「人工流れ星」はエンターテインメントであり、科学貢献の役割も担っている
–現在取り組まれている「人工流れ星プロジェクト」について教えてください。
いつ流れるかわからない自然の流れ星とは違い、決まった場所や時間に流れ星を流すことができるのが「人工流れ星」です。流れる時間もあっという間に消える自然のものと違い、1分近く楽しめます。
「人工流れ星」は流れ星の元になる”粒”を何百粒も搭載した人工衛星を打ち上げ、これを放出して大気圏に突入させると、流れ星になるという仕組みになっています。
–この流れ星の”粒”は、どういったものなのでしょうか?
中身は企業秘密なのですが、粒自体が明るく光るように開発されています。どういう材料なら明るく光るか、どんな色になるかなどを考えています。素材によって色を変えることも可能です。
–「人工流れ星」の開発は、会社を立ち上げた当初から取り組まれているんですか?
そうですね、そもそも流れ星を作りたくて今の会社を立ち上げました。ただただ「流れ星を作りたい」っていう想いもあるのですが、何のために作りたいかというと、私は「科学」に貢献したいという思いがあります。流れ星を流すということ自体が実は、科学貢献にもなっているんです。
流れ星が流れるところを「高層大気」というのですが、高層大気の中間圏(高度60〜80㎞と言われる)と呼ばれるところのデータはまだまだ少ないんです。ですが、気候変動などのメカニズム解明に非常に大事なところだと言われています。
流れ星が流れたあとの高層大気の様子を観測することによって、様々なことがわかるんです。流れ星が流れる時にどういった光り方をするかなどで、そこにある物質などを知ることができます。
そして、もう1つの大きな理由として、流れ星ってエンターテインメントじゃないですか。人工流れ星を流すことでみんなが楽しめて、高層大気のデータがわかって、科学にも貢献できる。その両輪がとても楽しくて、今に至ります。
–最初から流れ星のエンターテイメント性も科学貢献と合わせて考えていたんですか?
科学の大切さを伝えるっていうと、どうしても元々科学に興味がある人しかこないんですよ。でもエンターテインメントなら色々な人が見てくれますよね。
例えばドラえもんが算数の話をしていたら、算数が好きじゃなくても子どもが興味をもつじゃないですか。そんなエンタメの力でたくさんの人をインスパイアしていくっていうことが面白いなと思っています。
今では、観光に使いたいというニーズもあったりします。面白いところでいうと、ハリウッドのSF映画のプロモーションに検討したいとアメリカから連絡が来たりもしていますね。
–今、実現の目処はどんな感じなんでしょうか?
時期的な目処はまだ具体的にはたっていないのですが、これまでに二機、人工衛星を打ち上げています。今新たにもう1つ、三機目を作ろうとしているところなんです。
親が頑張っても、子育ては思うようにはいかない
–岡島さんのお子さんたちも科学が好きなんですか?
中学1年生と小学3年生の男の子2人ですが、長男は宇宙にはあまり興味がないみたいですね。次男は少しだけ、宇宙とかブラックホールに興味があるみたいです。
子どもたちが小さい頃から宇宙系の本をそれとなく部屋に置いておいたり、この本面白いよって見せたり、友人が行う宇宙系の講演会に連れて行ったりなど、色々努力はしているんですけど、長男は乗り物系が好きで、次男は生き物系が好きなんですよね。
長男は、その時々で好きな物が電車だったり、飛行機だったりと、興味の対象は変わったりしますが、「乗り物」ということはずっと同じ。今は自転車に夢中です。父親も一緒になって自転車をやるようになり、子どもの好きなことから家族の趣味が広がっている感じがあります。
わが家でやってみて、子どもの興味関心を広げることができたなと感じることは、子ども自身に本を読んでもらうことです。
家のあちこちに本棚があるのですが、特に効果があった場所はというとトイレです。自宅のトイレに専用本棚を置いて、読ませたい本をこそっと置いておくんです。すると子どもがたまに読んでいてその本の話をしたりするので、しめしめって思うんです。トイレだと他にやることがないからか、部屋に置くより手に取るんですよね(笑)。 お子さんの興味の範囲を広げたいときにはいいかなと思います。
–仕事と家事や子育ての両立はいかがですか?
