成長においても、素晴らしい経験になると思います。

問題なのは、親が主導して本人の希望とは関係なくやらせている場合ですよね。中学受験をするとなると、だいたい4年生から3年間、頑張るケースが多いです。でも、4年生はまだ幼児的な部分も引きずっている年齢です。子どもって、本来放っておけば自分のやりたいことしかやらないもの。なのに強制的に受験の枠組みにはめられてしまうと、いざ合格しても自分がそこからやりたいこともわからなくなったりするんです。

:それはたとえ合格してもつらいですね。

高濱:ひどい場合は引きこもりになったり、社会人になってもやりがい度外視で待遇だけを重視して転職を繰り返したりね。やらされて生きてきた感があると、いわゆる〝いい会社〟に入っても、本当の意味での自信が育っていない人も多い。それが早期受験の落とし穴の部分だと思います。

ボードゲーム、エピソードトーク、日記を書くetc. 普段の生活の中で論理的思考や読解力を養う秘訣

:小学生のうちにやりたいことに熱中することは非常によい、というお話をいただきました。他にも「地頭力」を鍛えるために、おすすめなことはありますか。

ボードゲーム、武道などはとてもおすすめ

高濱:論理思考を鍛えることでいうと、囲碁、将棋、麻雀などボードゲーム的なものはとてもよいですよね。今は海外の面白いボードゲームの日本語版もたくさん出ています。勝利という目的に対して先を読みながら戦略を立てたり、対面する相手とコミュニケーションをはかりながらゲームを進めていったりすることが、脳にとてもよい影響を与えると思います。

休みの日など子どもと一緒に挑戦してみても!

スマホの対戦型ゲームと比較すると、ボードゲームで遊んでいる最中のほうが脳の前頭葉の働きが活性化する、という調査結果もあります。それと、剣道、柔道、茶道などもいいですね。姿勢や呼吸、作法などが身につきますから。

:中学受験をする子としない子では、「長文読解力」に差がでてくるのでは、という意見もあります。長文を読む力を鍛える、読書テクニックなどはありますか。

高濱:中学受験するから読書の力に差が出てくる、ということではないと思います。それよりも、本が好きっていう状態をキープすることのほうが大事ですよね。

:あまり本を読む習慣がない子に、本を好きになってもらうにはどうしたらよいのでしょうか。

高濱:本をよく読む大人たちに、なにをきっかけに本が好きになったかリサーチした研究がありますが、だいたい3つに分かれます。

ひとつは、幼少期の読み聞かせが成功して子どもが本に興味をもつ場合。

ふたつめは、家族が本の虫というケース。熱中していることっていうのは伝染するので、大人が没頭しているのを見ていると子どもも自然にやりたくなるんです。

みっつめは、思春期になって、社会とか家族とか恋愛など、いろいろなことに疑問や悩みをもつようになった時に、本に書いてある誰かの言葉に「なるほど!」と感銘を受けた場合です。

日記を書く、エピソードトークを家族でするなども◎

それと、国語力を鍛えるということでは、6年生になったら日記を書くことを絶対的におすすめしています

友達との関係などはもちろんですが、「学校って本当に行かなきゃいけないのか」「夫婦ってなんで喧嘩しながら一緒にいるのかな」「就職って絶対?」など、いろいろな根源的な問いを始める頃なんです。そんなもやもやを日記に全部書きだして、自分なりの答えをためていくことが、とても意味のあることなのです。

また、その日あったことを要約して説明させる、というのもいい訓練になります。笑い話でもいいし、「こんな面白いことがあった」みたいなエピソードでもいいんです。子どもだけにさせないで、家族それぞれが今日1日で収穫したことを1分で説明する、みたいな感じで発表しあうのもおすすめ。家族みんながその中で学び続ける文化もできますしね。

家族で「その日のエピソード」を発表し合ってみては?

:高学年だけど、読書に対してそこまでまだ興味が湧いていないなっていう子には、例えば今日みた映画の話や、学校で面白かったことを要約して、ちょっとママに聞かせてっていうことでもいいんですね。

高濱:いいと思います。なんだったら俳句にするとかね。苦行になってしまうと続かないので、楽しみながらやってほしいですね。

問題を読み解く力、人に説明する力、論理的に考える力…すべては「日本語力」が基礎になる

:では、最後に伺いたいのですが、中学入学前にこれだけはやっておきたいと思う学習はなんでしょうか。 

高濱:日本語を母国語と位置付けているという前提ですが、「小学校で習う漢字だけは完璧にしておけ」と思います。漢字が読めれば、問題文は読み切れます。漢字に漏れがあると問題を正確に把握できずに「読み落としグセ」がついてしまったりして、思考力を深めることができません。これがすべての学力の基本になると思います。

漢字はあらゆる教科の「問題文読解」に欠かせない

あとは小学校で習う計算ですね。中学で習うことの先取りをするよりも、年齢相応の計算が完璧にできるということのほうが大切です。あとは最初にお話ししたように、小学校のうちに集中力や持続力を養える活動をしっかりやっておけば、中学3年生くらいになれば勉強もちゃんとやれるはずです。

:漢字と計算、大事ですね。今回も貴重なお話をありがとうございました!

好きなコトにのびのび没頭!家でできる学力サポートをしつつ楽しんで

中学受験をするorしないで、学力に大きな差がでるのではという心配に対して「好きなことに熱中させる」「日々の出来事を要約して説明させてみる」「漢字や計算など、小学校で習うことを漏れなく完璧にできるようにする」など具体的なアドバイスとその理由を説明してくださった高濱先生。かけがえのない小学校生活を充実させるために、ぜひ参考にしてください。

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お話をうかがったのは

高濱正伸先生

花まる学習会代表。1959年熊本県生まれ。県立熊本高校卒業後、東京大学に入学。1990年同大学院修士課程修了後、1993年に「作文」「読書」「思考力」「野外体験」を重視した、小学校低学年向けの学習塾「花まる学習会」を設立。『小3までに育てたい算数脳』(エッセンシャル出版社)、『あんしんえほん はじめての「よのなかルールブック」』(日本図書センター)、『わが子を「メシが食える大人」に育てる』(廣済堂出版)など著書多数。

文・構成/野村サチコ 撮影(高濱先生)/黒石あみ

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