酒粕の季節
お酒の醸造とは、麹菌が生きて活動できる寒い時期にしか作ることができないものでした。お酒の副産物として得られるのが酒粕ですから、「寒仕込み」と呼ばれる、12月~3月の4か月間しか手に入らない貴重な食材だったのです。今では大手の酒造メーカーから一年中発売され、手軽に買い求めやすくなっています。
酒粕とはお酒作りの副産物
お酒を作る工程で「搾りかす」として残ったものが酒粕です。原料となる米が、発酵作用によって糖化とアルコール発酵を経ると「もろみ」になります。これを熟成させて絞ると、液体はお酒になり、「搾りかす」が酒粕として残されるわけです。
昔ながらの手法でお酒を製造している蔵元からは、今でも冬になると発売されます。蔵元独自の味が楽しめることから、毎年この時期を楽しみに待つファンが多いんですよ。
栄養とアルコール
原料は主に米、麹、水ですが「もろみ」の発酵過程で働く酵母菌のおかげで、アミノ酸が増えています。他にもビタミンB2、B6などが豊富で、じつはお酒よりも栄養分が豊富です。「搾りかす」といっても、その旨味が古くから調味料として使われてきました。
酒粕に含まれるアルコール分は6〜8%と、ビールと同等ですから、体質に合わない方もいます。また、個人のアルコール分解能力によっては、次の日まで体内に残ってしまう場合もあり、注意が必要です。
ですが、アルコールは加熱でなくなりますから、よく煮立てることで調節することができます。78℃で3〜4分の加熱が、その条件です。湯気を手で扇いでかぐと、アルコールが含まれている時と、飛んだ後で違いが明らかですから、確かめてみてください。ただし、お酒に強い方には物足りないかもしれません。先に取り分けておくことで調節してはいかがでしょうか。
白い斑点
酒粕は時間と共に熟成が進みます。色がピンク、茶色へと変化し、柔らかくなる他、味が濃くて香りも強くなっていきます。さらに進むと表面に白い粉が吹いてくることもあります。これはアミノ酸が結晶化したもので、口にしても問題はありません。
保存方法
酒粕の熟成は、含まれている麹菌の活動によって起こるため、保存時も止まることはありません。どのような扱いが適しているのでしょうか。
常温
開封前の酒粕は、直射日光をさけて、冷暗所に置いて保存するのが基本です。
一般的に売られている酒粕の袋には、ガス抜き用の小さな穴が開けられており、完全に密封されていないものが多いです。開封後はさらに空気に触れる面積が増えることから、熟成が進み、密閉すると袋が膨らむこともあるほどです。特に夏場は熟成が進みますから、冷蔵または冷凍での保存に切り替えてください。
冷蔵
温度を低く保てば菌の活動が弱まるため、開封後でも長持ちさせることができます。
【1】100g~200g程度の小分けにしてラップに包みます。
【2】ポリ袋や密閉できる容器に入れて冷蔵庫へ入れてください。
アルコール分が飛んでパサパサの食感に変化したり、他の食品からの臭い移りを防ぐためには、2重にして密閉することがポイントです。
冷凍
冷凍すると菌は活動を一旦お休みします。熟成も止まりますから、長期間の大量保存が可能です。好きな時に取り出せるようにしておくと、季節に関わらず味わえるようになりまね。
【1】100g~200g程度の小分けにしてラップに包みます。
【2】冷凍用保存袋に入れて冷凍します。
解凍方法
自然解凍:冷凍庫から冷蔵庫に移して解凍できます。
流水解凍:冷凍時の袋のまま、流水にあてておくと早く解凍できます。
解凍しない:解凍せずに鍋に入れ、そのまま加熱調理もできます。
保存期限
未開封なら常温保存でも3か月~半年は口にする事ができます。冬に手に入れた酒粕の風味が保てるのは、夏頃までが目安ですね。開封後は2週間が期限になりますが、冷蔵庫に入れれば3か月、冷凍で1年の期限に延ばすことができます。
