「しつけ」はなぜ大事なのでしょう
みなさん、こんにちは。
料理研究家の行正り香です。
今回は、子育て中の親なら誰もが向き合う「しつけ」について、お話しましょう。
みなさんは日々、ひとりの親として、「子供たちをちゃんとしつけなければ!」と思いながら育児をされていると思います。でも、しつけってむずかしいですよね。親の思い通りにいかないことも多くて…。私も子供たちが小さかった頃は、いろいろ悩みました。
親に重くのしかかる「しつけはこうすべき」という価値観
よく、「しつけは大事だ!」と言われるのですが、そもそもなぜ大事なのでしょうか。私は、この部分を考えてみることが大切だと思っています。
大人になった時に困るから?
生活の基本だから?
しつけがちゃんとしていないと、人に迷惑をかけるから?
いずれも、子供のしつけを考えるうえで大切なことなのかもしれません。将来のため、社会を生きるため、生活の基本という視点で、ちゃんとした大人になるようにと、しつけを考えることは大事でしょう。しかし、それだと、しつけとはこうあるべきという価値観が先に来てしまいそうで、親としては、なんだかとても重い気がします…。
「身近な人に好かれるため」のしつけに発想を転換
私はちょっと違った考えで、しつけを捉えていました。それは「子どもたちには周りの人から好かれる人になってほしい、そのためにはどんなしつけが必要だろう?」という視点です。
きちんとした大人に育てなきゃ、とプレッシャーに感じるより、「人に好かれるためには?」と考えて子どものしつけに向き合う方が、子供たちのためにもなるし、親としてやりがいを感じることができます。ちょっとした考え方の違いですが、しつけは毎日のことなので、この方が自分には合っていると思ったのです。
挨拶は基本。次に大事なのは「体が動く」こと
挨拶と体が動くこと。私がしつけでこの2点が大切だという考えに至ったのは、仕事をしていた経験が影響しています。
仕事を一緒にしたいと思うのは、人に好かれる人
昔、広告代理店で働いていた頃、「この人と仕事をしたい」「この人のこういう所が素敵だな」と私に思わせてくれた人は皆、人としての振る舞いが気持ちいい人ばかりでした。目を見てきちんと挨拶をしてくれたり、ちょっとした心遣いができたり、さりげなく声をかけてくれたり。つまり、きちんと「しつけられた人」でした。
一般的にビジネスの場では、仕事の能力が一番大事だと思われがちですが、実際に働いている中で、私はそうではないと感じていました。なぜなら、ビジネスにとても大事な「仕事が集まる」「人が集まる」要素は、必ずしも仕事の能力とは一致しないからです。むしろ、人は誰しも、人に好かれる人と一緒に仕事をしたいと思うものなんだ、と私は思っていました。そういう人の共通点を探っていくと、人としての振る舞いも良く、周りの人を気持ち良くさせてくれる。これが、しつけの目指すところだなと思ったのです。
人に好かれるにはまずは「挨拶」
人から好かれるには、何が必要でしょうか。まずは、挨拶です。人に会ったら「こんにちは」と言い、何かをもらった時は「ありがとう」と言葉で言えること。私は、子どもたちに何かを渡すときも、子どもが「ありがとう」というまで手を離さないで待っているような母親でした。
「体が動く」ことは、人に好かれる大切な要素
もうひとつは「体が動くこと」です。体が動くことは、しつけではとても大切だと考えていました。たとえば、靴を脱いだら並べる、水がこぼれたらふきんを持ってくる、ご飯を食べ終わったらお皿を下げる。これらは全て、子どもたちが体を動かさなければなりません。頭ではやらなきゃいけないと分かっていても、実際に体を動かせるかどうかは別問題だということです。だから、私は子どもたちが条件反射的にできるようになるまで、トレーニングする感覚で教えました。
広告代理店で働いていた時もそうだったのですが、誰かがお茶をこぼしても、見て見ぬふりをする人と、さっとふきんを持って来る人がいます。どちらも頭では「お茶がこぼれたらふかなきゃ」と分かっているはずですが、体がさっと動かない人は、そういう環境で育っていないのかもしれません。
トレーニング感覚で継続することが大事
ちなみに、毎日のしつけは大変なので、ひとつずつやるのがいいと思います。私も3年生になったらお皿を下げる、4年生になったらお皿を洗う、5年生になったらお皿を片付ける、そんな感じで進めてきました。子どもたちも大きくなると嫌がる時期もありましたが、それでも小さい頃からやっていたせいか、体が自然に動くようになりました。今では、私が飲んで帰ってきても、子どもたちは自分たちの食べた食器をきれいに片付けてくれています。きっと、子どもたちもきれいなキッチンの方がいいと思っているのかなと思います。
大人が待つことで、子どもは学ぶ機会を得る
しつけで、大事だと思ったことをもうひとつ。
子供たちをしつけるのは、毎日のことなので大変です。親からすると、子どもがやるよりも、自分でやった方がずっと早いのに、と思う場面がありますよね。でもそんな時こそ、ちょっと待ちましょう。大人が先に動いてしまうと、子どもたちの学ぶ機会がなくなってしまいます。片づけも、靴をそろえることも、子どもたちが自分でやるまで、じっと待つ。待つのは親の我慢が必要ですが、子どもたちが、体を動かして覚え込むまでのトレーニングだと思えば、待てるようになるでしょう。
日本人のお母さんを見ていると、子供たちにやってあげていることが多いなと思うことがあります。塾のお弁当箱を子どもが洗う家庭も少ないですよね。子どもたちは、勉強さえすれば、他のことは気にしなくてもいいという立場にいるような気もします。
子どもたちが将来、周りの人から愛されるようになるためには?その視点を忘れずに、子どもたちの魅力をつくるつもりで、毎日のしつけを考えたいものです。
記事執筆
料理研究家。福岡市出身。高校時代にアメリカに留学後、カリフォルニア大学バークレー校の政治学部を卒業。帰国して大手広告代理店に勤務しながら料理本を出版。退職後は「なるほど!エージェント」を立ち上げ、料理家としても、テレビや雑誌などで幅広く活躍中。現在は英話学習アプリ開発「カラオケEnglish」なども手がける。『19時から作るごはん』『行正り香のインテリア』(ともに講談社)など、著書は50冊以上。また、献立づくりの悩みを解決するアプリ「今夜の献立、どうしよう?」でレシピ提案やコラムや料理のコツを動画で配信している。
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取材・文/神谷加代