「江戸前寿司」の江戸前とは? 上方寿司、蝦夷前寿司との違い、軍艦巻きのスマートな食べ方など詳細解説

寿司といえば「握り寿司」を連想する方は多いかと思います。その握り寿司を「江戸前寿司」と呼ぶ場合がありますが、これにはどんな経緯があるのでしょうか? 「江戸前寿司」の歴史や、特徴について詳しく調べました。

明治の初め頃までは、江戸城の外濠や墨田川で食用の魚が捕れたそうですが、東京湾でも活きのいい魚がたくさん水揚げされていたものです。残念ながら、今ではどこを探しても、その魚で寿司を握るお店は見当たりません。

そんな、東京のお寿司事情について、詳しく調べてみると興味深い事実がわかりました。

 江戸前寿司とは?

冷蔵する技術が発達していない昔、東京の寿司とは、「江戸前物」でなければ食べられない、地域限定の食事でした。その頃「江戸前」と呼ばれていた海とはどんな場所だったのでしょうか。

江戸前寿司の定義

「江戸前」とは、徳川時代に呼ばれた呼び名で「江戸の前の海」を指します。つまり、現在の東京湾が「江戸前」です。

現在の東京湾

この頃、江戸前漁場からの水揚げで賑わっていた魚市場は、後に日本橋の本船町で発展し、江戸庶民の生鮮食材を一手に扱うようになりました。この周辺では、関東大震災までは寿司屋も多く営業していたそうです。 さらに魚市場は築地への移転を経て、現在の豊洲市場へと引き継がれています。

現在の豊洲市場には全国から魚が集まりますが、近海物の流通もあることから、現在でも豊洲から出荷された魚を寿司にしたものなら、「江戸前寿司」と、捉えることができそうです。

握り寿司の登場

「江戸前寿司」という言葉の由来は、もう一つあります。それは、握る様式で作られた「握り寿司」が作り始められた時期が、江戸時代だったこと。

それまでの寿司といえば、大阪風の押し寿司の歴史が古く、広く食べられていました。これにならい、江戸でも寿司といえば押し寿司が全盛だったのです。ところが、文政七年(1824)頃、当時の江戸の繁華街であった両国に、最初の握り寿司屋が誕生して以来、押し寿司店は、ことごとく握り寿司店に転向したといわれます。

どうして、そこまで握り寿司が受け入れられたのでしょうか?

江戸前寿司のユニークな点とその理由

寿司は「注文すると同時に出てくる」という表現は大げさですが、目の前で握られ、そのまま提供される点が気の短い江戸っ子気質にピッタリと合った、というのが、ここまで広まった理由といわれています。

また、寿司文化が発展してきた歴史の中で、ほとんどの部分は保存食としての歴史でした。新鮮な魚介類を、酢飯と一緒に即席で握って食すスタイルは、斬新でおいしさへの感動と共に、またたく間に広がったそうです。

江戸前寿司の特徴

ここからは江戸前寿司と、その他の寿司との違いをみていきます。

江戸前寿司と他の寿司の違い

国内で最も古い寿司とは、滋賀県近江に伝わる「鮒寿司(ふなずし)」です。琵琶湖で捕れたフナの内蔵を取り出してから、 炊き上げた米の中に詰め込んで、半年以上も発酵させたもの。乳酸発酵により、ナチュラルチーズのような香りを楽しむ食品です。

鮒寿司
鮒寿司

このように、塩や粕で発酵させた穀物に魚を漬け込んだ保存食が、寿司の原型でした。

時代が下って、酢を使いご飯に味付けする技術が広まると、鮒寿司のように自然発酵を待つよりかは、早く食べることができる寿司が登場しました。「押し寿司」「ちらし寿司」「巻き寿司」などが、これにあたります。

寿司とは本来、郷土色が強い食べ物で、上記以外にも全国各地にさまざまな形で継承されています。その中で、握ったお寿司は、長い寿司の文化史からみれば、ほんの枝分かれにすぎません。江戸前寿司とは、かなり新しい様式であるといえます。

上方の寿司との違い

江戸時代の京都、大阪、いわゆる上方では、「押し寿司」や、「なれ寿司」が一般的でした。

新鮮さが決め手の江戸前寿司に対し、時間が経っても風味が変わらない押し寿司は、魚だけでなく玉子焼きや、椎茸などの煮野菜が入り、具材が多彩です。華やかさも楽しめる、持ち帰り寿司としても人気がありました。

上方寿司

北海道寿司との違い

ネタが新鮮といえど、しめる、煮るなどの工程を経ておいしさを引き出す江戸前と違い、さばかれてすぐの魚介類を楽しめる寿司といえば、なんといっても北海道です。

茹でた毛蟹や、フレッシュなイクラ。ピチピチのボタンエビ、ホッキ貝など、高鮮度な素材には困らない土地柄。握り寿司は「生寿司」と呼ばれ、「江戸前」に対して「蝦夷前」とも呼ばれるのが、この土地の寿司なのです。

江戸前寿司の食べ方

江戸前寿司の食べ方に、当時と今では違いはあるのでしょうか?

江戸っ子の粋

江戸時代は冷蔵技術が未発達だったため、酢でしめたり、醤油に漬けたり、火を通して下処理をしたネタには、味がつけられていました。また、シャリ自体の味が重視されたことから、現在の酢飯よりも濃い味がついていたそうです。そんなことからも、当時は寿司に醤油やワサビはつけず、そのまま口にするのが一般的でした。

浮世絵に描かれた江戸前寿司(歌川広重・江戸後期)Wikimedia Commons(PD)

また、江戸時代の寿司とは、ちょっとしたおにぎりほどの大きさがありました。

屋台スタイルのお店では、サッと立ち寄って注文すれば、すぐに出てくる、いわばファーストフードです。椅子にも座らず、立ったまま手でつまんで食し、グズグズせずにすぐ帰るのが江戸っ子の粋な食べ方として広まったそうです。

現代の食べ方

江戸前寿司をおいしくいただくには、鮮度が高いうちに食する事が基本です。また、箸を使わない江戸っ子スタイルの場合は特に、手洗いをしっかり行った清潔な手で食してください。

しょうゆは、つけ過ぎると素材の味を消してしまうので、控え目に。シャリにつけると崩れてしまうため、横に寝かせてネタだけにつけます。軍艦巻きは、しょうゆをつけたガリで塗る方法をとるとスマートですよ。

ガリを使ってしょうゆをつけます。
軍艦巻きはガリを使ってしょうゆをつけます

また、回転寿司のお店ではプッシュ式のしょうゆ差しの導入が増加傾向です。これなら、お子さんでもつけ過ぎる心配がなくて、いいですね。

江戸前寿司の買い物

江戸前寿司をお家でいただくには、冷凍通販が便利です。ちょっとした家族の集いなどにあると、食卓が華やぎます。

【冷凍】おうちで握り寿司『特上』30貫セット

冷凍のネタと、シャリ玉がご自宅に届きます。自分で作って食べるスタイルの、握り寿司セット。ネタは本鮪の他、ホタテ、サーモンなど、お子さんに人気のものばかりです。

ルーツは江戸時代の庶民から

東京湾にあった漁場を江戸前と呼び、そこで握られた寿司のことを江戸前寿司と呼ぶのは、江戸時代の庶民にルーツがありました。

江戸時代の人々にとっては、江戸前だけで食べられる、特別な食事だったのですね。今では、握り寿司とは全国的に食べられるお馴染みの食事となっています。

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構成・文・写真(一部を除く)/もぱ(京都メディアライン)

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