古い酒粕は
酸っぱい匂いや、糸をひく酒粕、溶けているもの、変な味がする場合は熟成ではなく「腐敗」です。これらの現象がみられる場合は残念ですが破棄してください。
アルコールは密閉していても少量ずつ揮発していきます。もしもパサパサ感を感じるようなら、少量のお酒に漬け、なじませるともとに戻りますよ。
どうしても使いきれない場合は酒粕風呂への活用はいかがでしょうか。
酒粕風呂
お酒には保温、保湿、血行促進効果があります。美白効果も期待できるそうですよ。お風呂上がりに湯冷めせず、深部からホカホカします。
【1】アルコールが心配な方は、あらかじめ電子レンジで50℃程度に加熱すると、飛ばすことができます。ですが、大量のお湯で薄まるので気になりません。
【2】200~300g程度の酒粕をガーゼに包みます。だしパック用の袋を使ってもいいですね。
【3】湯舟で揉みだすと、乳白色のポカポカする酒粕風呂です。
酒粕の大量消費メニュー
おいしい酒粕を、たくさん使えるメニューをご紹介します。体が温まりますよ。
酒粕の甘酒
生姜をはちみつに漬けた「生姜はちみつ」を使って作る甘酒です。風邪のひき始めに効きます。
材料
酒粕 50g
生姜はちみつ 大さじ1
水 200cc
作り方
【1】生姜はちみつは、スライスした生姜をはちみつに一晩漬ければ作ることができます。代用するなら、はちみつ 大さじ1と、生姜の絞り汁 小さじ1です。
【2】鍋に酒粕をちぎって入れます。少量の水を加えて火にかけ、溶かしてください。
【3】生姜はちみつを加え、溶かします。
【4】残りの水を加えて熱します。
アルコールが苦手な方は、アルコール臭がなくなるまで煮立てると、酔わずに飲むことができます。逆に、お酒が好きな方は早めに火から下ろせば、ほんのりと残ります。
粕汁
寒い木枯らしの季節に粕汁が食べられると、ほっこりと温まって幸せな気分になります。通常の味噌汁よりも味噌を減らして、味噌6、酒粕4の割合で合わせました。
材料
酒粕 30g
豚バラ肉薄切り 150g
ごぼう 1/4本
大根 40g
にんじん 40g
さつまいも 40g
だし 600㏄
味噌 45g
おろししょうが 10g
作り方
【1】豚肉は4㎝程度、ごぼうはささがきに、大根、にんじん、さつまいもは乱切りにします。
【2】だしを少量ボウルに取り分け、ちぎった粕汁を入れて溶かしておきます。
【3】鍋に残りのだしと、材料を入れてアクをとりながら煮ます。
【4】【2】を加えてひと煮立ちさせ、最後におろししょうがを加えて完成です。
酒粕焼き
酒粕を旨味をダイレクトに味わえるのが焼いた酒粕です。厚みによってアルコールの残量を調節できますから、体質やお好みに合わせて焼くことができます。ぜひ、蔵元から手に入れた酒粕の本領を味わってください。
材料
シート状の酒粕 適量
塊の酒粕は、ラップに包んでシート状になるまで手で広げてください。
作り方
【1】焼き網にアルミホイルを敷き、酒粕を並べます。
【2】魚焼きグリルで4分程度、トースターなら5分程度で焦げ目がつきます。
表面のアルコールは完全に飛んでいますが、口にすると中に残っているのがわかります。アルコールが苦手な方は、できるだけ薄くしてから焼くと旨味だけが楽しめますよ。
調理法が広く、保存性が高い酒粕
酒粕を利用した加工品には、奈良漬けや肉、魚の粕漬があります。酒粕の持つ風味や味が食材に移り、独特なおいしさを楽しめますね。
古来から発展してきたバイオテクノロジーともいえるお酒の醸造は、絞りかすでさえ恩恵として私達を楽しませてくれます。調理方法が幅広く、保存期間も長いので、年間を通して工夫しながら楽しみたいですね。
構成・文・写真(一部を除く)/もぱ(京都メディアライン)