乳児から幼児前期の子どもを抱えるお母さんは、“悩み”や“疑問”をたくさん抱えていますよね。そこで、二十数年間、公立保育園で保育者として勤務し乳幼児の育ちに詳しい今井和子先生が、自分の経験をもとにQ&A方式で回答してくれました。その例を紹介します。子育てに役立ててください。
2歳前半に多い質問
Q : 園で友達の持っているものを取ったり、友達に乱暴するといわれましたが、親としてどうしたらいいでしょうか?(2歳2ヶ月)
A:言葉が出てこないために乱暴するのか、何か心理的な不安が隠れているのか考えてみましょう
自分の思っていることや考えていることなどを、まだ言葉にすることができないため、要求や感情の自己表現として、行為が先行します。そういうときは、「お友達が使っているおもちゃがほしかったの?」などと言葉にして伝えましょう。ただし、園で起こったことは、子どもはほとんど覚えていないので、家に帰ってから叱ってはいけません。ほかにも、親が厳しすぎることでストレスがたまり、そのイライラをほかの子にを晴らしたり、お母さんが出産を控えていて心理的な不安から、乱暴な行動を起こすこともあります。注意ばかりせず、まずは子どもと向き合って”なぜ乱暴したのかな?“など行為の意味を考えてみてください。
Q:そろそろおむつ外しを考えていますが、いつごろになったら教えるようになりますか?(2歳4ヶ月)
A:おしっこサインはひとりずつ違うので、お子さんのサインをぜひ見逃さないように
歩けるようになり、「トイレに行ってみようか?」などの言葉が理解できることが大前提です。そのうえで、おしっこの間隔が2時間以上あくようになったら、膀胱にそれだけたくさんおしっこをためられるようになってきたことを意味するので、トレーニングを始めてみましょう。手を当てる、腰を振る、もじもじするなど、その子によってサインが違うので、それを見逃さないでトイレに誘うと成功率が高いようです。緊張するとうまくいかないので、失敗しても叱らないことがいちばん大事です。
Q:食具もクレヨンも左手で持っています。小さいうちに直したほうがいいでしょうか?(2歳4ヶ月)
A:ハンディではなく個人差なので直そうとする必要はありません
左利きは全体の10~15%といわれています。昔はハンディととらえて小さいうちに矯正したりしていましたが、いまは困らないことが増えたので、無理やり直す必要はありません。2歳前後はまだ利き手もちゃんと定まってはいないので、食事と文字はさりげなく右手に持ち替えさせたり、両方使えるようにしてあげるのがいちばんです。
2歳後半に多い質問
Q:買い物に行くと自分の好きなお菓子をつかんで離しません。何をいっても『買って、買って』ばかりで困ります(2歳6ヶ月)
A:買ってほしい気持ちは受け止めるけど……。”今日は買わないよ“を通しましょう。また、買い物に行く前に、母子のルールを決めましょう
自我が芽生えると、何でも自分の要求を通そうとし、ときには泣き叫ぶこともありますが、言いなりになるのはNG。「チョコレートはおうちにあるからなくなったら買うことにしようね」など、子どもの気持ちを受け止めたうえで、お互い折り合いをつけます。会計をすませるまではお店のものということを理解させ、お店のものには勝手に手をふれないなど、ルールを決めるのもいいでしょう。
Q:靴の左右がわからず、いつも反対に履いています。左右は何歳ぐらいで覚えるのでしょうか?(2歳6ヶ月)
A:生活や遊びのなかで、理解できるようにしましょう
2歳前後の子どもは、まだ利き手がはっきり定まっていないことがあります。だから、左右の理解ができないのは当然でしょう。左右同時に違う行為(左手に紙を持って、右手にはさみを持って切る、左手に茶わんを持ち、右手でフォークを持ってご飯を食べるなど)が成立できるようになるのも、3歳になってからです。いまのうちに覚えさせたい場合は、生活や遊びのなかで、例えば、靴を履くとき、クレヨンで描くとき、お茶わんを置くときなどに、”右がお味噌汁のおわんで、左がごはんのお茶わんね“などと、右、左を意識して伝えるといいでしょう。
