「手足口病」がこの夏、大流行の兆し…! その症状や予防策について歯科医師が解説

2024年6月上旬現在、群馬県や鹿児島県、三重県などの10府県を超える地域で手足口病の警報が発令され、全国的な流行拡大が懸念される事態に陥っています。
国内における流行のピークは夏季が中心ですが、今年は前倒しで早い時期から流行が始まっています。
手足口病は手足だけでなく、口の痛みで食事に支障が出たりして子どもたちに少なからず悪影響が及ぶため、罹患しないに越したことはありません。
今回は緊急テーマとして、手足口病全般について論じます。

執筆/島谷浩幸(歯科医・歯学博士・野菜ソムリエ)

手足口病とは?

子どもの夏風邪の一つとして知られ、手や足の皮膚や口の中の粘膜に水疱性の発疹ができる急性ウイルス感染症で、口の中の痛みの症状から見つかることも少なくありません。

原因はウイルス感染のため、栄養不足や睡眠不足、ストレスなどに伴う免疫力(抵抗力)の低下があると、発症しやすくなります。

乳幼児が過半数を占め、9割が5歳以下となる疾患ですが、少ない頻度で大人にも見られることがあります。

基本的に予後は良好で、通常は1週間ほどで発疹は消失して、かさぶたを作ることもなく自然治癒します。また、発熱がある場合もありますが、あまり高くならないことが多く、高熱が続くことは通常はありません。

しかし、まれなケースとして髄膜炎や脳炎などの中枢神経系の合併症が現れることがあり、高熱が出る、発熱が2日以上続く、嘔吐する、頭痛がする、元気がない、ぐったりして視線が合わない、息苦しそう、水分が摂れないなどの異常があれば、すぐに小児科や内科などの医療機関を受診させてください。

生後11ヶ月児の口の周りにあらわれた手足口病の発疹 Photo by MidgleyDJ at Wikimedia Commons

手足口病の原因は?

手足口病は5類感染症定点把握疾患に定められており、全国約3000か所の小児科定点より毎週、感染者数が報告されています。

原因ウイルスはエンテロウイルスやコクサッキーウイルスなどがありますが、インフルエンザ同様、流行する年のウイルスの型(タイプ)が異なります

中でもエンテロウイルス71型は、中枢神経系の合併症(脳炎など)が他のウイルスより高いデータもあるため、どのようなタイプが流行しているかをネット等で情報収集することも大切です。

2017年に東京都健康安全研究センターの鈴木愛氏らが報告した研究では、都内定点医療機関から提供された手足口病患者の検体を用いてウイルスの遺伝子検査を実施し、その種類(型)について調べました。

その結果、2015年、2016年ともにコクサッキーウイルスA6型(CA6)が最も多くなりましたが、年によって拡散するウイルスが異なることも確認されました(図1)。

図1.手足口病患者から検出されたウイルス ※年により異なる。

また、2024年6月現在で流行しているウイルスも、CA6が最も多いことが報告されています(国立感染症研究所データより)。

原因ウイルスはどのように感染する?

人から人へ感染する伝播経路として、口や咽頭の唾液・鼻水に含まれるウイルスの飛沫感染が主ですが、水疱を触って指に付着したウイルスが他人に感染するケースや、糞口感染(便中に排泄されたウイルスが口に入って感染すること)も認められます。

特に、この疾患にかかりやすい年齢層の乳幼児が集団生活する保育施設や幼稚園などは、子どもたち同士の距離が近くて濃厚接触が生じやすい環境であり、かつ衛生観念がまだ発達していないことから、このような施設は集団感染が発生しやすく注意が必要です。

口の中に発疹ができるウイルス感染症として単純ヘルペス感染症、帯状疱疹、ヘルパンギーナ、麻疹、風疹などがあり、ヘルパンギーナは手足口病と同様に、子どもの夏風邪としてもよく知られます。

しかし、別の原因による発疹や、ビタミンBの不足などによる口内炎との鑑別が難しいため、もし上記のような症状を見つけたら、速やかに小児科や内科、耳鼻咽喉科、歯科で診てもらいましょう。

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手足口病の治療法は?

