「月と鼈」とは?
読み方と意味
まずは読み方と意味を確認しておきましょう。この言葉は『月と鼈』と書いて「つきとすっぽん」と読みます。二つのものが、比べものにならないほどひどく違っていることをたとえた言葉です。
「月と鼈」の由来・語源
月も鼈(すっぽん)の甲羅も丸い形をしています。しかし月は大きく美しいものであるのに対し、鼈は泥の中で暮らし、見た目も美しくありません。
このことから、似たようなものではあるものの、優れたもの、美しいものを月に例え、そうでないものを鼈に例える『月と鼈』が生まれました。
1億2000万年前から日本にもいた「鼈」
「月vs鼈」の長い歴史
2017年、福井県勝山市北谷町の恐竜化石発掘現場から発見されたカメ化石が、世界最古のスッポンであることが確認されました※1。恐竜がいた1億2000万年前からほぼ形を変えずに生き延びてきた鼈。月と鼈は全く違うものでありながら、「人類が誕生する前から存在していた丸いもの」という共通点もありますね。
他にも丸いものはたくさんありますが、月と比べられるぐらいの歴史を持つ鼈。比較対象としても納得です。
「ニホンスッポン」なのに外来種?
現在の日本には「ニホンスッポン」という種類の鼈が本州以南の日本列島、壱岐・五島列島の河川や湖に広く生息しています。「ニホン」という名前がついていますが、実は1950年代以降中国などから食用として持ち込まれたものが逃げ出し、棲みついたと言われています※2。
コラーゲンたっぷりで滋養強壮や美肌にもよいとされている鼈。はるか昔から食用として人気があり、現在でも高級食材としてスープや鍋などに使われています。
※1:福井県立恐竜博物館 スッポンの起源に関する論文発表について
※2:国立環境研究所 侵入生物データベース
「鼈」の画数は?部首は?
大人でも書くのは難しい「鼈」という字は25画もあり、部首は「ベン」。漢検1級レベルの難しい漢字です。
「ベン」という部首は鼈の下半分で、カエルの形を表しています。カエルや亀などに関する漢字に使われる部首なので、「鼈」を思い出すときの手掛かりになりそうです。
使い方を例文でチェック!
では、『月と鼈』の使い方を例文でチェックしていきましょう。
1:モデルにスカウトされるほど美しい姉と私では、姉妹でありながら月と鼈ほどの違いがある。
平凡な自分と美しい姉を比べる際には自虐の念も込めて『月と鼈』が使えます。
2:のちにプロの漫画家になった友人の絵とその他の作品では、まるで月と鼈だった。
友人のずばぬけた絵の才能を他の人と比べる際には『月と鼈』が使えそうです。
3:パソコンを最新機種に買い換えたら、見た目は似ていても処理速度は月と鼈だ。
似たような形のパソコンですが、性能を比べるなら『月と鼈』と言えそうです。
4:高級レストランの食事に比べたら、私の手料理なんて月と鼈です。
高級食材を使ったメニューと自分の手料理を比べる際にも『月と鼈』が使えそうです。
類語や言い換え表現は?
では、『月と鼈』を別の言葉で言い換えたい場合、どのような表現を使うことができるのでしょう。『月と鼈』に似た表現を探してみました。
1:雲泥の差(うんでいのさ)
『月と鼈』と同様に、たいへんな違いがあることを表す「雲泥の差」。『月と鼈』の類語とされています。
2:提灯に釣鐘(ちょうちんにつりがね)
『月と鼈』と同じく、形は似ているけれどまったく違うもので比べようがない「提灯に釣鐘」。『月と鼈』と同じくつりあいが取れていないことの例えとして使われます。
3:鯨と鰯(くじらといわし)
こちらも海にいて形は似ているけれど、比較できないほどかけ離れている「鯨と鰯」。『月と鼈』と似た状態を表しています。
対義語は?
『月と鼈』に対義語はありませんが、反対の意味に近い言葉にはどんなものがあるのか考えてみました。
1:甲乙(こうおつ)付けがたい
2つのものに差がなく、どちらが優れているかを決めるのが難しい場合に使われる「甲乙付けがたい」。『月と鼈』とは逆に、どちらも素晴らしくて判断がつかない場合に使われます。
2:どんぐりの背比べ
どれもこれも平凡で、特にすぐれて目立つものがないことを例えた表現です。「甲乙付けがたい」と同じく、『月と鼈』の反対の意味の言葉ですが、こちらは特に優れたものがなく、すべて同じように見える場合に使われます。
3:実力伯仲(じつりょくはくちゅう)
力がつりあっていて優劣や勝負がつけがたいことを表す「実力伯仲」。『月と鼈』とは対照的に、釣り合っている様子を表します。
4:五分五分(ごぶごぶ)
双方とも優劣がなく、同じぐらいの力や魅力がある「五分五分」。『月と鼈』とは反対の意味にあたると言えそうです。
英語表現は?

では、『月と鼈』は英語ではどのように言い表すことができるのでしょうか。最後に『月と鼈』と言えそうな英語表現をご紹介します。
1:Like chalk and cheese
主にイギリス英語で使用される表現です。「チョークとチーズみたい(に違う)」という意味ですが、❝chalk ❞は黒板で使うチョークではなく、イングランドの海岸で見られる「石灰岩(チョーク)の崖」のこと。確かにチーズの断面とも似ていて、『月と鼈』と同様の表現と言えそうです。
2:As different as day and night.
「昼と夜ぐらい違う」という意味で、こちらも『月と鼈』と似た表現と言えそうです。
3:There’s no comparison between A and B.
❝Comparison❞は「比較」という意味の単語です。「AとBは(片方が明らかに良いので)比較のしようがない」という意味で、『月と鼈』に近い意味になります。
「月と鼈」の意味と由来を知って、正しく使ってみましょう。
辞書を見ずに書けると自慢したくなる『月と鼈』。水族館や動物園で鼈を見かけたら、ぜひ思い出して使ってくださいね。
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構成・文/kidamaiko