消費税の基礎知識
海外の消費税について考える前に、「消費税とは何なのか」をしっかりと確認しておきましょう。定義や歴史を知って、消費税に詳しくなりましょう。
消費税とは
消費税とは、消費者が商品やサービスを購入したときにかかる税金です。医療費や授業料などを除く、ありとあらゆる商品やサービスに課されています。
しかし、消費税は「支払っているイメージ」はあれど、「納めているイメージ」は薄いかもしれません。このような現象が起こる背景には、「消費税が間接税であること」が関係しています。
間接税とは、税金を納める人と負担する人が異なる税金のことです。消費税の場合、消費者が商品やサービスを購入したときに消費税を支払い、支払われた消費税をまとめて納税義務者である事業者が、国や地方自治体に納める形を取っています。
納めた消費税は、年金・医療・介護・子ども・子育て支援対策に使用されています。
日本の消費税の歴史
日本の消費税は1989年に導入されました。背景には、所得税への過度な依存の是正、個別間接税の限界、そして高齢化社会への対応がありました。単に高齢化対策だけでなく、包括的な税制改革の一環として実施されたのです。
消費税の導入は一般市民の家計を直撃する大事件でした。それ故に消費税が導入された当時は国民の関心が高く、各地で反対運動も起こるほどだったといわれています。
導入当初の消費税率は3%でした。その後消費税は何度か増税され、現在に至ります。消費税増税の歴史は以下の通りです。
・1989年:3%
・1997年:5%
・2014年:8%
・2019年:10%
2019年に行われた増税では軽減税率が導入されました。
軽減税率とは
軽減税率とは、特定の商品について通常よりも低い消費税率を設定する仕組みをいいます。日本では、消費税率が10%に引き上げられた2019年10月に導入されています。日本の軽減税率は8%です。
日本では「お酒や外食を除く飲料品や食料品」と「定期購読契約で週2回以上発行される新聞」が軽減税率の対象です。
飲食料品については、店内での飲食は外食扱いなので10%、テイクアウトや宅配は外食ではないので8%が適用されます。同じ商品でもどこで食べるかで税率が異なる仕組みです。
新聞については、コンビニや駅の売店で購入するものは10%が適用されます。また、スマホやタブレットで読む電子版も10%が適用される商品です。
海外の消費税ランキング
日本の消費税に当たる税金は、海外では「付加価値税(VAT)」と呼ばれるのが一般的です。付加価値税は、アメリカを除く世界150以上の国と地域で導入されています。消費税(付加価値税)の税率が高い国と低い国をランキング形式で紹介します。
消費税が高い国ランキング
OECD加盟国・EU・ASEAN+3(台湾を加える)における、2024年1月時点の消費税率(付加価値税率)を比較してみましょう。高い順から並べたランキングは以下の通りです。なお括弧内は食料品に対する税率です。
1位:ハンガリー:27%(27%)
2位:デンマーク:25%(25%)
3位:ノルウェー:25%(15%)
4位:スウェーデン:25%(12%)
5位:クロアチア:25%(5%)
6位:フィンランド:24%(14%)
7位:ギリシャ:24%(13%)
8位:アイスランド:24%(11%)
9位:ポルトガル:23%(6%)
10位:ポーランド:23%(5%)
11位:アイルランド:23%(0%)
12位:エストニア:22%(22%)
13位:スロベニア:22%(9.5%)
14位:イタリア:22%(4%)
15位:リトアニア:21%(21%)
15位:スペイン:21%(21%)
ランキング上位には、ヨーロッパの国々が多いことが分かります。
消費税が低い国ランキング
「消費税が高い国ランキング」と同じ条件で、世界の国々を消費税率(付加価値税率)が低い順に並べたランキングは、以下の通りです。括弧内は食料品に対する税率です。
1位:台湾:5%(非課税)
2位:タイ:7%(非課税)
2位:ラオス:7%(非課税)
4位:ベトナム:8%(5%)
5位:スイス:8.1%(2.6%)
6位:シンガポール:9%(9%)
7位:韓国:10%(非課税)
7位:カンボジア:10%(非課税)
9位:オーストラリア:10%(0%)
10位:日本:10%(8%)
11位:インドネシア:11%(非課税)
12位:フィリピン:12%(非課税)
13位:カナダ:13%(0%)
14位:コスタリカ:13%(1%)
15位:中国:13%(9%)
世界的に見ると、日本の消費税率は低いほうであることが分かります。
海外における消費税の現状
消費税(付加価値税)が高い国と低い国のランキングに触れた後は、海外の消費税の現状を知っていきましょう。各国の現状を知って、消費税に対する理解を深めましょう。
アジア
アジアにある国々の消費税率は、世界的には低い傾向があります。中でも税率の低さが際立っているのが台湾です。
台湾の消費税は「営業税」と呼ばれ、税率は5%です。基本的に、国内で販売されるあらゆる商品・サービス・輸入品に課税されますが、食料品には課税されません。台湾の消費税は、消費税を納める際に必要な領収書「統一発票」に宝くじの抽選番号が付いているのが特徴です。
