こども基本法とは
こども基本法は成立したばかりの法律なので、内容をよく知らない人もいるでしょう。概要や対象となる子どもの定義について紹介します。
子どもの権利を守る法律
「こども基本法」は日本の法律で、2022年に国会で可決され、2023年から施行されています。1989年に国連総会で採択された「子どもの権利条約」の4原則を踏まえ、全ての子どもが幸福に過ごせる社会の実現を目的としています。
国・都道府県・市区町村はこども基本法を基に、子どもや子育てに関する取り組み(こども施策)を進めていく方針です。
子どもの権利条約では18歳未満の人が対象ですが、こども基本法では微妙な年齢の違いにより必要なサポートを受けられなかったということがないように、「心身の発達の過程にある者」を子どもと定義しています。
こども基本法が制定された背景
こども基本法が制定された背景を知ると、その必要性が十分に理解できるはずです。現代の子どもたちが置かれている状況や、子どもを守る施策について知りましょう。
子どもが生きづらい現状
児童虐待やいじめなどの問題などで、生きづらさを感じる子どもは少なくありません。文部科学省の調査でも、いじめの認知件数は上昇傾向にあり、特に小学生のいじめの増加が顕著です。
また、先進国の子どもの幸福度を調査した「ユニセフ・イノチェンティ レポートカード16」によると、日本の子どもの精神的幸福度は低く、15〜19歳の自殺率が高いことが分かっています。
日本の子どもの幸福度は、調査対象となった38カ国中の総合順位で20位でした。子どもが生きづらい現状を改善するには、大人の視点から解決法を探るだけでなく、子どもの視点を尊重することが大切です。
出典:令和3年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要|p3|文部科学省
:ユニセフ・イノチェンティ レポートカード16|p12~13
「こども施策」を進めるため
これまで日本には、「児童福祉法」「母子保健法」などの子どもに関わる法律はあっても、子どもの権利そのものを守るための法律はありませんでした。
こども基本法が制定された理由は、子どもの権利が守られているとは言えない現状を改善し、自治体の「こども施策」を進めるためです。こども施策とは、子どもの心身の成長や子育てをサポートする取り組みを指し、子どもの居場所作りや子育てに関する相談窓口の設置などが該当します。
子どもの権利が社会に浸透し、子どもが生きやすい環境を整えることは、少子化問題解決の糸口をつかむためにも重要です。
こども基本法の基本理念
こども基本法は、国や国民が子どもの権利に関してどのような認識を持てばよいのかを、基本理念としてまとめています。こども施策における指針となる、六つの基本理念について理解を深めましょう。
1.差別されないこと
一つめの基本理念は、全ての子どもの基本的な人権が守られ、差別されないことです。子どもは、さまざまな理由から差別の対象となることがあります。
差別とは、人や団体などを、正当な理由もないのに他よりも低く扱うことです。性別・出身地・住んでいる地域・人種・親の職業などで特定の子どもを排除し、扱いに差を付けることがあってはなりません。
世の中にはさまざまな形の差別があります。個人による差別だけでなく、社会の仕組みや制度によって必要な支援を受けられない子どもがいる社会は、健全とは言えないでしょう。
2.平等に教育が受けられること
全ての子どもは平等に教育を受けられ、健やかな発達・自立が図られることが保証されています。教育は子どもの能力を伸ばし、よりよい生活を送るために欠かせないものであり、社会に生きる市民として生きる力や人間力を備えるためにも重要です。
日本では「教育基本法」によって、学校制度の基本が定められています。子どもは教育基本法に即した教育を、平等に受ける機会を与えられなければなりません。また、そのためには質の高い教育を受けられるよう、周囲がサポートしていくことも必要となります。
3.社会のさまざまな活動に参加できること
子どもは発達に応じた意見を発言できる権利を持ち、さまざまな社会活動に参加する機会も確保されなければなりません。社会活動とは、地域活性化や環境保全活動・国際交流・募金など、社会に役立つような活動のことです。ベルマークの収集活動も、社会活動の一種だと言えます。
