子どもが相次いでアレルギー反応…「同じ思いをしている人に届け!」社内プレゼンから始まったワーママ発案《アレルギー対応食》が商品化!

企業では事業領域をまたいで自由にビジネスアイデアを提案できる社内コンテストを実施するところが増えています。キリンの社内で行われている「キリンビジネスチャレンジ」を通して誕生したのが、乳幼児の食物アレルギー対策に役立つ情報発信アカウント「すくすくアレルギーのーと」。自身の子ども二人が食物アレルギーになったことをきっかけに新しい事業領域に挑戦した正親美菜子さん。グループ会社の研究者から新しい挑戦に至ったきっかけとは?

二人の子どもの食物アレルギー発症の体験から事業化を提案

キリングループには「キリンビジネスチャレンジ」という食から医にわたる事業領域で、イノベーション創出をめざすキリンの社内新規事業公募制度があり、それには社員が自ら事業アイデアを提案しプレゼンを行います。当時、キリングループの協和キリンにて研究員としてバイオ医薬品の探索研究に携わっていた正親さんは周囲の「やってみようか」という雰囲気に押されるように参加することにしたそうです。

正親さん「最初からアレルギー問題に強い関心があったわけではありませんが、『何の課題を解決したいか?』と考えたときに、自分の子どもたちの食物アレルギーが頭に浮かびました。私には二人の子どもがいますが、二人とも赤ちゃんのときに食物アレルギーが見つかったのです」

お話を伺った正親美菜子さん(現在の所属はCowellnex (コウェルネックス)株式会社
兼キリンホールディングス株式会社)

協和キリンの研究員としては、免疫アレルギー研究所で薬の研究をしていました。しかし、いざ自分の子どもが食物アレルギーを発症すると、知らないことばかりで戸惑うばかりだったとのこと。これは自分だけではなく、同じような悩みを抱える人がいるはずだと考え、この課題に取り組むことを決意したそうです。

正親さん「私の子どもは、上の子が8歳(小学校3年生)、下の子が5歳(年長)になります。二人とも0歳の離乳食期にアレルギーを発症し、上の子は牛乳と卵、下の子は卵にアレルギーがありました。

上の子のアレルギーは粉ミルクで気づきましたね。仕事復帰のために母乳からミルクに切り替えようとした際、飲ませた途端に症状が出たんです。下の子については、上の子が食物アレルギーを持っていたので注意はしていました。ですが、最初は問題なさそうだと思っていたのに、離乳食の量を増やしたタイミングで発症してしまい……。気をつけていたつもりだったので、防ぎきれなかったことに本当にショックを受けました」

その後、かかりつけの小児科で検査を受け、正式に食物アレルギーと診断が下り、それ以降アレルギー対応の食事づくりが始まったのだそう。

正親さん診断を受けた後、スーパーでの買い物が一変しましたね。医師からは原材料表示をチェックし、牛乳や卵が含まれている食品を避けるよう指導されました。でも、実際にスーパーに行くと、想像以上に多くの食品にこれらが含まれているんだと驚きばかりで。これが初めて食物アレルギーの大変さを実感した瞬間でした。

幸いにも、現在は二人とも牛乳も卵も食べられるようになっています。病院で『食物経口負荷試験』という、医師立ち合いのもと牛乳や卵を食べさせる試験を受け、症状が出ないことを確認したら医師に指示された量を家庭でも食べてみる、というステップを踏みました。

ですが初めての試験ではすぐに症状が出てしまい、そのときは『この子は一生このままなのかもしれない』と本当に悲しくなりました。しかし諦めずに続けた結果、最終的には卵1個、牛乳1杯を問題なく摂取できるようになりました。当時、症状も治療方法もさまざまあったので、本当に役立つ方法を求めて本やネットのあらゆる情報を集めていました」

インスタグラム経由での発信でもっと身近なコンテンツに

正親さんは自分の経験をもとに、「アレルギーに関する情報発信サービス」を2020年末にキリンビジネスチャレンジへ応募。2021年に通過後、検討を進め、2024年4月8日にインスタグラムで「すくすくアレルギーのーと」を立ち上げました。 「すくすくアレルギーのーと」では、医薬部門で免疫・アレルギー領域の研究を行ってきた正親さんの経験を生かし、乳幼児のアレルギーに関するエビデンスに基づいた情報、また、食物アレルギーの子どもを持つ親としての子育ての実体験などの情報を発信しています。

すくすくアレルギーのーと
すくすくアレルギーのーと(インスタグラム)

正親さん「ネット上にはさまざまなアレルギー対策の情報がありますが、その正誤、また最新にアップデートされた情報なのか、信頼できるものなのかといった心配な面も多いです。そこでこちらのコンテンツでは必ず医療関係者の監修のうえ、乳幼児の食物アレルギーに悩む家族の不安・不便・負担の解決をサポートしようというコンセプトにしました。 当初はウェブサイトでの発信を考えていましたが、子育て世代の多くがSNSで情報収集していることを知り、インスタグラムでの発信に方向転換しました」

