教育は「教える」から「引き出す」へ発育のススメ
教育と訳される“education”エデュケーションの語源は“educe”エデュース。「能力や可能性を引き出す」という本来の意味を知る福沢諭吉はeducatisionを「教育」ではなく「発育」とすべきと主張したそう。教える側ではなく学ぶ側が主役の「発育」はこれからの教育のコンセプトにもなっています。この連載では、そんな最先端の教育事情を紹介していきます。
プログラミング教育必修化へ。今さら聞けない「プログラミング」とは?
小学校での必修化が決まったプログラミング教育ですが、そもそもプログラミングとは? をおさらいしておきましょう。
2020年度から小学校でプログラミング教育が必修化されることが、学習指導要領で明示されました。小学校においては、「各教科書等の特質に応じて、プログラミングを体験しながらコンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付けるための学習活動を計画的に実施すること」が明記されています。「プログラミング」という教科が追加されるわけではなく、算数や理科などの時間において、プログラミングを用いることが想定されています。
では、なぜ小学校での必修化が必要なのでしょうか? そもそも「プログラミングとは?」 についてしっかり理解できているでしょうか? 子どもが興味をもったときに適切なサポートができるよう、プログラミングの理解を深めていきましょう。
プログラミングを不安に思わないこと、子どもに苦手意識を植えつけないことが大切
プログラミングを学ぶことができる絵本であり、小学校のプログラミング教育の実践実験でも教材として用いられた『ルビィのぼうけん』。その翻訳を担当した鳥井雪さんに、プログラミングについて伺いました。
——プログラミングとは?
「プログラミングとは、コンピュータに人間のいうことを聞いてもらう方法です。コンピュータというと、なんでもできるというイメージがありますが、そもそも単体では何もできません。例えば、電子レンジにもコンピュータが入っていますが、ボタンを押して調理させるためには、『この信号が来たら調理を始めてください』という指令を文章に書いておくことが必要。その文章を書くという行為がプログラミングです。つくりたいものをコンピュータに的確に伝えるためには、つくりたいものへの理解と、うまく伝える技術が必要です。そうでないと、まったく予想外の動きをする使いにくい家電ができあがるかもしれません。プログラミングは〝ものづくり〟そのものなのです」
——どうしてプログラミング教育が必要なのでしょうか?
「これまでプログラミングは専門分野といえましたが、現在ではコンピュータの司る分野が広がり、どんな職業でもなにかしらコンピュータと関わる必要がでてきました。そのとき、基礎知識があるかないかで仕事のしやすさが変わってきます。今後、社会はどんどんコンピュータ化されていきますが、その中でもっとも心配なのは、人間が受け身になってしまうことです。なんだかわからないけれど、ボタンを押せば機械がやってくれると受け身でいると、与えられたものを使うことしかできなくなってしまいます。コンピュータは人間がつくっているもので、『こうすればもっとよくなる』など工夫次第でカスタムできると知ることは、プログラミングだけでなく、主体的に社会に関わっていくことの入り口にもなると考えます」
——親に知識がなく、子どもに適切なアドバイスやサポートができるか心配なときは?
「プログラミングの世界には、
自分の書いたコードを全世界に公開し、フィードバックをもらってより良いものをつくるという考えが広まっています。ひとりで考えるのではなく、話し合いによってつくりあげるので、すべてを理解した先生の存在が必要なわけではありません。一方通行の学びではないので〝教える〟とは考えず、一緒にやってみる、あるいは子どもに教えてもらうくらいの気持ちでいいと思います。プログラミングは、スポーツのように体力や年齢、体の発達の違いなどを問わない分野なので、親子で一緒にできるのもいいところです」
——プログラミング教材の選び方を教えてください。
「プログラミングに必要なのは、試行錯誤です。プログラミングの知識を得ることはもちろん重要ですが、『プログラミング的思考法』は本を読んだら身につくというものではありません。実際に手を動かし、うまくいかなかったときに『どうやったらできるかな?』と試行錯誤することで、自分の中に思考法を身につけていくものです。また、『こうすればうまくいく』と説明書をなぞるように手を動かすだけでは、それも試行錯誤といえません。手を動かすことと、それがどのような考えに基づいているのかを探ること。プログラミングにはその両方が必要です。プログラミング教材を見るときは、その教材がどちらのタイプなのかを見極め、バランスを考えながら組み合わせを選んでみてください」
——プログラミング教育で子どもはどう成長しますか?
