健全な心の発達に欠かせない「非認知能力」。その土台が「アタッチメント」です【東京大学大学院教授・遠藤利彦先生に聞く赤ちゃんの成長のヒミツ】

健全な成長のために、乳幼児期の段階で「非認知能力」の土台をつくっておくことの大切さが近年さまざまな研究で明らかにされています。その準備段階に欠かせないのが、子どもとの心の絆であるアタッチメント。アタッチメント研究の専門家・東京大学大学院教授の遠藤利彦先生に解説していただきます。

 「非認知能力」とは、テストでは測れない心の力です

最近では、「非認知能力」という言葉が一般的に使われるようになってきました。まず「認知能力」とは、IQや学力など、テストで点数をつけて評価できるような能力のことです。非認知能力とは文字通り、認知能力以外のもののこと。数値化することができない、心の力です。

非認知能力を構成しているふたつの力

非認知能力の根っことなっているのが、「自己」と「社会性」です。

「自己」は、「自分に関係する心の力」と言いかえることもできます。自分を大切にすること、自分で自分をコントロールすること、自分を好きになり、やればできると感じること……。こういった気持ちが、「自己」に当てはまります。

これに対して「社会性」は、「人とうまくやっていく力」を指します。人の気持ちを想像して理解すること、コミュニケーション力、思いやりや協調性、ルールを守ること、道徳心、といった気持ちが含まれます

アタッチメントが非認知能力の土台になります

「自己」と「社会性」の土台となっているのは、アタッチメントです。自分が困ったり怖い思いをしたりして泣くと、身近な人が気持ちを受け止め、なぐさめてくれる。

子どもはこうした経験によって、自分は愛されていると感じ(自己信頼)、自分を愛してくれる身近な人を信じる(他者信頼)ようになっていきます。「自己」と「社会性」は生きていくうえで欠かせないものであり、人として最初に身につけておきたい力です。

自分も他人も信頼できるようになると「できそうだ」と思えることが増え、失敗を過剰に恐れなくなります。その結果、新しいことにも積極的にチャレンジできるようになり、経験の幅も自然に広がっていきます。

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自発的に遊ぶこと=非認知能力を積極的に使う経験

「頭がよい」という言葉は、テストでよい点をとれるなど、「学力が高い」という意味で使われることもあります。

でも、生きていくうえで本当に役立つのは、「地頭」のよさではないかと思います。

地頭とは、考える力の基盤となるもの。ただ公式やルールに当てはめるのではなく、情報を自分なりに分析し、想像や応用を加えながら柔軟な判断ができる能力のことです。

地頭を鍛える方法は、ただひとつ。頭をたくさん使うことです。ただし、この場合の「頭を使う」は勉強して知識を詰め込むことではなく、非認知能力を積極的に使う経験を指します。

そして子どもの場合、こうした経験に当てはまるのが、「自発的に遊ぶこと」なのです。

遊びに夢中になっているときの子どもの頭の中とは?

実験を繰り返す「孤独な科学者としての遊び」

夢中になっているときの子どもの遊びは、大きく2種類に分けられます。

ひとつめが、「孤独な科学者としての遊び」。科学者は、まず仮説を立て、それを証明するために試行錯誤しながら実験を繰り返します。

実は、子どもがひとり遊びをしているときの頭の働きもこれに近いのです。たとえばブロックを積み上げて遊んでいるとき、子どもは「同じ形のブロックを重ねればいいのではないか?」などと考えて積み木をのせていきます。つまり、仮説を立てたうえで実験しているわけです。

実験が成功すると、喜びと達成感を味わうことができます。こうしたポジティブな気持ちを味わう経験は、「もっとやってみよう」という意欲につながります。

また、失敗しても簡単にくじけず、「どうやればうまくいくだろう?」と、仮説を立てなおす段階から再挑戦することもできるようになるのです。

相手と交渉や駆け引きをする「社交的な法律家としての遊び」

ふたつめが、「社交的な法律家としての遊び」。

誰かと一緒に遊ぶと、意見調整が必要な場面が出てきます。そんなとき子どもたちは、相手の気持ちも想像しながら交渉したり駆け引きしたりすることで、遊びを成り立たせていきます。もめごとをうまく解決する法律家のように考え、行動するわけです。

遊びを通して身につけた力は、学力などの土台にもなります

夢中になって遊んでいるときの子どもは、科学者であり法律家。

自分で見つけた問題点に対処するために、脳をフル回転させています。こうした経験を通して地頭を鍛えることは、認知機能を高める土台にもなります。

自分の力で考える、他人と意見をやり取りする、新しいことに積極的にチャレンジする、といった資質は、何かを学ぶ上でも欠かせないものだからです。

子どものときに大切にしたいのは、「~ができる」という結果より、心の土台作りです。そして、子どもが自由に遊ぶためには「安心できること」が大前提。自分は愛されていて、困ったときには必ず助けてくれる人がいる……。自分も他人も信頼することができる非認知能力が身についていてこそ、子どもはのびのびと能力を伸ばしていくことができるのです。

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監修

遠藤利彦先生 東京大学大学院教授

東京大学大学院教育学研究科教授。専門は発達心理学・感情心理学。おもな著書に『赤ちゃんの発達とアタッチメント』(ひとなる書房)、『「情の理」論』(東京大学出版会)、『入門アタッチメント理論』(日本評論社)。最新刊は『安心感が子どもの心を育む 親と保育者のためのアタッチメント入門講座』小学館

遠藤利彦 小学館

0歳からの安心感が子どもの心と体の成長に与える影響。そして、親ができる具体的なかかわり方を発達心理学の視点から解説。子どもの生涯の土台となる「心の安全基地」を築くための入門書

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