「朝の小1の壁」とは
放課後の居場所問題として主に使われてきた「小1の壁」という言葉。ところが、居場所問題の悩みは、放課後だけではありません。
保育園に預けていた時間よりも小学校の登校時間は遅くなるため、親の出勤が早い家庭では、朝に子どもが1人で過ごさなければいけない時間ができてしまいます。
とくに、まだ小学校に慣れていない1年生の親は、子どもを残して出勤することをためらい、結果的に、共働き家庭における就労の継続の難しさや、子どもの安全確保のための対策などが社会問題のひとつになっています。
品川区で「朝の預かり」がスタート
この対策として、品川区の戸越小学校、源氏前小学校、豊葉の杜学園の3校が、登校時間よりも早い時間から学校内で過ごすことができる取り組みを始めました。そのうちの1校、品川区立戸越小学校にお邪魔して「朝の預かり」を見せてもらいました。
どんなふうに過ごすの?
午前7時半に受け付けスタート

区立戸越小学校では登校時間より30分早い、午前7時半になると、事前に利用登録した児童たちが登校してきます。
下駄箱で靴を履きかえ、多目的室に行き、シルバー人材センターのスタッフがいる受付で名前を伝えます。

自分で自分の過ごし方を決める

グランドに面して朝陽の差し込む明るい多目的室。ここは、放課後の学童「スマイルすくーる」でも使われている部屋です。教室とは違い床に座るスタイルなので、子どもたちは授業中よりリラックスした表情。「自分の過ごし方を自分で決める」ため、落ち着いた雰囲気が感じられます。
子どもたちは、持参した教材に取り組んだり、読書をしたり、iPadを使った勉強をしたり、学習に繋がることをしてそれぞれに時間を過ごします。
安心して過ごせる場所


朝のフレッシュな脳は集中力も高まり、勉強に集中するには最高の時間と言えます。見守ってくれる大人の目もあり、教え合える仲間も隣にいるので、子どもにとっても安心して過ごせる場所になっているようです。
「朝の預かり」これまでの問題、これからの課題

「校門前で待たせるわけにはいかない」
品川区で「朝の預かり」を導入したきっかけは、登校時間前に学校に来て、下駄箱の前で8時になるまで待たなければいけない児童がいたことでした。また、放課後の学童に通っている保護者へのアンケート調査で「朝の預かり」を希望する声が上がっていたことも、導入を決めた理由です。
「学校にいる時間が長くなり過ぎる懸念も」
「朝の預かり」が共働き家庭の希望となると同時に、子ども目線での懸念点もあると川田重久校長は言います。
ひとつは、滞在時間の長さ。朝7時半から登校した児童が、夕方の学童を19時までに利用した場合、12時間近く学校に滞在するため、長すぎて子どもが疲れてしまうのではないかという懸念です。
もうひとつは、家庭での親子のふれあいの時間が減ってしまうこと。
この点を踏まえながら、子どもの様子を見守りつつ、試行していく必要があるというのが今の課題だそうです。
1日を元気に過ごすための「朝食提供」も
パンなどの朝食の無償提供も検討中

品川区の森澤区長によると「行政としてサポートすべくまずは3校で始めたこの活動。秋までに改善点を洗い出し、秋からは品川区内の全校で始められるように取り組んでいきたい」とのこと。
また、朝食を欠食している児童がいるとアンケート調査で把握しているため、朝食の提供も具体的に考えているそう。森澤区長は「朝食を食べて1日をスタートすることは健康上にも大事なことなので、しっかりと支援していきたい」と朝食の大切さについても話していました。
地域に支えられて始まった「朝の預かり」への期待

全国的には3割の親が「朝の預かり」を希望
子ども家庭庁の調査によると、朝の居場所を利用したいと回答したのは約3割。これを受けて、保護者の仕事と子育ての両立を支援するため、国は子どもの居場所作りの補助金について、朝の時間にも対応できるとして周知しました。1自治体あたり最大500万円まで、24年度の補正予算に4億3000万円を盛り込み、自治体が単体、または民間団体と連携し、居場所を確保する取り組みをしようと、国全体として動き始めています。
シルバー人材の方など地域の方のサポートも不可欠

今回訪れた戸越小学校では、全校生徒が朝8時から校庭で遊ぶこともできます。緑が気持ちよく、広い校庭で朝から体を動かせるのは貴重な時間です。思い思いにジャングルジムで遊ぶ子や、ボールを蹴る子、走り回っている子がいて、早く登校する生徒が多い理由にも納得です。「朝の預かり」も、この校庭遊びも、いわば「子どもの朝活」です。
そして、この取り組みには、地域のシルバー人材の方々の協力も不可欠です。
筆者の母は品川区のシルバー人材センターで働いていました。豊葉の杜学園の子どもたちを塾や習い事に送迎したりする毎日は、自分自身の活力にもなり「毎日がとても充実している」と話していたことを思い出します。
今回の取材では、子育てをひと通り経験したシルバー人材センターのスタッフも、いきいきと働いているのが印象的でした。子どもたちと関わることで日々の時間は充実し、子どもにとっても知らないことを教えてくれる大人と触れ合うことは、相互にとっても良い時間になると感じました。
より働きやすく子育てしやすい社会へ、国と行政が一丸となって始めた事業。「朝の預かり」は、今年度秋からいよいよ本格化します。
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取材・文/大泉有起子