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ラーケーションとは?「学び」を目的として「休暇」を楽しむ
まだまだ始動したばかりの「ラーケーション」。中にはこの言葉をはじめて目にした方もいるかもしれませんね。まずは、「ラーケーション」という制度についてを先生にお聞きしてみました。
―― まずは、「ラーケーション」とはどのような制度を指すのか教えていただけますか。
安斎先生:「ラーケーション」とは、「ラーニング(Learning)」と「バケーション(Vacation)」を組み合わせた造語で、「学び」を目的として「休暇」を楽しむことを指します。つまり「休暇をとるような場所で学ぶ」イメージです。
歴史的経緯までは把握していませんが、「ワーケーション(※1)」が先に使われるようになり、ここ数年の間に「ラーケーション」が派生したと考えられます。
※1「ワーケーション」とは、「ワーク(Work)」と「バケーション(Vacation)」を組み合わせた造語。職場や自宅とは異なる場所でリモートワークをしながら、自分の時間も過ごすことを指します。
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具体的には何をする? 安斎ゼミでの取り組みを例に「ラーケーション」との向き合い方を知る
まだまだ浸透過程にある「ラーケーション」には、実際に行われた例が多くありません。そんな中、安斎先生のゼミは「ラーケーション」を目的に教室を飛び出し、自然に囲まれた軽井沢へ。2024年3月に大学生・社会人向けに行われたこのセミナーでは、具体的にはどのようなことをしたのでしょうか。
いつもと違う場所で、いつもと違うメンバーと、いつもと違うテーマを学ぶ
―― 先生のゼミでは、「ラーケーション」を目的に軽井沢へお出かけされたのですね。このセミナーはどのようなものだったのでしょうか。
安斎先生:このセミナーのそもそものきっかけは、三菱地所さんが運営する「ワーケーション」向けの軽井沢の施設(WORK × ation Site 軽井沢)が教育機関向けの「学び」のパッケージを構想していた際に、意見交換をしたことでした。
ひとつの実践として行なったのが、その施設での安斎ゼミの「軽井沢ラーケーションセミナー」です。自分も「教室の外で学ぶ」ことが好きだったので、ぜひやってみようという運びになりました。
―― そのようなきっかけだったのですね。
安斎先生:いつもと違う場所で、いつもと違うメンバーと、いつもと違うテーマを学べば、何かしらの化学反応が起きるのではないかなという期待もありました。
そこで、清泉女子大学のゼミの学生4人と、以前私が所属していた群馬県立女子大学の卒業生と清泉女子大学の卒業生の社会人4人の組み合わせで、世代・業種・職種を混ぜた組み合わせでの1日プログラムを行ないました。10時から15時ぐらいまでグループワークをして、その後軽井沢を散策したり、夜は懇親会をしたりしました。
▲軽井沢でのセミナーの様子
「教室の外で学ぶこと」にこそ意味がある
―― 「学び」に関しては、やはり行き先の土地にまつわることをテーマにするものなのでしょうか。
安斎先生:そういうイメージではありますが、とらわれなくても良いように思いますね。「教室の外で学ぶこと」にこそ意味があるので、いつもとは違う場所で、たとえば将来の日本について考える……といったことでも有意義ではないでしょうか。
―― 先生のゼミのグループワークでは具体的にはどのようなことをされたのでしょうか。軽井沢という土地との関連性にはやはりこだわりましたか。
安斎先生:もちろん軽井沢ならではの学びができれば理想的でしたが、こだわりませんでした。ただ、軽井沢ではありませんが神奈川県内のとある高校から「キャンパスに生えた竹を用いた“竹炭”を教育のテーマに展開したい」という自然に関わる相談があったので、グループワークで考えてもらったのはその方策です。そこで挙がったアイディアは後日その高校へと持ち込んだのですが、とても喜ばれました。
プランを立てる際に大切にしたいポイントは?せっかくなら親も学ぼう
現状の「ラーケーション」は、どこで何を学ぶかといったプランも各家庭で考える必要があります。あまりにも漠然としており、すでに「ラーケーション」が導入されている地域には頭を抱えている親御さんも少なくないのではないでしょうか。「ラーケーション」のプランを立てる際に大切にしたいポイントについても先生に聞いてみました。
―― 「ラーケーション」のプランを立てる際に大切にしたいポイントを教えていただけますか。
安斎先生:第一に「遊び」の要素です。座って学ぶことから離れて、遊びのようなワクワクする経験を通じて学びを深める「プレイフルラーニング」的なプランを立ててみると良いのではないでしょうか。楽しく学ぶことで、能動的・探索的・創造的な学びが実現されることが期待できます。
第二に「五感や身体を使うこと」です。せっかく教室を飛び出すのですから、自然に触れ、五感を刺激してほしいと思います。現代社会では、他者から聞いたことを鵜呑みにする傾向がありますが、それでは真の学びにはなりません。五感や身体が介在してこそ「体得する」ことができます。