大人だけが、自分に直接関係することに対して意見を言う権利を持っているわけではありません。子どもにとってよりよい社会を作るためには、子どもの意見を反映させる機会が失われないようにすることが大切です。
4.子どもの意見が尊重されること
子どもの発達に応じた意見が尊重され、最善の利益を考慮することも、基本理念に掲げられています。子どもを取り巻く問題を解決するには、子どもの意見を聞くことが重要です。
尊重とは、人や物などの価値を認めて大切にすることを指します。意見とは、ある問題についての考えを述べることです。まだ自分の考えをうまく説明できない子どもであっても、何かしらの意見を持っています。
本人の意見を尊重しながら、その子どもの利益を優先した考え方をすることが求められます。
5.家庭と同様の養育環境が確保されること
どのような子どもであっても、いきいきと自分らしく生きられ、健やかに成長する権利を持っています。子どもの養育は家庭が基本であり、根本的な責任を負うのは父母です。また、子どもの養育者に対しては十分な支援が行われます。
家庭での養育が困難だと感じられた際に、サポートするための環境づくりを後押しすることも基本理念の一つです。養育が困難な状況にある子どもに、できる限り家庭と同様の環境を確保することも定められています。
6.子育てに喜びを感じられる社会をつくること
子育てをすることや家庭を持つことに夢や喜びが感じられる社会環境の整備も、基本理念に掲げられています。子どもを養育しながら生活していく中で、「子育てをしていく自信を持てない」「未来のことを考える余裕がない」などの苦しみが多い状態は、好ましいとは言えません。
社会全体で、どうすれば子育てがしやすい社会を実現できるのかを考え、環境を整えていくことが必要です。そのような社会が実現すれば、少子化問題の解決にも役立ち、子育て世代以外の人にも恩恵があると考えられます。
こども基本法の取り組みや課題
こども基本法に従って、子どもや若者が幸福でいられる社会を実現するために、国や自治体は具体的にどのような取り組みをしているのでしょうか。課題として挙げられているものと併せて見ていきましょう。
具体的な取り組み
子どもの健やかな成長をサポートする取り組みとして、子どもの居場所づくりやいじめ対策が行われています。例えば、子どもが安心して過ごせる場所を増やせるように、NPO等と連携した子どもの居場所づくり支援モデル事業を実施するなど、効果的な支援方法が検討されています。
また、働きながら子育てしやすい環境づくりや相談窓口設置など、子育てのサポートも進められています。国全体で教育を盛んにする教育施策や雇用環境の整備・医療施策なども重要な取り組みの一つです。
よりよい社会を作るために、若者が社会参画できる機会の創出や就労支援をすることも、こども施策に含まれます。
今後の課題とは
現状では、こども基本法の認知度は高いとは言えません。日本財団が2023年3月に全国の10〜18歳の男女を対象に行った「こども1万人意識調査」によると、「こども基本法を聞いたことがない」と答えた人の割合は61.5%でした。
子どもが生きやすい世の中にするためには、社会全体で子どもの権利について理解を深めることが重要です。自治体によって子どもの権利に関する取り組みに格差がある点も、課題に挙げられています。
地域の特性に合わせて、子どもの権利に関する条例を独自に定めている自治体はごく一部です。子どもが地域格差による不利益を受けないように、法整備をしていかなければならないでしょう。
こども基本法への理解を深めよう
こども基本法は、全ての子どもや若者が幸福に生きられるようにするために制定されました。こども基本法の基本理念を理解すると、何が子どもにとって最善かを考えるために役立ちます。
子どもが生きやすい世の中にするためには、全ての国民がこども施策に関心を持つ姿勢が必要です。地域による格差が出ないように、自治体ごとの条例を整備していくことも求められます。
この機会に、こども基本法の内容を子どもや周囲の大人たちと共有して意見交換をしたり、住んでいる自治体でどのような取り組みをしているかを確認してみたりしてはいかがでしょうか。
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構成・文/HugKum編集部