手足口病に有効なワクチンはなく、発病を予防できる薬や特効薬もありません。

また、原因がウイルスのため、通常の細菌感染による風邪(感冒)で使用する抗菌薬(抗生物質)も効果がありません。

通常は、出ている症状を抑える対症療法のみを行い、ホームケアをしながら回復するのを待つことになりますが、発熱や頭痛、口の中の水疱が破れた疼痛などに対して解熱・鎮痛薬を使用することがあります。

また、脱水の症状があれば水分を補う処置が必要ですが、基本は安静にしながら栄養分をしっかり摂って体を休めることが大切です。口の中の痛みが原因で飲食が困難な場合は、負担の少ないのど越しの良い食事をし、脱水や栄養不足にならないようにしましょう。

ところで、学校保健安全法は手足口病の登園・登校に関し、出席停止を定めていません

その理由として、治った後も比較的長い期間にわたり便中にウイルスが排泄され、感染しても発病せずにウイルス排泄を続ける可能性があるため、症状のある急性期だけ登校・登園停止を行っても流行阻止の効果があまり期待ができないことが挙げられます。

子どもの症状を見ながら、必要に応じて休ませるようにしましょう。

なお、手足口病で園を休んだ後に登園許可証の提出が必要か否かは、自治体や園で方針が異なるので、事前に確認しておきましょう。

手足口病の予防策は?

乳幼児の手に発生した発疹 Photo by Grook Da Oger, Wikimedia Commons

感染力が強い手足口病の原因ウイルスの感染を防ぐ方法をまとめました。

・マスクをする

咳やくしゃみによる飛沫感染を防ぐため、家庭内(家族間)でもうつさない、うつらない双方の観点からマスクは着用するようにしましょう。

・こまめに手を洗う

接触感染を防ぐために手洗いを十分にすること、便などの排泄物を適切に処理することが大切です。普段から手の触れやすいスイッチやドアノブ、手すり、おもちゃ、トイレ回りなどは特に要注意です。

手洗いは流水と石けんでしっかり手の平や甲、指の間などをこすり洗いし、手指に付着したウイルスを十分洗い流すことが重要です。保育施設などの乳幼児が集団生活する場ではおむつ交換時は排泄物を適切に処理し、しっかりと手洗いするようにしましょう。

・消毒する

手足口病のウイルスはアルコール消毒剤が効きにくいため、おもちゃなどの消毒には希釈した塩素系消毒剤(次亜塩素酸ナトリウム)が効果的です。

・タオルや食器の共有をしない

タオルや食器(皿やフォーク、スプーン、お箸等)に付着したウイルスは接触することで伝播します。

手洗い後のタオルは決して共用しないようにし、ペーパータオルなどの使い捨てのものを使うようにしてください。

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今年は手足口病が大流行の兆し

手足口病患者の定点医療機関あたりの報告数5人が警報発令の基準値とされますが、2024年第23週(6/3-6/9)は群馬県9.25人、鹿児島県8.69人、三重県8.67人などが高値として報告され、いずれも増加傾向を示しています(図2)。

図2. 第23週の上位5県における第22週との比較

すでに10以上の府県が警報レベルを超える一方、北海道や東北地方では1人未満であり、大きな地域差も認められます。

近年は2~3年おきに流行していますが、大阪府、京都府、石川県などは5年ぶりの警報となり、流行規模は拡大しつつあります。

しかし、手足口病は発病しても軽い症状で治ることが大半で決して危ない病気でなく、実際にほとんどの子どもが感染して免疫を獲得します。早期発見・早期対応が望ましいですが、普段のバランスのよい食事やストレスのない環境づくりも予防につながります。

毎日のマスクや手洗いなどを励行しながら、この夏を親子で元気にのりきりましょう。

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記事執筆

島谷浩幸

歯科医師(歯学博士)・野菜ソムリエ。TV出演『所さんの目がテン!』(日本テレビ)等のほか、多くの健康本や雑誌記事・連載を執筆。二児の父でもある。ブログ「由流里舎農園」は日本野菜ソムリエ協会公認。X(旧Twitter)も更新中。HugKumでの過去の執筆記事はこちら≪

参考資料:
・厚生労働省,国立感染症研究所,三重県感染症情報センターほか:手足口病関連サイト,2024.
・鈴木愛ほか:手足口病患者から検出されたエンテロウイルスの遺伝子解析(2014年度~2016年度).東京健安研セ年報68,49-54,2017.
・国立感染症研究所:IASR病原微生物検出情報・手足口病由来ウイルス週別2023&2024年.

 

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