国務大臣とは?
国の政治をつかさどる仕事の一つに、「国務大臣」があります。「厚生労働大臣」や「文部科学大臣」などのポスト名は聞いたことがあっても、国務大臣という言葉を見聞きする機会は少ないのではないでしょうか? 国務大臣の定義と役割について理解を深めましょう。
内閣を構成している大臣のこと
国務大臣は、内閣を構成している大臣のことです。広い意味では内閣総理大臣も国務大臣に含まれますが、狭い意味では内閣総理大臣以外の大臣を指します。
「内閣」は、行政の執行機関です。日本では権力の濫用(らんよう)を防ぐため、立法権・行政権・司法権の三つの権力を異なる機関に分散させています。内閣は行政権を有しており、国会が決めた予算や法律に従って国の政策を進めるのです。
国の方針や政策を決めるときは、内閣総理大臣と国務大臣による会議が開かれます。この会議は「閣議」と呼ばれ、全員が賛成しないと決定に至らないのが原則です。
▼関連記事はこちら
内閣総理大臣との違い
内閣総理大臣は内閣の最高責任者であり、国務大臣よりも上の立場です。内閣が発足した際は、内閣総理大臣が国務大臣を任命します。国会で国の政策を説明したり、自衛隊に出動命令を出したりするのも内閣総理大臣の重要な役目です。
国務大臣は、内閣総理大臣のリーダーシップを支えるポジションです。経済産業大臣や環境大臣などの肩書があり、それぞれが分担して行政事務を管理します。1人で二つ以上の国務大臣を務める場合もあります。
▼こちらの関連記事も
国務大臣の役割をピックアップ
国務大臣というと、財務大臣や防衛大臣などの「各省庁の大臣」を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし実際は、各省庁の行政事務を分担管理しない、またはいずれの行政機関にも属さない大臣もいます。それらの大臣は、「無任所大臣(むにんしょだいじん)」と呼ばれます。
各省庁の大臣
閣議で決定した内容を実行するのは、各省庁です。省庁とは、「省」という役所と「庁」という役所を一つにまとめた呼び方です。各省庁の長に任命された国務大臣は、閣議で決まった方針を自分の省庁に持ち帰り、政策を実行に移します。
役職名ではありませんが、これらの大臣は「主任の大臣」と呼ばれます。各省庁の長として、行政事務や職員の服務を取りまとめることが主な仕事です。また、行政事務に関する法律・政令の制定案や改廃案があれば、内閣総理大臣に閣議を求めます。
内閣官房長官
内閣官房長官は、「〇〇大臣」という呼び名ではありませんが国務大臣であり、広い意味では無任所大臣の1人です。国務大臣の中でも特に重要なポジションであり、新たに内閣が組織された際にはいち早く任命されます。
「内閣官房」は内閣総理大臣を直接的に補佐する機関で、内閣の庶務や重要政策の企画立案などを行っています。主任の大臣は内閣総理大臣ですが、実際の業務を統括するのは内閣官房長官です。
内閣官房長官には、政府の見解を国民に伝える役割があります。テレビのニュースで、内閣官房長官の記者会見を見たことがある人も多いはずです。
特命担当大臣
内閣府設置法では、特命担当大臣は国務大臣の中から選ばなければならないとされています。特命担当大臣は内閣府にのみ設置された「内閣府の担当大臣」のことで、こちらも無任所大臣です。
「内閣府」とは、内閣の機能を強化する機関です。内閣の重要政策に関する企画立案や総合調整などを行っており、各省庁にまたがる幅広いテーマを取り扱っています。全てのテーマを1人の大臣が担当するのは難しいため、テーマ・課題ごとに特命担当大臣が設けられているのです。
例えば、2023年9月13日に発足した第2次岸田第2次改造内閣では、財務大臣が「金融」の特命担当大臣を担当しています。特命担当大臣は法律で設置が義務付けられているものもあれば、必要に応じて設置されるものもあります。
国家公安委員会委員長
国家公安委員会委員長は、内閣の一員である国務大臣でなければなりません。「国家公安委員会」とは、国家公安委員会委員長と5人の委員で構成される組織です。
内閣府の外局に当たり、警察行政の政治的中立性を確保するために、国の警察機関である「警察庁」を管理しています。管理といっても、警察に対して直接的に指示・命令を出すわけではありません。警察庁を管理し、また、警察庁に補佐させて業務に当たります。
国家に危険が迫ったときは、内閣総理大臣が緊急事態の布告を出しますが、その判断は国家公安委員会の勧告に基づきます。
国務大臣の決定方法とルール
国の行政を担う国務大臣は、どのように選ばれるのでしょうか? 日本国憲法や内閣法は、国務大臣の決定方法やルールを規定しています。
文民でなければならない
日本国憲法の第66条には、「内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない」との記載があります。「文民(ぶんみん)」とは、軍人の経歴がない人のことです。
なぜそのような規定があるかというと、軍人が政治に関与すると軍事政権が樹立され、戦争の道を歩む恐れがあるからです。
過去に日本では、天皇を中心とした政治体制を求め、陸軍の青年将校らが内閣総理大臣や国務大臣を襲ったクーデター未遂事件「二・二六事件」が起きました。反乱は抑え込まれましたが、この事件は軍部が政治に関わるきっかけとなり、そこから太平洋戦争へとつながっていったのです。
その反省を生かし、戦後に制定された日本国憲法には上記のような文言が盛り込まれました。
▼▼関連記事はこちら
内閣総理大臣が任命する
日本国憲法の第68条には、「内閣総理大臣は、国務大臣を任命する」と記載されています。さらに、国務大臣の「過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない」と定められています。
国会議員とは、国の最高議決機関である「国会」で働く人たちです。選挙で選ばれた「国民の代表」であり、国民の意思を政治に反映させる役割を担っています。
国務大臣の任期は法律で規定されておらず、内閣総理大臣が罷免(ひめん)の権限を有します。罷免とは、職を辞めさせることです。閣議を開く必要はなく、任意で罷免権を行使できます。
定数はあるが増員できる
国務大臣には、法律で決められた定数があります。内閣法によると定数は14人以内ですが、「復興庁」のように特別な理由があれば、3人を限度に増員ができます。
「復興庁」は内閣に設置された組織で、東日本大震災の復興事業を目的としています。当初は2021年3月までとされていましたが、設置期限が延長されて2031年まで存続する予定です。
国務大臣をサポートする官職は?
