ひと昔前は、入学直前の1〜3月が購入時期のピークだったというランドセル。近年では約1年前の5月に商戦が本格化するなど、ランドセル市場はますます加熱しています。
皇室御用達の老舗鞄メーカーであり、世界的にも高い評価を得ている大峽製鞄(おおばせいほう)株式会社のランドセルは、厳選した最高級の素材を用いた職人技による手縫い仕上げで知られています。
新入学を控えたママたちの間で大人気の秘密とは…? その歴史や技術から工房の様子までを取材、たっぷりご紹介していきます。
高級ランドセルブランド狙いのママ同士で加熱する “ラン活”
発売後、即完売する人気モデルも!
大峽製鞄株式会社・専務取締役の大峽宏造さんによると、「5月・6月からランドセルの販売を始めますが、ひと月も経たずに売り切れる品番もある」そうです。
「昔みたいに子どもが多かった時代と違って少子化の現在は、お母さまたちのほとんどが “初めて”ランドセルを購入されるようになりました。そんななかで、SNSやママ友同士の口コミによって『ランドセルを早く買わないと』という情報が広まるのも、加熱の一因なのではと思っています」と大峽さん。
SNSやメディアの効果で「ラン活」が過熱気味
以前、ランドセルを作る工房の様子がテレビで紹介された日には、ホームページにアクセスが殺到しパンク状態になりました。また、例年9〜11月ごろにはすべての商品が売り切れてしまうので、その時期に購入の要望があっても、対応が難しい場合がほとんどとのこと。
「忙しい時期には職人が残業することもありますが、会社の姿勢として質を落とすことはできませんので、毎年作れる数は決まってくるのです」(大峽さん)
職人技が詰まった手縫い仕立てのランドセル
皇室御用達、信頼の品質とは
大峽製鞄株式会社は、1935(昭和10)年の創業以来、80年以上の歴史を持つ老舗鞄メーカーです。皇太子さまなど皇族方ゆかりの学習院初等科でも採用されている「オオバランドセル」は、50年以上に渡ってランドセルの基本デザインとして定着しています。背負いやすく、丈夫で使いやすいのが特徴で、全国各地の有名国立・私立小学校でも採用されています。
「革の選定から始まり、型入れ、革漉き、カブセや肩ひもの取りつけなどの工程があるランドセルには、鞄作りの基本的な要素が詰まっています。約200ものパーツを組み合わせていく工程をこなしていくうちに、職人の技術も自然と磨かれていくものです。
ミシンをかけにくい部分は手縫いで仕上げています。ミシンでの仕上げに問題があるわけではありませんが、ミシンでの仕上がりが100点だとしたら、手縫い仕立てにはそれを上回る120点くらいの良さがあるのです」(大峽さん)
▲学習院初等科指定の通学ランドセル。昭和40年代の鞄で伝統的なヌメ革を使用した貴重品。皇太子さまが通学時に使われていたのと同型のものです。現在のランドセルと違い、留め具がなくベルト式でひと回り小さいのが特徴。
大人向けランドセルで世界的に注目が
革製品の本場イタリアで認められた技術
ランドセルの手縫い技術は日本独特のもので、その技を発展させてビジネスバッグや財布、革小物なども製造しています。
大峽製鞄の鞄づくりの技術は高く評価されており、国内のコンクールで文部大臣賞連続7回、通産大臣賞、経済産業大臣賞、東京都知事賞11回など数々の受賞歴によっても証明されています。
さらに世界的に賞賛を浴びたのは、大人向けのランドセルといえる「リューク」という作品でした。2012年、イタリア・ミラノで開催された世界最大規模のバッグ見本市に出展したところ、見事入賞の快挙を遂げたのです。
受賞後、リュークはイタリアでも最高級の百貨店で販売され、入荷後すぐに完売となるほどの人気を博しました。
「イタリアで賞を取れるとは思っていませんでした。しかし仕事のスキルは日本も決して負けていないと思います」と大峽さん。
▲最上級の素材を用いたオトナのランドセル「リューク」はシンプルなデザインが魅力。
▲イタリアの国際見本市「ミペル・ザ・バッグショー」での表彰(写真左)をはじめ受賞歴は多数。
▲超一級の素材でつくられた鞄、革小物が揃う大峽製鞄直営店(東京都足立区千住 4-9-2 ライオンズマンション 1F)。
このように革製品の本場で賞賛を受けた技術が、ランドセルづくりにも惜しみなく活かされています。
「お客さまのなかには、はるばる飛行機でランドセルの販売会に来られる方や、お孫さん全員に最高級モデルを購入される方など、根強いファンがいらっしゃいます。
もちろん6年間使っても壊れることなく革も劣化しないので、長く使っていただけるとわかるのでしょう。お子さんのランドセルをきっかけに、お父さまがビジネスバッグを、お母さまが財布を購入されるというようにファンも広がっているんですよ」(大峽さん)
多くのファンに選ばれ続けている、満点を上回る “120点” の仕上がりのランドセルとは?
次回はランドセル工房に潜入し、その様子をじっくりご紹介していきます。
構成/村重真紀 写真/浅野 剛