第三に「協働学習」。せっかくであれば一人で調べ物をするというよりは、誰かと学び合いましょう。近年では、一方通行な学びではなく、双方向的であり能動的な学びが注目されています。
できれば親子で!「興味のないこと」が新たな学びに繋がることも
安斎先生:こうした要素に「親子で遊ぶ」「親子で五感や身体を使う」「親子で協働的に学ぶ」という状況を作って、親にとっての学びや成長の場も実現できたら素晴らしいですね。子どもの学びというと親は単なる“付き添い”になりがちですが、親にとっての学び、そして成長にも繋がるのが理想です。
―― 思いつきでかまわないのですが、具体的にはどのようなことが考えられますか。
安斎先生:たとえばスポーツや演劇体験、キャンプ場での火起こしや調理体験なら「親子で遊ぶ」「五感や身体を使う」といった要素がありますし、親子で工作するといったことをすれば「親子で協働的に学ぶ」という側面もカバーできると思います。
ほかに、美術館や科学館、工場見学、神社仏閣巡りといった活動、また友達家族と一緒に行くことなども楽しいかもしれません。
―― 親子でともに学ぶ場合、親と子どもの興味が合致していないと難しいイメージがあるのですがいかがでしょうか。
安斎先生:確かに両者の一致した興味があればそれをテーマにしやすいですが、逆に、一方もしくは両者ともに興味のないテーマを設定してみるのもアリだと思います。
アートに興味のない親子で一緒にアートを見て触発し合うだとか、子どもが好きな場所に行って親が教わるのも良いのではないでしょうか。
ほか、興味の有無に関わらず「ラーケーション」先の地域が抱える課題をテーマにプランを考えてみる……等々、幅広い可能性があるはずです。
―― プランを考えること自体が楽しそうですね。
安斎先生:普段暮らしている地域とは別の場所で、興味関心のある分野以外に触れること自体にも意味がありますし、親子で考えて訪れてみたら面白そうな気がしますね。
「ラーケーション」の今後の展開や現状抱える課題。向き合い方と期待したいこと
「ラーケーション」の今後の展開や現状の課題についても安斎先生に訊ねてみました。その動向や課題には、どのように向き合えば良いのでしょうか。
―― 今後は自治体や旅行会社等からも「ラーケーション」向けのプランやツアーが組まれることが予想されるのでしょうか。そのような既存のプログラムへの参加についてはどうお考えですか。
安斎先生:ビジネスとしてそのような動きは出てくると思います。サマーキャンプのような、決められたプランに参加するのももちろん良いのではないでしょうか。
一方で、せっかくなので「自由な学び」として家族会議でプラン自体を作っていったら、それはそれで楽しそうですよね。「ラーケーション」というと特別な響きがありますが、「休みのプランを考える」というのはよくある話です。なので、実はその一端はすでにあちこちで行われているように思えます。
―― 最後に、現状「ラーケーション」が抱える課題を教えていただけますか。
安斎先生:「ラーケーション」は、学校を休むことで学習が遅れる可能性があることや、対応できる家庭と対応できない家庭があること、親の職業によっては休みの調整が難しい場合があることなど、現状ではさまざまな課題を抱えており、まだまだ試行錯誤の段階にあります。
ただし、視野を広げると「休み方改革」や「学び方改革」の一形態であると捉えるられるほか、子どもの学びや成長にとどまらず大人の学びや成長という観点にも留意すること、地方創生やイノベーションの創出という視座も加えることなどによって、「ラーケーション」の意義は大きく変わる可能性を秘めていると考えています。
「何を学べるか?」を考えることが重要。プラン作りから楽しもう!
今回は、「ラーケーション」の具体例やプランの立て方、さらには「ラーケーション」との向き合い方までを安斎徹先生にお聞きしました。
取材の中では「極論で言ってしまえば、『ラーケーション』は家でもできる」といったお話もありました。じっくりと考えてみれば、どのような場所においても、追求できそうな課題や興味深いテーマは浮かび上がってくるもの。「休みの日に行き先でなにが学べるか?」を家族で話し合い、プランづくりをするところからが「ラーケーション」の学びの始まりと言えるのかもしれません。
制度としての「ラーケーション」がまだ学校に導入されていない場合でも、ぜひ、学びと休みを両立できるプランを考えてみては。
ラーケーションについての保護者のリアルな意識調査はこちら
お話を伺ったのは…
東京都生まれ。一橋大学法学部卒業後、三菱信託銀行(現:三菱UFJ信託銀行)に勤務。ニューヨーク駐在時には育児のために2週間の休暇を取得。働きながら大学院に通い、28年間のサラリーマン生活を経て大学教員に転身。現在は日本で唯一の地球市民学科で「教室を飛び出す学び」を推進中。「日本一ワクワクドキドキするゼミ」を目指す安斎ゼミでは企業や地域と積極的に連携しながら多種多様なプロジェクトに挑む。著書に『企業人の社会貢献 意識はどう変わったのか』(ミネルヴァ書房)女性のためのキャリアデザイン』(樹村房)『アニメ映画から学ぶ生き方のヒント』(樹村房)『ソーシャル就活ガイドブック』(三恵社)などがある。
取材・文・構成/羽吹理美