▶︎前編はこちら「テストや受験のためだけに勉するのはもったいない!」
自分で「作る」ことが好きだった子ども時代
音楽と数学を両立させてきた中島さんのユニークな人生の原点を教えてください。
中島 私にとっては、音楽も数学も「作る」ことが楽しいんですよね。ピアノを習い始めたのは4歳頃からですが、先生に言われたことをまじめにちゃんと練習するというより、自分で曲を作って弾いたり、即興で遊ぶのが好きでした。
松丸 4歳から創作が好きだったんですか?
中島 そうですね。小学校1年生から、ヤマハの作曲専門コースに通うようになって。1年生の発表会の時に『子犬のワルツ』という自作の曲を弾いたのを憶えています。すっごく楽しかった!
松丸 僕も、小さい頃から「作ること」が好きなんです。周りからはぜんぜん共感されないんですけど、算数の問題を作るのが楽しくて。
中島 わかります!
松丸 5、6歳の頃から、計算問題を作って3人の兄に出していました。末っ子なので、なんとかして兄たちに勝ちたかったんです。でも、電卓を使ったら解けるような単純な問題だと、相手にしてもらえない。それで、閃きが必要な算数の問題を作るようになりました。自分で驚くような解法を見つけて、兄がそれに気づかず問題を解けない時は、ほんとに嬉しかった!
中島 私も、数学の問題を作るのが好きでした。中学生の時、あるセミナー(国際数学オリンピックを目指すような中高生が集まる特別講座)に時々通っていて、そこで出会った神戸の同い年の方と、文通を始めたんです。文通といってもロマンチックな内容ではなくて(笑)、お互いに数学の問題を作って出し合っていました。
松丸 文通でそれっていいですね! 僕は算数の数のおもしろい関係に自分で気づくと、それを問題にして友だちにも出すようになったんですが、友だちがじっくり考えてその関係に気づいた瞬間が、自分が問題を思いついた時と同じぐらい嬉しくて。それが今のナゾトキにもつながっています。
中島 私は問題を解くのも好きなんです。ただ、早く正確に解くような問題にはあまり興味がなくて、ひとつの問いを深掘りして、ずーっと考えている時間が楽しかったな。
数学の力は生きることにも役に立つ
松丸 算数とか数学って勉強という枠組みで捉える人が圧倒的に多いからか、数学が好きというと「なんの役に立つの?」と言われることもけっこうあって、そのたびに頭を抱えたくなります。最近、直線的に次につながることがわかるものがえらいとされる社会になってきている気がするんですけど、危ない傾向だなと思っていて。
中島 私は、数学で養われる力って、生きることにも役立つと思っています。例えば、数学オリンピックの問題はナゾトキやゲームに近くて、直線的に考えると答えが見えない。新しい視点とか、自由な発想力が問われるんです。ああでもない、こうでもないと試行錯誤しているうちに、ヒントが見えてくる。答えにいたる道がパッと閃く人もいれば、バリバリ計算した末にたどり着く人もいて、決まったルートがない。そうやってひとつの問題と向き合って悪戦苦闘を繰り返すことで、集中力や思考力、発想力、ひいてはまだない価値や視点を生み出す自由性・本質的な創造性が養われてくる。
松丸 悪戦苦闘といえば、ナゾトキの問題を作っている時、アイデアが思いついてから1週間たっても完成しないこともあるんですよ。その1週間はつらいんですけど、遺跡を発掘するような感じで、そこになにかあると信じて考え続けることで、簡単に諦めない力も培われる。そこは数学の問題と同じですよね。
中島 数学者でも、ずーっと考えていて、1年後に「あのときのあれが…」とか言い出す人がいます(笑)。よく練られた数学の問いは、解答者の個性も活きてそれがすごくおもしろいんです。学校のテストにありがちな、問題を解くスピードが速いとか正確さという基準じゃなくて、じっくりと考えたり、アイデアや個性が活きる学びの在り方が、数学でも、それ以外の科目でも拡がるといいなと思っています。
必要なのは、「揺らぎのある遊び」
松丸 数学オリンピックでは直線的じゃない発想力が必要という話を聞いて、最近取材した空飛ぶ車の話を思い出しました。2025年の大阪・関西万博に向けて、空飛ぶ車を実現させようというプロジェクトが動いているんですけど、車を空に飛ばす時はすべて機械制御だから、標識や信号などの具体的なモノを置く必要がない。道を新しくしようと思ったら、システムひとつ変えるだけでアップデートできる。普通の道路を作るより、空のほうがよっぽど楽じゃんっていう結論になったらしくて。
中島 なるほど、おもしろいですね!
