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「井の中の蛙大海を知らず」とは? 読み方と意味、語源をチェック
まずは、この言葉の読み方と意味、語源を押さえておきましょう。
読み方と意味
このことわざは『井の中の蛙大海を知らず』と書いて、『井の中の蛙(かわず)大海(たいかい)を知らず』と読みます。「蛙」は「かえる」ではなく、「かわず」と読むので要注意!
狭い知識にとらわれて見識が浅く、広い世界へと視野をひろげられない人や状態のことを、「狭い井戸の中で過ごしていて、大海を見たことがない蛙」にたとえたことわざです。
由来・語源
このことわざは、中国の思想家・荘子による『秋水篇』の中での一節「井蛙不可以語於海者、拘於虚也」に由来しています。
訓読すると「井蛙には以って海を語るべからざるは、虚に拘ればなり」となり、現代語では「井の中の蛙が海についてを語れないのは、虚(くぼみ)に心がとらわれているからだ」という訳に。ここから発展して、視野が狭く見識の浅いことを指すことわざとして広まりました。
「続き」を付け加えて、ポジティブに使う場合も?!
上述した意味のとおり、『井の中の蛙大海を知らず』はネガティブなニュアンスで使われる場合が大半です。しかしながら、なかにはこの言葉に「続き」を付け加える独自アレンジをする人も。
井の中の蛙大海を知らず、されど……
その「続き」というのは、たとえば、
「井の中の蛙大海を知らず、されど空の深さを知る」
「井の中の蛙大海を知らず、されど空の青さを知る」
等々。
「井戸の中の蛙は大海を知らない代わりに、井戸から見える空の深さ(青さ)を知っている」=「外界を知らなかったとしても、その人にしかない知識や見解・視点がある」といった意味ととらえることができるのではないでしょうか。
もちろん、これらは荘子による正式な「井の中の蛙大海を知らず」の「続き」ではありません。諸説ありますが、「井の中の蛙大海を知らず」がことわざとして日本で浸透した後に、言葉遊び的にこのような形で用いる人が現れたと考えられています。小説や校長先生のお話等で用いられることもあるのだとか。
馴染みあることわざも、ほんの少しのアレンジで、まったく違うニュアンスを伴う点がなんとも面白いですね。
使い方を例文でチェック!
ここからは『井の中の蛙大海を知らず』の使い方を、具体的な例文を通して確かめておきましょう。
1:学生時代の経験だけをもとに自慢話をする彼は、【井の中の蛙大海を知らず】だ。
学生時代での経験は、もちろん大変貴重です。けれども、社会に出た際に、それだけで自慢気に物事を語ってしまうと、周りに「視野が狭い」印象を与えてしまうかも。そんな人に対する批判の意を込めた一文です。
2:地元で友人づくりに失敗して自信を失ってしまった彼は、【井の中の蛙大海を知らず】だ。世間は広いので、いつかはきっと気の合う友人に出会えるはずだ。
こちらは、単なる批判的なニュアンスとは少々異なる例文。このようにポジティブ・ネガティブ、どちらの意味においても、狭いコミュニティでの自分の評価や知識・経験にとらわれている人を、「大海を知らない井の中の蛙」にたとえることができます。
3: 自分の知識や見解に拘りすぎている彼女は、まさに【井の中の蛙大海を知らず】といえる。
自分の考えや知識・見解に拘り、視野が狭くなってしまっている人をたとえた典型的な例文です。主に口語では「彼女は『井の中の蛙』だ」と短縮して使われる場合もありますが、正しくは省略しません。
類語や言い換え表現は?
では、『井の中の蛙大海を知らず』は、どのような言葉に言い換えることができるのでしょうか。ここでは、近い意味を持つ言葉をお伝えしていきます。
世間知らず
『世間知らず』は、経験が乏しく、世の中の事情を理解していない人を指す言葉。自分の未熟な知識や経験にとらわれ、世間に目を向けられない人・状態を表す『井の中の蛙大海を知らず』の言い換え表現として使うことができます。
針の穴から天を覗く
針の穴のように狭い自分の見識を基準に、大きな事柄について憶測することを指す『針の穴から天を覗く』。自分の浅い見識にとらわれて、物事を対局的に判断できない様をたとえる『井の中の蛙大海を知らず』に近い表現と言えます。
木を見て森を見ず
『木を見て森を見ず』は、言葉のまま、一本の木ばかりに目が向いてしまい、森という全体を見通せないことを言い表した言葉です。『井の中の蛙大海を知らず』を言い換えられる言葉として、あわせて覚えておきましょう。
対義語は?
『井の中の蛙大海を知らず』の対義語もチェックしておきましょう。正確には「対義語」と呼べる言葉が存在しないため、以下では、『井の中の蛙大海を知らず』とは反対の意味にあたる表現をお伝えしていきます。
1:灯台下暗し
灯台は周り一帯を明るく照らしている一方で、そのすぐ下は光が届かず案外暗いもの。全体にばかり目が向いてしまい、身近なことには気づかないことをたとえたことわざです。自分の身近な世界ばかり見ている『井の中の蛙大海を知らず』の反対の意味を持つ言葉と言えます。
2:近くて見えぬは睫(まつげ)
目というものは、遠くは見えても、もっとも近い場所に生えているまつげを見ることはできませんよね。そのことから『近くて見えぬは睫』は、他人のことはよく分かっても、自分のことはよく分からないことをたとえたことわざ。
近くばかりにとらわれて、遠くまでを見通せないニュアンスを持つ『井の中の蛙大海を知らず』の反対の言葉として捉えることができます。
英語ではなんという? 英語訳&近い意味の英語表現
では、『井の中の蛙大海を知らず』は、英語ではどのように表現するのでしょうか。ここからはその英語訳や、近い意味を持つ英語表現をご紹介します。
1:The frog in the well knows nothing of the great ocean(※英語訳)
『井の中の蛙大海を知らず』ということわざは、日本のみならず英語圏にも広がっている表現です。そのため、英語圏でもまた、上の文章のように英語にそのまま翻訳した状態で浸透しています。『井の中の蛙大海を知らず』が、文化が異なる遠い地でも多くの人から共感を寄せられることわざであることがわかりますね。
2:He that stays in the valley, shall never get over the hill.
『谷の中に留まる人は、山を越えられない』と訳せる英語表現。小さな世界で十分に満足してしまう人は、それ以上の高みを目指せないことをたとえた言葉です。『井の中の蛙大海を知らず』に近い英語表現と言えるのではないでしょうか。
3:He is ignorant of the world
先述したとおり、『世間知らず』は『井の中の蛙大海を知らず』の類語といえます。“He is ignorant of the world”は、『彼は世間知らずだ』と訳せるため、『井の中の蛙大海を知らず』に近い英語表現としてあわせて覚えておきましょう。
日常的にも用いられやすい言葉。正しく覚えて使ってみましょう!
今回は『井の中の蛙大海を知らず』の読み方や、意味、語源、類語を中心にお伝えしてきました。
上述したとおり、『井の中の蛙大海を知らず』が、英語圏でも使われるほど、広く浸透していることわざであることがわかりましたね。日常的にも用いられやすいので、正しく覚えてぜひ活用してみましょう。
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構成・文/羽吹理美