「プログラミングはトライ&エラーでつくりあげていくとお伝えしましたが、失敗したときに大きな問題を小さな問題に分割して、自分が取りかかれるようにするのが基本です。プログラミングを知ることで、『失敗はしたらいけない』ではなく『失敗したらどうしたらいいか』を考えられるようになり、考え方の整理が上手になると思います。困ってフリーズしても、その後どこから手をつければいいか、解決策を考えられる子になるのではないでしょうか」
記事監修
鳥井 雪
株式会社万葉技術開発部所属のプログラマーであり、女児の母。『ルビィのぼうけん』(翔泳社)、女子中高生向けプログラミング入門書『Girls Who Code 女の子の未来をひらくプログラミング』(日経BP)の翻訳者。
”はじめてのプログラミング”おすすめ教材
小学1年生の子どもだけでなく、プログラミング初心者の親御さんにもおすすめの教材を紹介してもらいました。
コンピュータの中身に本で触れる
『なるほどわかった コンピューターとプログラミング』
文/ロージー・ディキンズ(ひさかたチャイルド)
コンピュータの中身に触れられるしかけ絵本。コンピュータの中で起こっていることなどを、しかけを使って説明。軽いプログラミングへの導入もあり、コンピュータそのものに興味をもってもらう、きっかけになります。
親子でプログラミング入門
『ルビィのぼうけん こんにちは! プログラミング』
作/リンダ・リウカス(翔泳社)
一般的な絵本のように可愛い絵とストーリーを導入に、プログラミングの考え方に触れることができます。練習問題パートでは、考え方を深めて定着させることも。保護者向けの解説もあり、親子でプログラミングに入門するのにぴったり。
レゴや工作好きにおすすめ
『micro:bit』
https://microbit.org/jp/guide/
マイクロコンピュータ「micro:bit(マイクロビット。アクセサリー購入が必要)」とインターネット上で組んだプログラミングをつなげることで、ランプを光らせるなど、アイデア次第で生活の中で使える工作ができます。ロボットに興味がある子や工作、レゴ好きな子に。
アニメーションを作製
『Scratchjr』
アニメーションをつくることができるプログラミング言語であり、その専用アプリです。タイピングがほとんど必要なく、ブロックを組み合わせることでプログラミングができます。アプリ上で描いた絵や撮った写真を素材に使えるので、絵が好きな子におすすめ。
通えるプログラミング道場
『CoderDojo』
コーダードージョーはボランティアベースの非営利プログラミング道場です。世界各国にあり、日本には全国に180か所以上。スクラッチ、マインクラフト、電子工作など学べる内容は各道場ごとに異なりますが、近所にあれば足を運んでみるのもいいでしょう。
マインクラフトで学ぶ
『Minecraft Hour of Code』
人気のゲーム「マインクラフト」を題材にプログラミングを学ぶことができます。インターネット環境があればダウンロードの必要もありません。実際にマインクラフトと連動して使うのではなく、いくつかのコースに挑戦する形式。
記事監修
1925年の創刊以来、豊かな世の中の実現を目指し、子どもの健やかな成長をサポートしてきた児童学習雑誌『小学一年生』。コンセプトは「未来をつくる“好き”を育む」。毎号、各界の第一線で活躍する有識者・クリエイターに関わっていただき、子ども達各々が自身の無限の可能性に気づき、各々の才能を伸ばすきっかけとなる誌面作りを心掛けています。時代に即した上質な知育学習記事・付録を掲載しています。
『小学一年生』2019年10月号 別冊『HugKum』 構成・文⁄山本章子 イラスト⁄谷端 実