Q:アリやハエ、クモなどの虫を見ただけで泣き出します。園ではどうですか?(2歳8ヶ月)
A:親が神経質になりすぎず、怖がらないのがいちばん
虫を嫌う子の多くは、親が嫌がっているのを見て、虫=嫌なもの、と認識している場合が多いです。また、靴を履こうとしたけれどクモがいて履けなかった、花から飛び出したハチに刺されたなど、嫌な経験をすると、虫が嫌いになる場合も。親が命あるものを対等にとらえ、「アリさんがご飯を運んでるね」「ハエさん、何を探して飛んでるのかしら?」などと、あまり神経質にならずに伝え、意識を変えていってあげましょう。
2歳全般の質問
Q : おとなしいなと思っていると、ひとりでテレビやビデオを勝手につけて見ています。忙しいのでついテレビに子守をさせる結果になってしまいます(2歳全般)
A:見る時間を決め、テレビ以外の楽しみを実感させてほしいです
一般的に、視力は2歳児で0.5、3歳児で1.0といわれるように、視力がまだ十分に育っていないので、テレビを長く見続けるのはよくありません。最近は子どもの近視が増えてきているので、見るときは、部屋を明るくし、テレビの対角線の5倍は離れ、30分見たら消すことを心がけます。1日に見る時間は、長くても1~1時間半とルールを決めるといいでしょう。
テレビは、子どもにいい影響もありますが、悪い影響もあります。前者は視野が広がり、子どもの好奇心や関心ごとが広がることです。ただし、まだ聞き分ける力がついていないうちにテレビをつけっぱなしにするのはよくありません。落ち着きがなく、人の話を集中して、5分以上聞けなくなることも(テレビ症候群)。また、テレビの前で長時間じっと過ごすため、運動不足にもなります。一方的に言葉を受け取るだけなので、自分の気持ちを伝える言葉や、ほかの人の気持ちを感じる力の発達が阻害され、コミュニケーション力にも影響します。
子どもは、親との会話や遊びのなかで、直接顔を合わせて実体験を共有することで、親子の絆を育み、身体や脳を成長させていきます。五感を養うためにも、テレビに頼らず、もっと違う楽しみがあることを伝えてあげましょう。
テレビで見たことを、実際の遊びにつなげると、子どもの興味や関心がさらに広がる。
一緒に絵本を読んだり、外で遊んで自然にふれるなど、テレビでは体験できない遊びを体感することで、五感が育まれる。
Q:よく“効率的な2歳児からのお勉強の誘い”が郵便ポストに入っています。迷っています。園ではどう考えていますか?(2歳全般)
A:3歳ぐらいまでは自発性を養うのがもっとも大事な時期なので、大人の夢を押しつけないよう配慮しましょう
“3歳からでは遅すぎる”“2歳こそ才能がぐんと伸びるとき”などの広告に惑わされず、いま、もっとも大事にすべきことを考えてほしいですね。
2歳はやる気のかたまり。子どもの自発性が最大限に発揮される時期なのに、早期教育といって、“大人に教え込まれる”“いろいろな知識を覚えさせられる”ことばかりを押しつけるのはよくありません。
子どもたちの知りたい、覚えたい、という要求がないところで、大人の求めをやらされることが多くなると、自分がいま、やりたいことをする、自分がいま、何をしたいのか、判断する力が育ちません。ピアノや絵画を習うことで情操が豊かになるわけではなく、子どもがあそびながら、おもしろい、楽しいと、興奮することこそが、脳の資質を育て、脳をコントロールできる力が育つのです。遊びは、子どもがやってみたいと思ったことに挑戦すること。そこで、「なんで?」と疑問に思ったり、「不思議だなー」と感じたことを追求していきます。遊びのなかにこそ、子どもの知的活動を活発にしていく学びの要素が込められています。よくあそび、よく学ぶ子どもを育んでいきたいですね。
記事監修
今井 和子 先生
「子どもとことば研究会」代表。二十数年間、公立保育園で保育者として勤務。その後、東京成徳大学教授、立教女学院短期大学教授などを歴任。現在は全国の幼稚園、保育園対象の研修会で講演などを行っている。
『0・1・2歳の保育』2016年夏 構成/大石裕美 イラスト/奥まほみ