目次
児童養護施設で暮らす7 歳、11 歳、14 歳の子どもたちにフォーカス
『大きな家』の企画・プロデュースは、俳優・映画監督としても活躍する齊藤工。監督を務めた竹林監督とは旧知の仲で、齊藤工は「私は、この作品を作るためにずっと映画に関わってきたのかもしれない。そんな、自分の理由になるくらいの作品ができました。」とコメントしています。
舞台は東京のとある児童養護施設。ここで暮らす子どもたちは、さまざまな事情からここで暮らし、基本的に18歳になり自立の準備ができたものから退所していきます。
まだ自分で身の回りのことができない幼い子から、小学生、中学生、高校生、さまざまな年代の子どもたちが暮らしていて、映画のなかでは7 歳、11 歳、14 歳と年齢順に見せ、ひとりひとりに焦点を当てます。時期が来て退所し、自立している大学生にフォーカスしたパートも。
年齢順に見せることで、彼、彼女たちの成長はもちろん、歳を重ねることで変化する状況、悩みなどもリアルに知ることができます。
大きな事件が起こるわけではない。とてもリアルな日常
まず、こういったドキュメンタリーというと、その子の生い立ちや親子関係に注目したり、大きなトラブルをメインに描かれたりすることが少なくありません。
しかし本作はその子のバックグラウンドなどは一切描かれず、観客側にもSNS等で詮索しないようお願いがあります。描かれているのも至って普通の日常です。
朝職員に起こされて着替え、朝食を食べて、歯を磨き、まだ小さい子なら仕上げ磨きもしてもらい、女の子は髪の毛をきれいに結ってもらって学校へ行く。場所が違うだけで一般家庭と同じような生活。
しかし、だからこそ、そこの子どもたちが自分の子どもともリンクし、健気な様子を見ると心がぎゅっとなるような場面も。
愛情深く接する職員の方の姿が心に残る
子どもたちだけでなく、子どもたちを支える職員の方の姿もとても印象的です。常にキッチンに立っていてご飯を作ったり、野球をやっている子にお弁当を作ったり、お祝いの席ではケーキを用意したり、献身的で愛情深く生活を支え、ときには悩みを聞いたり、子どものことを思って厳しく指導することもあります。
ある女の子の卒業式の朝には胸をいっぱいにしてポロポロと涙を流したり、部活の試合にまで足を運んだり、みんなでスキー場へ遊びに行ったり。ここまでしてくれているのだなと発見がありました。
少なくとも筆者が勝手に思い描いていた児童養護施設のイメージよりもはるかに明るく、温かく、さらに身の回りのものもちゃんときれいで新しく、そこにいるのが本当の親ではなくても、子どもたちは安心して暮らせているのではないかと思います。
「ここのみんなはどんな存在?」「ここはどんな場所?」
この映画では、それぞれの子どもたちに「ここのみんなはどんな存在?」「ここはどんな場所?」と質問します。
みんなとは毎日衣食住を共にし、いいことも悪いことも一緒に乗り越えてきて、親身になって接してくれる信頼できる職員もいる。自分なら「本当の家族だと思ってる」とか「ここが私の家です」、職員のことも「本当のお母さんのようだと思っています」などと話すだろうなと思いながら見ていました。
それでも彼、彼女たちの答えは私が思っていたのとは違う答え。しかもみんな同じように答えていました。そこには、血のつながった生みの親から離れて暮らすことになった現状、そして今なお離れて暮らしているということ、それによる想いががあるのだと思います。
前を向いて強く生きていこうとする様子に勇気がもらえます
「今日はパパが来る日なんだ」と喜ぶ姿、生みの親がいる家を実家だと大切そうに話す姿、そして母親に会える日を内心楽しみにしていたのに、突然会えなくなったとき。
実の親との関係が描かれるシーンでは、親に会うということ、一緒に暮らすことが叶わないこと。それをその子たちなりに受け入れている様子は、子どもがいる身としては苦しくなります。
それでも、ここで仲間や職員から愛情を注がれ、「変えられない部分を引きずるよりは、自分で変えていける未来を変えていこう」と、前を向いて強く生きていこうとする様子には、見ていて勇気をもらえました。
この子たちには会った事はないけれど、この作品を通じて大切な存在に感じ、この先の未来が明るいものであることを思わず願ってしまう。そして、家族の有り方についても考えさせられます。
この作品は出演者への配慮のため、劇場のみでの公開になっていて、配信・パッケージ化のない作品です。興味を持った方がいたら、1人でも多くの方に劇場で見ていただきたいと思います。
「大きな家」東京・大阪・名古屋で先行公開中/12月20日(金)より全国順次公開
監督・編集:竹林亮
企画・プロデュース:齊藤工
主題歌 ハンバート ハンバート 「トンネル」(SPACE SHOWER MUSIC)
ⒸCHOCOLATE
こちらもおすすめ
文/長南真理恵