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夫や家族とうまくコミュニケーションがとれない?「カサンドラ症候群」とは
「カサンドラ症候群」は、発達障害があるパートナーの特性により、夫婦関係や家庭生活に影響が生じ、その結果、うつや無気力、不眠やパニック障害などの身体的、精神的症状が出てしまう状態を指します。
カサンドラ症候群は医学的な診断名ではありませんが、発達障害の認知が進むとともに広がってきた言葉で、ギリシャ神話の神アポロンに予知能力を周囲に信じてもらえない呪いをかけられた女性、カサンドラの名前に由来します。この由来の通り、カサンドラ症候群に陥った人は、自分の状況を周囲に話しても理解してもらいにくく、そのことからより孤独感に苛まれ、悩みが深刻化してしまうのです。
正式な診断名ではないからこそ、定義づけが難しいカサンドラ症候群。ですが、真行さんは、パートナーに正式な発達障害の診断が下りていなくても、その特性がみられて本人が苦しんでいるのなら、それはカサンドラ症候群と見なしているそうです。
パートナーの発達障害で悩む、カサンドラたちの実態
一言に「発達障害」といっても、いろいろな特性があるものです。同様に、パートナーの特性によって悩むカサンドラたちの困りごとも変わってくると、真行さんは言います。
ASD(自閉スペクトラム症)の傾向があるパートナーの場合
ASD(自閉スペクトラム症)とは、社会的コミュニケーションの難しさや、限定されたこだわり行動や興味などを特徴とする発達障害です。ASD傾向があるパートナーの場合は、夫婦間でのコミュニケーションが難しく、気持ちが通じあえずに家庭運営がうまくできないことが困りごとになりやすいです。
特に子どもが生まれてからは、子どもの成長を一緒に喜びあえなかったり、育児の大変さをわかってもらえずワンオペ育児になったりすることも。そして、両親のどちらかが子どもへの適切な関りが難しい場合は、子どもが不安感を感じてしまうことも問題になってくるでしょう。
ADHD(注意欠陥多動症)の傾向があるパートナーの場合
ADHD(注意欠陥多動症)とは、不注意や多動性、衝動性を特徴とする発達障害です。パートナーにADHD傾向があった場合の困りごととしては、不注意ゆえに忘れ物が多かったり、「欲しい」という衝動を抑えられずに散財し、家の中が物だらけになってしまうことなどが挙げられます。
カサンドラ症候群は、もともとパートナーがASD傾向のある場合を指していましたが、現在ではパートナーがADHD傾向のある場合も含み定義することが多くなりました。
一人で悩むカサンドラたちを救うために…支援団体「フルリール」を立ち上げた真行さん
実は真行さんご自身も、カサンドラで悩む当事者でした。かつて元夫との関係に悩み、うつ状態まで経験した真行さんは、どのようにして回復し、今の活動に至ったのでしょうか。
夫との関係に悩むも、誰にも理解されなかった
真行さんの元夫は、真面目で穏やか。社会では問題なく働き、成果も出している人だったそうです。しかし家庭では、決められたことはやるけれど自ら動けない、自閉的な人でした。会話をしていても、自分の得意分野ばかりを一方的に話し、逆にこちらから意見を求めると石のようになってしまう。
そんな元夫との生活に、真行さんはさみしさを感じていきました。しかし、周囲に相談しても「男はそういうもの」と理解されず、「ぜいたく」と言われる始末。次第に真行さんは、心身に不調を抱えるようになってしまいました。
セルフカウンセリングで心の安定を取り戻した
その後、精神科を受診してもなかなか理解を得られなかった真行さんは、セルフカウンセリングで心の安定を取り戻していきました。
弱っている時に自分の抱える問題と向き合うのは難しいことですが、真行さんは自分と悩みを一体化させず、切り離すことで、自分自身を俯瞰して見ることを始めました。
具体的には、悩みを可視化するためにノートに書き出し、それを自分で読み返す、ことなどをしたそうです。
また、マインドフルネス(瞑想などにより、“今、ここ”に集中できるような精神状態を作り、マインドフル=満たされる状態を求めること)を生活に取り入れるなどをした結果、徐々に心が回復していったといいます。
「カサンドラ症候群」という言葉を知って
こうして自らの力で立ち直った真行さんは、ある時、カサンドラ症候群という言葉を知ります。まさに自分のことだと思い、その時初めて、自分以外にも同様のことで悩み、苦しんでいる人がいると知ったのです。
かつて、誰にも理解されずに苦しんだ真行さんは、カサンドラの方たちに自分と同じ苦しみを味わわせないために、「フルリール」を立ち上げました。どれくらいの人が集まるか不安でしたが、なんと初回の集まりには定員以上の申し込みが殺到。すぐに2回目も開催されることとなり、みなさんに喜ばれる結果となりました。
パートナーの発達障害特性、子どもには伝えるべき?
夫婦どちらかに発達障害特性があった場合、子どもは何らかの不安感や、親とのコミュニケーションがうまくいかないことで生きづらさを感じることがあるかもしれません。お父さんやお母さんが「発達障害である」ことは、子どもに伝えたほうが良いのでしょうか?
この問題について真行さんは、このように対処法を教えてくれました。
小学生以下くらいのお子さんであれば、「発達障害」を理解できない可能性もあるため、「発達障害である」ことよりも、親の心無い言葉に傷ついてしまったり、気持ちが通じ合えずに辛い思いをしていたりする可能性もあります。お子さんの気持ちを、まずは受け止め、味方になってあげることが大切。そして、お子さんが傷ついた関わり方の改善をパートナーに促すため、「お父さん(お母さん)に伝えてみるね」とフォローしてあげるといいということです。
カサンドラで悩む人たちに向けて…「必ず分かってくれる人はいる」
今もカサンドラ症候群で悩んでいる人たちに、真行さんから伝えたいことがあります。
小さいことでも自分で決めよう
カサンドラ症候群に陥ってしまう方は、自己犠牲的で、他者優先の方が多いそうです。しかし、良い夫婦関係のためにも「自分を大切にする生き方」は非常に大切だと真行さんは言います。
自分の感情に鈍感になってしまっている場合は、自分の気持ちが喜ぶことを、生活の中に取り入れていくことが大事です。そのために、まずは小さなことでも自分で決めることから始めましょう。他の誰でもない、「私は」こうしたいという「I(アイ)メッセージ」で話してみることが大事です。
一人で悩まないで、顔の見える仲間を探して
パートナーとの関係性で悩んだ時、一人で抱えないことが大切。必ず分かってくれる人はいるので、「カサンドラ 自助グループ」などと検索して、同じ境遇の仲間とぜひつながってみましょう。カサンドラと発達障害は、敵対する関係ではありません。互いに向き合い、分かりあっていく人たちもいるのです。
真行さんは言います。「私は、 元夫とは離婚しましたが、今も子どもたちの親として、良い関係を続けています。SNSなどで相手を強い言葉で否定するのではなく、顔の見える関係で、悩みを分かち合える仲間を探してほしいのです。それぞれの在り方をみんなで認め、良い関係性を探していきましょう。」
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お話を聞いたのは…
カサンドラサポートステーションの活動を通じ、4,000人以上のカサンドラおよび発達障害特性のある方の肉声に耳を傾け、1,000人におよぶクライエントの相談に対応。アダルトチルドレン、HSPに関するカウンセリングも行っている。
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取材・文/佐藤麻貴 構成/HugKum編集部