アジアの中でも比較的消費税率が高いのが中国です。中国の消費税は「増値税」と呼ばれます。増値税の税率は13%です。農産品・塩・水道などは9%、金融サービスや生活サービスなどは6%、国際運輸サービスや航空運輸サービスなどは0%というように、個別で税率が決まっている商品・サービスもあります。
ヨーロッパ
ヨーロッパにある国々の消費税は、ハンガリーの27%やデンマークの25%に代表されるように高い傾向です。
ヨーロッパ諸国の多くが加盟しているEUには、「VAT指令」という基本法令があります。VAT指令では、消費税率(付加価値税率)を原則15%以上に設定するように義務付けています。食品などについては軽減税率が認められているものの、この指令の存在がヨーロッパ諸国の消費税率を押し上げている一因といえるでしょう。
消費税率が高い傾向があるヨーロッパは、税負担が重い代わりに社会福祉を充実させている傾向があります。例えば消費税率25%のスウェーデンでは、大学までの教育費が無料です。日本のように経済的理由で進学を諦める必要はありません。
出典:税制 | EU – 欧州 – 国・地域別に見る – ジェトロ
北アメリカ
北アメリカ諸国には特徴ある消費税制度を定めている国が多くあります。
アメリカには、日本でいうところの消費税に当たる税金はありません。代わりに「小売売上税(Sales Tax)」という仕組みが存在します。
アメリカの小売売上税は国単位で一律に決まっているわけではなく、州や地方自治体によって税率が異なります。中には商品やサービスを購入しても、小売売上税が課されない場所もあるほどです。
カナダで消費税に当たる税金は3種類あります。カナダ全土で課税される税率5%の税金が「連邦消費税(GST)」です。連邦消費税と併せて納付が求められるのが「州・売上税(PST)」です。州・売上税は州によって税率が異なり、導入されていない州もあります。連邦消費税と州・売上税を一体化した税金が「ハーモナイズド消費税(HST)」です。オンタリオ州やノバスコシア州などの5州で導入されています。
南アメリカ
南アメリカ諸国は、下記のように比較的消費税率が高い国が多い傾向です。
・ウルグアイ:22%
・アルゼンチン:21%
・コロンビア:19%
・チリ:19%
日本と関わりが深い国として知られるブラジルでは、消費税に当たる税金は「商品流通サービス税(ICMS)」と呼ばれています。
ブラジルの商品流通サービス税は非常に複雑な仕組みの税金です。取引を行う地域やどのような商品を購入するかで、細かく税率が変わってきます。商品流通サービス税については2022年、税率の上限を17%もしくは18%にするとする法案が裁可されました。
出典:世界の消費税|横浜南間税会
:商品流通サービス税(ICMS)の税率に上限を設定、ボルソナーロ大統領が法案を裁可(ブラジル、ロシア、ウクライナ) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース – ジェトロ
消費税増税と消費税減税について
日本の消費税を考えるときに常に付きまとうのが、消費税増税に関する議論です。昨今では消費税減税をマニフェストとして掲げる政治家も現れ、多彩な議論が交わされるようになりました。消費税を増税・減税すると起こるメリット・デメリットを解説します。
消費税増税のメリット・デメリット
消費税を増税すると得られるメリットとしてまず挙げられるのが、国の財政の安定化です。消費税を増税すると国庫に入るお金が増えるため、財政の安定が見込まれます。消費税は景気の良しあしに関係なく安定的に税収が得られる税金なので、他の税金を上げるよりも財政の安定が図りやすい特性があります。
消費税を増税するともたらされるデメリットの代表例が、景気の悪化です。消費税を増税すると、商品やサービスを購入するときに支払うお金が増えるため、消費者の購買意欲をそいでしまうと考えられます。消費が落ち込めば、日本全体の景気の悪化は避けられません。
消費税減税のメリット・デメリット
消費税を減税すると得られるメリットとして挙げられるのが、消費の拡大です。理論上では消費を促し、景気を押し上げる効果が期待できるといわれています。
しかし専門家によっては、一時的な減税では消費を喚起する効果はほとんどないと論じる人もいます。また、もし恒久的に消費税を減税すると宣言したとしても、その公約を信頼し、消費を活発化させる人がどれだけいるかは未知数です。「別の税金を上げるのだろう」と思い、財布の紐を緩めない人が大多数でしょう。
消費税を減税するともたらされるデメリットとしては、元々お金がない人にはメリットが少ないという点が挙げられます。消費税減税は高価な買い物をする人ほどお得感が得られる政策です。そもそもお金がなく、消費税が高かろうが低かろうが気の向くままに買い物ができない人にとっては、消費税減税はメリットが少ないといえます。
海外に目を向けて消費税の実情を知ろう
海外の消費税事情に目をやると、日本の消費税はそれほど高くないことが分かるでしょう。当初3%から始まった日本の消費税の歴史を知る人であれば、「今の消費税は高すぎる」と思うかもしれません。しかし世界的に見れば、日本の消費税は低いほうなのです。福祉の充実度や経済政策全般との関係から消費税問題を考えていく必要があります。
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構成・文/HugKum編集部