なかなか両立できていないんです。
ただコロナ禍の前は毎日会社にいるのが当然の生活だったのですが、コロナ禍になって「これはリモートで大丈夫」っていう仕事が増え、在宅できる機会が増えました。オンラインでもいいよねって考えが定着したことが、子育てを変えたなと思います。
だから次男には今日はいる? いない?とか一応聞かれたりします。長男については、コロナ前だったので夕方私がいないことが普通で育ってしまいました。親が手をかける時間がなかったのですが、自分で何でもやるという意志が強く、しっかりしていて頼りになるんです。自主性が自然と身についたようです。
–夫婦で家事や育児の分担などはしているのですか?
私は社長という立場上会食なども多く、夜に予定があることも多いので、夫婦でオンラインでスケジュール帳を共有してるんです。今日は予定ありだから、じゃあ家にいるのはあなたね、みたいな。両方の予定が重なってしまった時は義理の母にサポートしてもらっています。ですが、スケジュール帳に予定を書き忘れたり、見ていなかったりとかで大変なことになるときも(笑)。共働きあるあるですよね。
–子育てでこうしたいと思っていることは何かありますか?
できるだけ子どもが好きなところを見つけて伸ばす、ということをしたいなと思っているんです。
長男は中学受験をしましたが、勉強が嫌いになったら嫌だなと思って、その時に勉強をやれやれとはあまり言いませんでした。
その代わり自然の中に連れて行って科学っぽいことを喋ってみたりして。今やっている勉強は、どういったことに役に立つんだろうかと、それがしっかり結びつけばば、「あ、勉強した方がいいんだな」と思ってくれるかなと考えたんです。
私が好きなこともあり、昆虫を観察する会は、随分連れて行きましたが、テストで昆虫の足の位置とか間違えていて(笑)。
本人が興味を持たないと、親が頑張ってもダメなんだなって痛感しました。「馬を水飲み場に連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない」ってことですね。
逆に言えば好きならどんな形でものめり込んでいけると思うんですね。子ども自身の好きなことを見つける、そのサポートが大切なことだと思います。
–なかなか親の思い通りにはいきませんよね。好きなことを見つけるための親自身のエネルギーもいります。
ペルセウス座流星群を見せにも連れて行きましたが、長男はあまり興味を持ちませんでした。
ただ私の会社でSF映画を大学の先生に解説してもらうという無料の会を不定期でやっていて、そこに長男を連れて行ったんです。そうしたら「すごく面白かった、でもやっぱ勉強しないといけないな」って言ったんですよ!勉強しないとそこで聞いた話をちゃんと理解できないんだって思ったようなんですね。
–それは、先ほど岡島さんが言っていた「今やっている勉強がどういったことに役に立つのか」=「勉強する」という考えにつながりました。
そうですね。子どもがハッと気づくときがあるので、そういうチャンスを逃さないようにしていけたらいいなと思っています。
子どもたちに身に付けてほしい、未知を楽しむ「探求力」
–お子さんの興味を伸ばす工夫や、楽しむコツなどあれば教えてください。
私がよく子どもを連れて行く昆虫ガイドツアーの先生の、子どもへの接し方がすごくいいなって思ってるんです。
何がいいかというと、問いかけや説明の順番です。一般的には昆虫の説明するときに、「これはなんという昆虫なのか」という名前から入りますよね。でもその先生はまずじっくり生態を観察させます。そして「なんでこんな動きをするんだろうね」とか、「これはどんな仕組みなのかな?」とか、問いかけをしていきながら、いろんな性質を教えてくれるんです。そして、最後に昆虫の名前を教えてくれるんです。
その他にもエピソードはたくさんあります。
例えば、子どもがカマキリとバッタを同じかごに入れたいと言ったとき、普通だったら、「カマキリがバッタを食べちゃうから入れちゃダメだよ」と結果を先に伝えてしまい、やらせないところを、実際にトライさせて何が起こるのかを子どもに確認させたり。「とにかく子どもが気が済むまでやらせる」そういう先生なんです。
そういった先生の「子どもの集中力を遮らない」っていう部分をいつも見習いたいなって思いますし、子どもたちには遊び心を持って、これから知る・学ぶことを楽しんでほしいです。
お話を伺ったのは
撮影/黒石あみ 取材・文/苗代みほ