インスタグラムでの発信を始めると、予想以上の反響が届いたのだそう。正親さんは、企業が発信することへの期待感の大きさを実感。

正親さん「SNSの特性上、ユーザーの反応が分かりやすく、次第にどの情報に関心が集まるのかが見えてきました。例えば、最近ではナッツ類のアレルギーが増加しており、食品表示の義務化などの動きが注目されています。このような最新情報を発信すると、特に大きな反響があります」

SNSは検索性が高い媒体ではないため、「こんな情報があるんだ」と気づきを与えることを重視。また、情報を視覚的に伝えやすいよう、画像やスライド形式での投稿を工夫しているそうです。現在の投稿ペースは月に2回程度。より多くの方に有益な情報を届けられるよう、今後も試行錯誤をしながら挑戦を続けていきたいと言います。

商品化第一弾はクラウドファンディングでの幼児向けのレトルトアレルギー食

この事業を通した商品化第一弾として、昨年夏にクラウドファンディングを行い、見事達成し発売したのが、「からだよろこぶすくすくごはん」3品(現在は販売終了)で、これは「子どもの食物アレルギーで毎日のごはんが大変」「外食先で食べられるものがあるか不安」「栄養バランスも気になる」といった悩みを解決し、時間と心のゆとりを生む幼児食がコンセプトです。

アレルギーというと本当にあらゆる食材で起きていますが、今回は主要8品目と呼ばれている特定原材料8品を使わないメニューで開発。それもどこまで除くかなど悩みがあったといいます。

クラウドファンディングのページ ※現在は販売終了。

正親さん「ベビーフードでアレルギー対応食というのは結構あるのですが、赤ちゃんからもう少し成長した幼児食として販売されているものはまだまだ少ないんです。ですから、開発していた商品はあえて大人が食べているものに近いものにしました。それは、普段は幼児食を食べている子どもが外出先でひとりだけがアレルギー食にしないといけないときに、具材が小さく刻まれたベビーフードのような見た目だと『もう赤ちゃんじゃなのに』とさみしく感じてしまう場面もあったりすると思うんです。ですから大人が食べても本当においしく感じられ、見た目もしっかりさせるというところにこだわりました」

メニューは「とり五目ごはん」、「チキンライス」、「カレーごはん」の3品で、サイズは子どもの食べられる量に合わせて2種類用意。
メニューは「とり五目ごはん」、「チキンライス」、「カレーごはん」の3品で、サイズは子どもの食べられる量に合わせて2種類用意。

メニューは3品、量は160gと120gを選んだのも、アレルギー食を食べている子どもがいる開発者ならではの配慮だ。

正親さん1品で食事が完結するものにしたいなというのがありました。制作過程でたくさんのメニューを検討してみたのですが、お子さんって目新しすぎるとちょっと警戒してしまう傾向もあると思ったので、最終的には『とり五目ごはん』『チキンライス』『カレーごはん』というなじみのある3品になりました」

実際にいただいてみると、まずはカップがおわんになっていて、そのままテーブルに出してもさまになるデザイン。食べてみると味もしっかりついている上に、それぞれの具材の食感も感じられ、食べ応えがありました。

正親さん「『こういうものがあると本当にありがたい』など、実際の反応をお客様からいただけて、私もすごく励みになりました。本当にやってよかったなと思っています」

食物アレルギーへの理解はまだ一般的とはいえません。正親さんはこの事業を通して、今後もアレルギー食の情報発信と商品開発に取り組んでいきたいといいます。

正親さん「『食物アレルギー自体は誰でも当事者になり得る。子どもの集まりやレストランとかでもそうですけど『アレルギーありますか』っていう一言をいってもらえると、こちらもすごくコミュニケーションを取りやすいなって思いますね。子どもにお菓子をあげるにしても、まずは親に見せていただいて『あげてもいい?』って聞いていただくとか。食べられないものを先に目にしてしまうと、子どもにとっても辛いので。そういった小さなコミュニケーションの理解ももっと広がっていけばいいなと思います」

『すくすくアレルギーのーと』(インスタグラム)

取材・文/北本祐子

こちらの記事もおすすめ

離乳食の「きなこ」はいつから?アレルギーの注意や選び方、おすすめレシピも紹介
離乳食のきなこはいつから? 離乳食初期の後半から豆腐に食べなれた後で きな粉は、離乳食初期の後半。豆腐に食べなれてからチャレ...
【医師監修】「いちごアレルギー」って何? 原因物質や対応策・つきあい方は?
いちごアレルギーって何? いちごアレルギーとは、名前の通り、いちごを食べることによって出るアレルギーのことです。 アレルギー反応の...
【医師監修】「たけのこアレルギー」ってなに? 原因や症状について知ろう
たけのこアレルギーとは? まずは、たけのこアレルギーの基本情報を解説していきましょう。 たけのこアレルギーの基本知識 たけのこ...

 

編集部おすすめ

関連記事