松丸 ここからがポイントなんですけど、もともとこのプロジェクトは、自動車会社で働いていた人の趣味なんです。言ってみれば遊び感覚ですよね。そこに国が注目して、今は国が支援するプロジェクトになりました。
自動車の進化って、これまでは燃費が上がったとか電気になったとか、手段でしかなかったところで。でも今、大きな革新を起こそうとしているのは、直線的に考えなかった人、少し外れた方向からアプローチした人なんですよね。これからはそういう人が求められていると感じますが、そういう人を生み出す教育って、どういうものなんでしょう?
中島 私は最近、揺らぎのある遊びが大事だという話をよくしています。
松丸 揺らぎのある遊びというと?
中島 テーマパークも楽しいけど、遊び方が決まっていて予定調和ですよね。対照的に、森や砂場で遊ぶときってなんでもありで、子どもたちはその都度、その場で遊びを発明する。うまくいくかわからないけど、楽しみながら自分なりにやってみるということがすごく大事だと思います。学校の授業でいうと、図画工作にはそういう要素がありますが、本当はほかの教科でもできるし、すべてつながっていると思うんですよね。
松丸 わかります! 僕も算数の問題を作っていた時、遊び道具を増やす感覚で、自分から次の単元を勉強したりしていました。
中島 今までの日本の教育では「遊ぶ」「作る」「試行錯誤する」という要素が少なかったけど、そこが加わると楽しくなると思うんです。なにか作ろうと思ったら、そのために自分から数学や物理、化学に触れたりして、より学びが深まるし。これからの時代に必要とされるSTEAM教育の分野でもそういうプログラムを拡げたいですね。私がテーマ事業プロデューサーを務める大阪・関西万博でも、「未来の遊び・学び・芸術・スポーツ」をテーマにいろんな催しや場を作っていく予定なので、空飛ぶ車と合わせて、楽しみにしていてください!
▶︎後編はこちら→好きなことを極めれば、きっと算数も得意になる!
プロフィール
プロフィール
東京大学に入学後、謎解きサークルの代表として団体を急成長させ、イベント・放送・ゲーム・書籍・教育など、様々な分野で一大ブームを巻き起こしている”謎解き”の仕掛け人。現在は東大発の謎解きクリエイター集団RIDDLER(株)を立ち上げ、仲間とともに様々なメディアに謎解きを仕掛けている。監修書籍に、『東大ナゾトレ』シリーズ(扶桑社)、『東大松丸式ナゾトキスクール』『東大松丸式 名探偵コナンナゾトキ探偵団』(小学館)『頭をつかう新習慣! ナゾときタイム』(NHK出版)、など多数の謎解き本を手がける。
撮影協力/フォルテ・オクターヴハウスhttps://forte-octave.jp
取材・文/川内イオ 写真/平林直己 ヘアメイク(松丸)/大室愛 スタイリング(松丸)/飯村友梨
▶︎前編はこちら「テストや受験のためだけに勉強するのはもったいない!」
▼第1回 高濱正伸先生(花まる学習会)との対談はこちら
▼第2回 宝槻泰伸先生(探究学舎)との対談はこちら
▼第3回 藤本徹先生(東大 ゲーミフィケーション研究者)との対談はこちら
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