国務大臣を直接的にサポートする官職には、「副大臣」と「大臣政務官」が挙げられます。それぞれの役割や国務大臣との関係性を見ていきましょう。
副大臣
副大臣の役割は、国務大臣を全面的にサポートすることです。業務を遂行する上では、上司である国務大臣の命令に忠実に従わなければなりません。大臣不在時は、大臣の命令を受けて職務を代行する権限を有します。
副大臣の仕事の一例は以下の通りです。
●大臣の指示に基づく職務
●国会での答弁
●国会との連絡調整
定数は、府省庁ごとに1~3人が割り当てられるのが一般的です。国家行政組織法によると、各省庁の副大臣の定数は以下のように決められています。
●法務省・防衛省:1人
●上記以外の省:2人
大臣政務官
副大臣と大臣政務官は、2001年1月の中央省庁再編に合わせて設けられたポジションです。国政で極めて重要な役割を果たすことから、大臣・副大臣・大臣政務官は「政務三役」と呼ばれます。
大臣政務官の主な職務は、特定の政策で国務大臣を補助することです。副大臣と異なり、大臣不在時に職務を代行する権限はありません。職員として、主に政策の企画立案を行います。
国家行政組織法では、各省の大臣政務官の定数を以下のように規定しています。
●法務省:1人
●総務省・外務省・国土交通省:3人
●上記以外の省:2人
国務大臣についての気になる疑問
テレビやニュースではよく見聞きしても、国務大臣の立場や仕事内容まで詳しく知っている人は少ないでしょう。国務大臣についての気になる疑問をQ&A形式で紹介します。
国務大臣は国家公務員なの?
国の機関で働く国務大臣は、国家公務員です。各省庁で働く国家公務員は「一般職」ですが、国務大臣は「特別職」に該当します。一般職と違い、国家公務員のルールを定めた「国家公務員法」は適用されないのが基本です。
例えば、国務大臣の公務や給与などは「特別職の職員の給与に関する法律」に基づきます。内閣官房が2023年11月に公表した資料によると、国務大臣の年間給与額は約2,961万円です。同じ国家公務員でも、一般職とは給与額が大きく異なることが分かるでしょう。
閣議はいつ・どこで行われる?
閣議は、内閣総理大臣が中心となり、毎週火曜日と金曜日に開催されます。開催場所は「首相官邸の閣議室」で、主な参加者は内閣総理大臣と国務大臣です。運営の補助や行政・法令の補足説明を行う際は、内閣官房副長官や内閣法制局長官が参加するケースもあります。
閣議は非公開ですが、閣議の議題や議事録は首相官邸のWebサイトで確認が可能です。閣議の終了後は内閣官房長官が記者会見を開き、閣議の内容を説明します。
国務大臣は内閣総理大臣を支える重要ポスト
国の政治は、内閣総理大臣が1人で動かしているわけではありません。国務大臣をはじめとする多くの官僚が内閣総理大臣のリーダーシップを支えており、国の方針や政策は閣議で決定されます。
国務大臣の過半数は、国会議員の中から選ばれます。国会議員は国民の代表であるため、内閣の運営にも私たちの意思が反映されているはずです。この機会に、日本の政治がどのように運営されているのかを親子で学んでみてはいかがでしょうか?
こちらの記事もおすすめ
構成・文/HugKum編集部
出典:日本国憲法 第5章 第66条| e-Gov法令検索
:日本国憲法 第5章 第68条| e-Gov法令検索
:国家行政組織法 別表第3| e-Gov法令検索
:国家行政組織法 別表第3| e-Gov法令検索
:主な特別職の職員の給与
:閣議 | 首相官邸ホームページ